第15話 未確認生物
(モンスターとの戦いにも大分慣れてきたな)
秀矢は、黙々と狩場でモンスターを倒し続けている。
戦いにも慣れ、順調にレベルアップしてるおかげか、戦闘中に考え事をする余裕が生まれた。
今、秀矢の脳裏には亜由美のアイボーの姿が映し出されてる。
実際、あのアバターを見た瞬間、思考が凍り付いた。
もしかして――と都合のいい事も考えたが、現実が甘くないことを理解してるので、一瞬でその考えを捨てた。
雑念のような考え事をしつつも、体はきちんと刃機を的確に扱い、冷静にコボルド、オーク、ローグ、バブリースライムを次々と倒す。
順応してる、と思った。
つい一時間程前まで、モンスターを1匹ずつ倒すだけで不安と焦りが付きまとっていたのが嘘のようだ。
今では、狩場に沸くモンスターには後れは取らない、と確信してる。
敵の出方を注意深く観察し、隙を見つけては射撃か斬撃か、臨機応変に対応。
これの繰り返し。
かれこれ一時間ほど刃機を振り回してるが疲労感は微塵もない。
事前に受けた説明の通り、スタミナ面はナノマシンがカバーしてるようだ。
それどころか順調に上がるレベルとステータスと戦略の幅を広げるスキルの習得によって、ハクスラゲーの序盤のように気分が高揚する一方だ。
さらに5分が経過する頃、殺気が消えた。
どうやらモンスターを全て倒したようだ。
秀矢は、辺りを見回した。
おびただしい数のモンスターの遺体が地面に転がってる。
ネザーのPVと違って、モンスターの死体は光の粒子にならない。
戦いの凄惨な爪痕が辺り一面を彩る。
それらを見ても、秀矢の感情がブレることはなかった。
視界に流れる各種ステータスの増加、スキルポイントの獲得に胸を躍らせると、亜由美の声が聞こえた。
「予想はしてたけど、改めて見直したよ秀矢。レベリングとは言え、初めてダンジョンに潜って一時間くらいで、ここまでやるなんて……私でも、ソロでこいつらを相手にしたのはレベル15だったのに」
「ピンチになったら二人がフォローしてくれると思えば、多少の無茶もできるってものさ」
「あはは。私達の出番は、なかったけど……おかげでいいものが見れたわ」
「空閑さん、今日の新人教育は、こんなところで十分でしょ。そろそろ切り上げようか」
「そうですね。それじゃ一番近いベースキャンプに行きましょうか」
「時田くんもいいかな? 誰かさんのせいで、貴重な春休みを潰したんだ」
「先輩。私から、お金をもらっておいて、そういう事、言っちゃいますか?」
「タダ働きは、ゴメンだ。ましてや一円にもならない時間外労働なんて、いくら一階だとしても願い下げだ。それに今年は、大学受験が控えてる身なんでね。今日は、新人育成というお題目があったけど、時田くんの実力も大体把握できたから、時間外労働はこれっきりにしてほしいね」
「はいはい。これだから優等生は」
時間の限りレベリングを、と考えていたが『大学受験』という言葉を聞いて、要望を出すのを止めた。
「俺も疲れたので、地上に帰りましょう」
肉体面は問題ないが、これまでの常識をことごとく覆す事象を目の当たりにし、精神が平常ではないことは自覚してたので、長光の言葉を肯定することにした。
戦いで張り詰めた緊張の糸が切れたためか、疲れがどっと出た気がした。
秀矢たち三人は、現在地から一番近い第一階層G地点のベースキャンプに向けて歩き出した。
歩き始めてから数分後、《お待ちください。総司様》と、お淑やかな女性を想起させる美しい声が聞こえた。
同時に、三人の足が止まる。
続けて《この先に未確認生物が一体。既知のモンスターの群れと交戦中です》と長光のアイボーが言った。
その瞬間、帰宅中の和やかなムードが一辺、息苦しさを感じるほど空気が張り詰めた。
亜由美と長光の顔が険しくなる。
二人の表情を見た秀矢は、アイボーの言葉が異常事態を告げてることを察した。




