第14話 既視感の正体……視点変更
「それにしても凄いね、彼は」
「でしょでしょ」
亜由美はまるで、自分が褒められたかのように上機嫌な様子。
第1階層……10年以上も情報の更新がない所謂、攻略済みの階層。
最初のベースキャンプから大分距離が離れた場所にいるため、オークやコボルドよりも格上のモンスターがひしめいてる場所だ。
一匹ならともかく複数体となれば、経験者のフォローは必須。
長光は、秀矢の奮闘ぶりを眺めつつ、二年前の自分自身を思い返す。
ダンジョンは、ゲームのような世界ではあるが、命は一つしかない。
少なくとも長光が今の秀矢と同レベルの時は、いくらバフをもらってもソロでレベリングをする能力は無かった。
仮に能力が釣り合っていても、ソロ活動は自殺行為。
側に経験者が居たとしても、自ら進んで孤立することを決して望まない。
何故ならアイボーの査定にMVPの選出はないからだ。そして経験値と報酬の分配は必ず均等。そこに個人の成果は何一つ反映されない。
補足すると、殉職者に報酬はない。故人に金を配っても無意味だからだ。
それを承知の上で、一定のレベルに達した秀矢は、ソロでレベリングすることを熱望した。
レベリングは極力、攻略済みのエリアで敗因の要素を徹底的に排除して臨むのがセオリー。
本来、ソロ活動は問答無用で一蹴する。
しかし、亜由美が秀矢の要望を後押ししたため、最大限の譲歩として、亜由美のバフスキルを必ず受けることと、何時でもフォローに入れる位置から見守ることを条件に、ソロのレベリングを許可した。
最初は、秀矢に襲い掛かるモンスター達に注意を払うも、程なくして警戒を緩めた。
何故なら、秀矢は迫りくるモンスターを的確に対処してるためだ。
その戦いぶりは、見てる者を安堵させるほど洗練されていた。
2年前の長光には出来なかった事である。
「さすがランペイジの上位勢ってところだね。アタッカーに一番大事な要素。レベル、ステータス、スキルのように明文化されたスペックを凌駕する、圧倒的なバトルのセンスを持ってるようだね」
「当然じゃないですか」
「それに、戦い方が空閑さんに似てるね。敵との間合いを冷静に見極め、チャンスをうかがう周到さを持ちながらも、攻め時となれば先ほどまでの冷静さが嘘のように苛烈に攻める。あえて違う点を上げるとするなら、彼は徹底的に意味のないアクションを起こさないところかな。無闇に威嚇、揺さぶりもしない。空閑さんは、攻めっ気が強いからね。去年の事を思うと――」
「去年の事は、いいじゃないですか」
「君達二人は、レベルが上がる度に血気にはやって、先陣を突っ走ってたからね。その度に、先輩方の胃がキリキリしてたのを昨日のように覚えてるよ」
「ああ~、やだやだ。年寄りは、すぐ昔の事でマウント取りに来るんだから」
「はやる気持ちを嗜めるのは、新人育成の一環だ」
「まあ、そんな昔の事なんか置いといて……秀矢の事で一つ、先輩に言いたいことがあります」
「ん?」
「えっと、彼が私に似てるんじゃないんです。私が彼の真似をしてるんです」
「……先ほどから気にはなってたけど、空閑さんは時田くんと知り合いなのかい?」
「はい。だって、秀矢は……私の推しだもん」
推し、と口に出した亜由美の表情は、これまでに長光が見たことが無い、とても晴れやかで眩い笑顔だった。
「私がストリーマーとして有名になれたのも、ランペイジのプロゲーマーになれたのも、秀矢のおかげなんです。……正確には、秀矢がトキヤとして投稿した、ランペイジの解説動画なんですけどね」
解説動画――亜由美が口にした言葉は、長光の中で、点と点を繋げた。
「そっか、思い出したよ。僕も一時期、ランペイジの腕を上達させるためにトキヤの……時田くんの動画をいくつか拝見したことがある。どおりで彼には、初対面という感じがしなかったわけだ」
動画に、秀矢の顔は一切映ってない。
しかし、解説のために音声があったので、一時だけど集中して耳にした声。
ただ長光が拝見した動画は、いずれもランペイジの攻略に関する動画。
尺は10分から15分。
淡々とした口調だけど、内容は理路整然としており、初心者帯を抜け出すのに大きな助けとなった。
だが、聞き慣れた動画の音声と違い、オフの口調には感情がこめられていた。
これが、長光が抱いたデジャブの正体。
不可解な感情に整理がついて、気持ちが軽くなる。
秀矢はレベリングを続けてる。
長光と亜由美は秀矢を見守りつつ、雑談に花を咲かせた。




