第145話 世界を超えた巡り合わせ……視点変更
「ストーカー。父上の言葉を忘れたの?」
「さっきまで忘れさせようとしたくせに」
「私たちが求めてるのは『同志』であって、自殺志願者じゃないわ」
「今、思い出したわ。確かにじっちゃんはそんな事、言ってたわね」
「そして先ほど、父上からのお達しで『時田秀矢と空閑亜由美を取り逃がすな』と通達があったわ」
「じっちゃん、ストーカーとは言ってないわよね? 絶対に!」
私とエロガキでは埒が明かないと思ったのか、久理田さんが「まあ、まあ」と割って入ってきた。
「つまり、我々は空閑の力が欲しい。でも、今の空閑では、その力を使いこなせない。だから当面の間、修業に励んでもらいたいって話さ」
「うーん、私にそんな潜在能力みたいなものあるの? ピンとこないんだけど」
「君の前世は、ジジイが高く評価してる大魔道士らしい。これは憶測だけど、弾薬の転送に強化と弱体化のスキルは、その一端と思われる」
「でも、修業って一体、何をするんですか? 地道にレベル上げとか?」
「そこは――お、丁度、来たな。こっちだポチ、エルフ」
久理田さんの視線がそれたので、釣られるように私は後ろに振り向いた。
ポチがフローラとイリアの二人を連れてきたみたいだ。
二人の装いは、法龍院家が用意したと思われる、ゆったりとしたワンピースを着用してる。
二人とも湯上がりなのか、肌がほんのり赤い。
イリアが行儀よく一礼する。
フローラと目が合う。
すると、フローラの満面の笑みを浮かべた。
「ジジイの話によるとこのエルフは何と、空閑の前世の実の妹らしい」
「ああん、お姉様ぁん」
「フ、フローラ様!?」
艶めかしい声と共にフローラが私に飛びついてきた。
そして、私の胸元に顔のうずめて、頭を激しく左右に振ってる。
この人は、私を生き返らせてくれた張本人だし、好意を寄せてくれてるのはわかる。
ただ、その好意がちょっとズレてるのよね。
「よかったわねストーカー。お姉様って呼んでもらえて」
「うらやましいと思うなら、あんたも呼べばいいじゃない。私は何時でも歓迎よ」
「さっきオバサンで折り合いがついたじゃない」
「ついてねェよ! 私は17歳よ!」
「私は今年16よ」
「1個しか違わないでしょうが! それでアドが取れると思ってんの!?」
――ったく、エロガキめェ。
こっちの気持ちも知らずに、何て口を叩くのよ!
「おいおい空閑、そっちの妹とも仲良しなのか。これは好都合だな」
「久理田さん、どういう意味ですか?」
「修業の面倒は、そのエルフに見てもらうことになってるから。やっぱ異世界人の事情は、異世界人に任せるのが一番だからね」
言ってる事はよくわかるんだけど……。
フローラが顔をあげた。
ひどくだらしない顔をしており、先ほどまでなかった2本の赤い筋が……ってこれ鼻血よね!?
「ちょっ! あんたっ! 服が血で汚れちゃったじゃない」
「ああッ! いけませんわ! これは、お召し物をお取替えしなければ! ささっ。今すぐ脱いでくださいな」
「それも嫌! 男の目がなくても、ここで脱ぎたくない!」
「そうそう、空閑」
「何ですか! 替えの服ですか!?」
「修業が終わるまで屋敷に逗留な。本州に帰る転移装置の権限も外しといたから」
「え!? だって! 私、配信が――」
「心配しなくていい。今、ドウボウ衆がお前の部屋から配信機材を持ち出してるところだから」
「勝手に人の部屋に入らないでください! 心配のタネを増やしてどうするんですか!」
「いいじゃねえか。複数あるんだし」
「そういう問題じゃないです!」
家主の許可なく部屋に入るのは勘弁してほしいなぁ。
たしかに私は日本全国に配信用と生活用合わせて10部屋ほど借りてる。
でもそれは、厄介ファン対策のためであって、数の問題じゃないのよ。
余計なもの見てないでしょうね、あの人達。
もしPCの履歴を見られたら、と思うと気が気じゃないわ。
機材を運ぶだけで済めばいいけど……。
「当然、異世界人であるシスターも空閑の修業の手助けをすることになった」
「そうなの、よろしくお願いします。空閑亜由美です」
「はい。イリアと申します。今後ともよろしくお願い致します、クガ様」
へえ、ちゃんとした大人の女性ね。
ん?
エロガキとイリアが見つめ……合ってる?
何だろ、ちょっとぎこちないわね。
「……あ、あの」
イリアが切り出した。
「う、うん」
エロガキが相槌をうつ。
真顔ではないけど、表情が硬い。
「お……オオババ様! 今後ともよろしくお願い致します!」
「オ、オオ、ババ……」
緊張を誤魔化すように、素早く90度のお辞儀をするイリア。
対するエロガキはというと……私の時よりも大きなショックを受けてるようだ。
それよりも、ふふ、オオババ様って。
人の事をオバサン呼ばわりしたバチが当たったようね。
「笑うな! ストーカー風情が!」
「というか、フフッ――何で、オオババなの?」
「それはな、シスター――イリアはジジイの玄孫ということが先ほど遺伝子検査で判明した」
「やしゃご?」
「ひ孫の子供だ」
「それじゃイリアは、じっちゃんプラスエロガキと血が繋がってるってこと?」
「そういうこと」
なるほど。
ひ孫の子供から見たら、じっちゃんの実子は、結構離れてるから……プフ、だからオオババ様なのね。
血の繋がった年上っぽい親戚に、そんな皺くちゃな呼び方されたら、あんな顔になるのも頷ける。
「やはり、お気に召しませんでしたか? その……ミヅキ様は、私より大分、若いのは重々承知しておりますが――」
「うん、あなたに悪気がないことはわかってる。でも――」
クックック……。
私をオバサン呼ばわりした罰よ。
いい気味ね。
ん?
いや、ここで手を緩めてはダメよ。
姉の威厳のためにも、ここはダメ押しの一手を撃たないと。
「イリア。オオババ様よりも、もっと相応しい呼び方があるわよ」
「本当でございますか!? 是非、ご指導を賜りたく存じます」
「ロリババァ、よ」
「ロリ、ババァ?」
ロリババァがお気に召さなかったのか、エロガキの顔が凄まじい形相になる。
世間知らずの箱入り娘かと思ってたのに、そういう単語は履修してるのね。
「イリア、それだけはダメよ!」
「わ、わかりました……では、ミヅキ様とお呼びします」
「それならいいわ」
「ハッハッハ、みんな打ち解けて何よりだ。この先、寝食を共にするんだからな」と久理田さんが仕切り直すように口を挟む。
そうだ。
私、修業のせいで、この島に幽閉されるんだった。
うう……せっかく彼ピが出来たのに。
「ストーカーはせいぜい、足手まといにならぬよう修業に励むことね」
「言われなくても、そうするわよ」
「その間、私が時田秀矢をじっくりと手懐けるわ」
「人の彼ピに手ェ出すんじゃねェ! エロガキがよォ!」
「ここでいくら吠えても、復帰が遠のくだけよ」
「上等じゃない! とっとと強くなって、1秒でも早く秀矢のもとに行くんだから!」
「どこへ行くの? ストーカー」
「今日はもう休む。そんでもって、明日から修業よ!」
私は逃げるように部屋の出入口に向かった。
その時、唐突にある疑問が浮かんだ。
これは張本人に聞くべき大事なこと。
私は、久理田さんの方に向いてから切り出した。
「久理田さん、最後に一ついいですか?」
「ん? 私で答えられることなら――」
「何で、私を施設に送ったんですか?」
久理田さんは思わせぶりな深呼吸をした。
「法龍院とは無縁の、普通の生活を送って欲しかったんだ」
――え?
頭も胸も、温かいものが満ちていく。
やばい、涙が出そう。
私は久理田さんに背を向けた。
泣いてるところを見せたくなかったから。
「ありがと」
一方的に感謝を押し付けると、早足で研究室を出た。




