第143話 失敗作……視点変更
「凄いな、あの異世界人。粒子加速器でシェイクしても復活するぞ。こいつは、人体実験し放題だな。クックック――」
部屋に入るや否や、聞き覚えのある声で不審な言葉が聞こえた。
ハッキリ言って逃げ出したい。
「母上、連れてきたわ」
また母上!?
その母上は、エロガキの声に応じるように、白衣をまとった人がスッと立ち上がり、こちらに振り向いた。
――いや、あの人は、どうみても久理田さんでしょ。
「ふーん、話には聞いてたけど、本当に生き返ったんだな。空閑」
私が生き返ったことに少しだけ驚いてるのか、久理田さんは目を丸くしてる。
「おかげさまで……えっと、それより母親ってどういう事ですか?」
「私のこと?」
「はい。そもそもエロガ――巳月は、女中さんに片っ端から母上って呼んでたから、気になっちゃって――」
誰でも気になるわよね。
それに、じっちゃんの奥さんは人間じゃない。
エロガキの言う『母上』が何を指してるのか、知りたくなるわ。
「うーん、そうだなぁ……どこから話せばいいのか迷ってたから丁度いいな。空閑も、これから法龍院家と深く関わることになるし――」
「は、はい」
なんだろう。
久理田さん、人体実験がどうこう言ってた時に比べて、少し寂しそうな顔してる。
エロガキは、ただ私たちの様子をじーっと見てる感じね。
あれ?
ポチの姿が見えないわね。
この部屋に入ってきてないのかしら?
それよりも、私が『法龍院家と深く関わる』とはどういう意味なんだろ。
そもそも、私はここで生まれたはず。
立派な当事者なんだから、最初から知る権利はあるわよね。
よし!
覚悟は出来た。
久理田さんから話を聞こうじゃない。
「私は、巳月の生みの親だ。当然、相手はジジイだ」
「それじゃあ、明美さんや他の女中さんは育ての親という意味なの?」
「あー、明美さんは正妻で、他の人は妾だ。妾の意味……分かるか?」
「分かるわよ。正妻以外の妻でしょ?」
妾については、悪役令嬢物で履修済みだからね。
「そうそう。あのジジイ、令和になった今でも、戸籍に妾の記載があるんだよ」
「はぁ、凄い、ですね」
よくわからないけど、その場のノリで口にした。
「そんなわけで巳月にとって、この屋敷に滞在する大半の女性は、母親なんだ」
なるほど。
つまり、エロガキの言う『母上』は、一般人のソレと同じ意味でいいみたいね。
有効範囲が常識外れだけど。
「母上についてはこれで終わり。空閑、次のトピックに移るぞ。何せジジイからは『空閑の出生について、全てを話せ』とのことだ」
じっちゃんから?
という事はつまり、法龍院家のトップが私に色々と隠し事をしてたという事よね。
ううっ……改めて言われると緊張しちゃうわね。
「ジジイからの命令だ。嫌だと言っても、聞いてもらうぞ」
「望むところよ」
「次は、空閑の誕生秘話だな」
「長光先輩から、私はクローン人間の可能性が高いことは聞きました」
「へえ、知ってたんだ。なら話が早いね」
「否定しないということは、事実なのね」
これはちょっと嫌、かな。
何か気分が悪くなってきた。
「端的に言うと、空閑はある意味で『失敗作』なんだ」
「はああああ!? し、失敗作!? 普通、そういうのはこう、もうちょっと優しく言いませんか!?」
「私はさっき『嫌だと言っても、聞いてもらう』と言ったはずだ」
「だ、だからって――」
「これでも、今の空閑に、自分の在り方を正しく認識してもらうのに、必要な言葉を選んだだけだ」
「あの、言ってる意味がわからないんですが――」
「うーん……そうだ! これは……底辺ストリーマーとの違いをきちんと理解する上で必要なんだ」
底辺ストリーマー?
ああ!?
秀矢のことね。
確かに秀矢はプロストリーマーに比べてチャンネル登録者数もライブの視聴者数も少ないけど、他のゲーマーと違って、物凄く実益のある動画を出してるもん。
それに私が生き返ったことだし、しかも恋人だから、カップル配信でもすれば絶対に数字が伸びるわ。
……うちの事務所の許可が下りたら、だけど。
最悪、コラボ配信で我慢するかな。
お互い、邪魔者がついてくるけど。
「落ち着いたようだな」
「そうね。少なくとも、私の出生に推しがどう絡むのか、興味が湧いたわ」
「よしよし。では、冷静になるためにも、1つクイズだ。青侍と人間の違いは何だ?」
「自我があるかないか」
「正解。当然、人間は自我、自由意志がある。反対に、青侍にはそんなものはない」
「そうね」
「で、空閑はクローン人間だ。でも、自由意志がある」
「そうよね……あっ!?」
自我が無い青侍が『成功』なのだとしたら、自我のある私は『失敗』になる。
「その顔、気づいたみたいだな」
「だからと言って『失敗作』って読んだことを許したわけじゃないわ」
「私は見ての通り、理系なんだ。文学なんて、クソ食らえだっての。試験問題を読み解く以上の国語力はいらねェのよ」
「被害者面して正当化しないでくださいよ」
「そういうわけで本来、試験管の中でただただ培養されるだけの物言わぬ人肉を造ってる最中、唯一産声を上げた固体――それが空閑亜由美。君なんだ」
「何と言うか、語彙力と出自の二重で衝撃的です」
「話はまだまだ終わらない。先ほど挙げた底辺ストリーマーと空閑。――お前達には、共通点と相違点がある」




