第144話 複雑怪奇な血筋……視点変更
両想いの男女関係、という意味かしら?
何かエロガキが怖い目で、私を睨みつけてるし。
「二人の共通点は、異世界人の転生者であること」
「あー、あのことね」
フローラがベタベタしてきた時の映像が鮮やかに蘇る。
いや、まあ嫌われるよりかはいいんだけど……素直に喜べない。
それよりも、秀矢が転生者?
白衣なんか着て、いかにもな研究者なのに、何を言ってるのかしら。
でも話の流れからして、転生者と私の記憶が消されないことに何等かの繋がりはありそうね。
「二人の相違点は、肉体と魂の遺伝子融合率」
「うっ! 眠気が――」
「安心しろ。バカでも通じるように話してやる」
「はいはい」
「底辺ストリーマーのおびただしい数のスキルと2つのウルトを所持してること、これについて何か思うことは無いか?」
「秀矢が天才ゲーマーってこと?」
「……死んだくらいじゃ、バカって治らないんだな。知見を得たよ」
なんなのこの人!
ちゃんとお話するのは初めてだけど、ちょっと私に対する当たりが強すぎない?
失礼しちゃうわ。
「そうだな……こう言えばいいか。――底辺ストリーマーは、2人分のスキルとウルトを所持してると思わないか?」
「あ!? 言われてみれば――」
秀矢のスキルツリー。
凄い数とは思ったけど、10人分あったかと言われれば確実にノーと言える。
でも2人分と言われれば、納得できる数なのは確かね。
「私の見立てでは、疑似英雄詩が本来の彼のウルトで、転生者の魂が遺伝子レベルまで融合したことで発現したのが英雄叙事詩だろうね」
「何で私のウルトは、みんなと同じ1つしかないの?」
「それについては、2つの仮説がある。1つ目は、そもそも自我のない肉体だから。2つ目は、魂が憑りついた時期が遅かったから」
1つ目は理解できる。
青侍イコール自我のないクローン体だから、転生者の魂1つ分のスキルとウルトしかない。
2つ目の『時期が遅い』ってなんだろ。
「唯一産声を上げた固体、という話をしたと思うけど、その時の空閑は人間で言うところの妊娠10か月目辺り。体が大分育った時に、魂が引っ付いたから遺伝子融合率が低い」
「――で、秀矢はもっと小さな時に魂が憑りついたから、完全に融合しちゃったと」
「あくまで仮説な。大体、転生なんて事象、再現性が無いから確証を得るのは限りなく不可能だ」
何となくだけど久理田さんの言葉を聞いて、ピンと来た。
今まで生きてて、心と体がぴったり一致してる感覚にピンとこなかったけど、久理田さんの仮説を聞いて、むしろ納得できた。
「そんなわけで、空っぽの体に魂が張り付いた状態、というのが今の空閑だ。理解できたか?」
「え、ええ……でも、正しく理解するためには、もう一つ知っておくべき事があるわ」
「なんの事だ?」
「私の体の『コピー元』は誰なのか」
「バカのくせに冴えた質問だな。……さすが私、と言ったところか」
「何であなたが自慢するのよ。質問したのは私よ」
「何故なら、お前の『コピー元』は私だからだ。お前が今まで中途半端な魔法じみたスキルとは別に、射撃の腕前とかゲームセンスは超天才的頭脳を持つ私のおかげだ。感謝しろ」
久理田さんは、誇らし気に言った。
ちょっと目眩がした。
エロガキの様子をうかがう。
相当なショックを受けたようね。
誰の目から見ても明らかに、ぽかーん、としてる。
あの子、あんな顔するんだ。
可愛い所あるじゃん。
「は、母上ッ! 今の話は本当ですか!? ス、ススス、ストーカーが母上の遺伝子から生まれたのは――」
「ああ。私が言うんだから間違いない。何なら遺伝子検査をしてみるといい。同一人物の可能性が極めて高い、と判断されるから」
「そ、そんな……は、初耳です」
「さっきまでは言う必要が無かったからな」
「あ、青侍は、歴代のサムライのクローン体ではないのですか?」
「それは技術が確立した後の話だ。当然、開発の過程には無数の試作品がある。わかるな? 巳月」
「はい」
「で、技術が確率する前のサムライの細胞は貴重でな。おいそれと使うわけにはいかない。だから最初は、手近にある研究員の細胞を使ったんだよ。その中の一体……いや一人が空閑だ」
恐る恐るエロガキに目を向ける。
ヤバいものを見るような目をしてるエロガキと目が合う。
当たり前よね。
私でも激しく動揺してるのに、エロガキは困惑してるに違いない。
ちゃんと整理しよう。
久理田さんのお腹から生まれたのが、エロガキ。
そして私は、久理田さんのクローン体。
……嘘でしょ?
い、いやまあ……ゴクリ。
改めてエロガキをマジマジと見る。
黒くて艶やかで美しい姫カットの黒髪は、照明でキラキラ輝いてる。
クールな目つきにちょっと子供っぽさのある顔立ち。
透明感のある素肌に薄い唇は、お人形さんみたい。
背丈は私よりも小さくて、華奢で、無愛想で危なっかしいけど、なんかこう……守ってあげたくなる弱さを秘めてるような女の子。
うん、可愛いのは認めわ。
漫画でよくみる委員長タイプのキリッとした美少女。
そんな子が……私の……。
当然、私の胸の内なんてわからないエロガキは、今も私を異端扱いするような目をしてる。
無理もないわよね。
離婚した親が突然再婚して、この人が今日からお父さんまたはお母さんよとか兄弟姉妹よ、と言われて気が動転する感じよね、きっと。
私は天涯孤独の身だから、そういうのとは無縁だけど。
天涯孤独だった、と言い直してもいい……のかな。
エロガキは何か口をもごもごしてる。
話の切っ掛けを見失った感じよね。
私だってそうだ。
それに……考えると、このまますんなりと仲良くってわけにはいかないわよね。
そもそも、エロガキは躊躇なく人を殺せるヤバイ奴だし、何より私の彼ピに目を付けてる泥棒猫。
うん。
見た目に惑わされたら駄目よ。
簡単に気を許すわけにはいかないわ。
「だ……だって、す、ストーカーで母上……だと……」
「そのどっちでもないわよ」
「言われてみれば……巳月と空閑、お前達二人は遺伝学的には親子だな。涙より笑いを誘うけど」
「母上! 笑い事ではありません」
「母上と言われても、どっちの?」
「……生みの親の母上です」
「これ、ちょっと面白いな」
「久理田さん。私を母上の1人にカウントしないでください」
「ややこしいストーカーね」
「うっさいわね! せめて、お……お姉ちゃん、と呼びなさい!」
「お、お……」
え!?
まさか本当に読んでくれるの?
「オバサン」
「何でよ!?」
「これでも、譲歩してあげたのよ」
「どういう思考回路してたら、こんな超絶美少女をオバサン扱いできるのよ!」
「母上のクローン体であれば姉妹みたいなもの。だから伯母さんじゃない」
「ぐぎぎ……このォ、エロガキがよォオオオオオ!」
「あはは。喧嘩するほど何とやらって奴だな」
「「違うわよ!!」」
「僅かなズレもない恐ろしく正確に息がピッタリじゃないか」
「「ううっ……」」
さっきまでの、もにょもにょする緊張感が嘘のように消し飛ぶ。
「何はともあれ、これで空閑の肉体と魂の現況が整理できたわけだ。よかったな」
「なんか、嬉しくないです」
「最新の戦闘データは、さっきのシュミレーターでの戦いで十分だし、これで修業の準備は万端というわけだ」
「修業……?」
エロガキが真顔になる。
ううっ、私はどんな顔すればいいのか、まだわからないのに、この子は平気なの?




