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第139話 誰がために戦うのか

「また動画を見てニヤニヤしてるわね。時田秀矢」


「休憩中だから別にいいだろ。これが俺の戦う理由なんだから」


「何か見覚えのあるシーンだけど、この前と同じ動画を見てるの?」


「仕方ないだろ。せっかくアイが復帰したのに、配信ペースが週1になっちゃったんだから」


「……それが同じ物を見る理由なの?」


「推しのアーカイブは何度視聴してもいいものなんだよ。それに、こんな真夜中の山のふもとじゃあ、スマホ以外の娯楽はないだろ」


「それもそうね」


「せっかくの機会だから言っておく。俺は、正義とか世界の平和なんてどうでもいい。亜由美が、アイが、化け物に怯えることのない日々を過ごしてもらうために、ここにいるんだ」


「それで結構よ。正義、世界平和、人類救済……甘ったるい綺麗ごとは法龍院家(わたしたち)の領分。義勇兵(ボランティア)にそこまで望まないわ」


《時田様。暇を持て余していらっしゃるなら、是非とも巳月お嬢様のお相手をお願いします。幸いにも、辺りは人気がないため、盗聴盗撮のご心配は要らないかと――》


「何でポチはことあるごとに、そっち方面に誘導すんだよ」


「私の懐妊が法龍院家(わがや)の最優先事項の一つだからよ」


「今は、そんな気分じゃない」


「つれないわね……でも諦めないわよ」


 8月第2週。


 時間は、深夜12時過ぎ。


 秀矢と巳月の二人は、モンスター討伐任務のため、本州のいずこかにある山のふもとに来ていた。


 法龍院家の衛星がモンスターの姿を捉えたので、討伐しにやってきたところだ。


 帯同者は、3体の青侍。


 いずれも黒い鉄板に、法龍院家が開発した黒の空調服を着用してる。


 ちなみに秀矢と巳月も、同様の空調服を身に着けてる。


 街中なら目立つが、今は人目のない山のふもと。


 秘匿性より快適性を優先したためだ。


《巳月お嬢様、時田様。どうやら目標が動き出したようです》


「数は?」


《検知したのは、3体です》


「それなら私とポチで十分ね。時田秀矢――」


「わかってる。第三者が来ないかどうか見張る、だろ」


「よろしい。それじゃ行ってくるわ」


 ポチと巳月が夜の闇に消えた。


(こんな真夜中に山登りするバカがいるとは思えないけど、今の俺が出来ることは隠ぺい工作しかないからな)


 今の秀矢には、刃機がない。


 理由は、秀矢の刃機の形状が銃刀法違反に抵触するためだ。


 日本は、いかなる理由があろうとも武器の携帯は違法。


 そのため、秀矢の刃機は地上で振るうことができない。


 ちなみに巳月の主力武器である護符。


 そして刃機のポチは、大型犬のペットロボット。


 どちらも一目では武器に見えないため、地上での運用に支障がない。


 秀矢は刃機がお預けの理由を聞いた瞬間、法龍院家は初めから地上での戦いを想定していたのだろう、と思った。


 反対にサムライは、ダンジョン探索がメインであり、地上での戦いは想定外。


 だから、わざわざ武器に見える刃機を用意したのだ、と。


 ちなみに義勇兵(ボランティア)に参加してから一か月余り経過する中、秀矢はモンスターと戦ってない。


 隠ぺい工作に不満はない。


 モンスターの存在を隠し通すことは、平和の一助となる大事な仕事だから。


 幸いにも活動の不満点は、武器が使えないことだけ。


 現場までの移動は、日本全土に設置された転移装置と現地の送迎が用意されてるので、ストレスフリーでタイパも良い。


 自宅から北海道、沖縄に行くまで30分もかからない。


 夏休みのおかげもあって、現場と時間帯によっては任務終了後に観光も出来る。


 そしてモンスターは今のところ、人里から遠く離れ場所にしか出てこない。


 廃墟、過疎地、樹海、山奥、無人島――それでも第三者が居た場合は、記憶を消去した上で安全な場所に移す。


 無論、所持してる電子媒体からの記録も同時に削除する。


(人間どころか野生動物の姿もないな……ん?)


 アラートの通知を受け取る。


 付近のモンスターを検知したようだ。


(数は、既知のモンスターが1匹。周囲に第三者の気配はない。それなら、今の俺でも対処できるな)


 秀矢はスマホをジャケットの内ポケットに仕舞う。


士道開眼(しどうかいげん)!」


 義勇兵(ボランティア)には、リミッター解除の権限を与えられてる。


 但し、刃機がないため、その恩恵は身体能力の向上に留まり、ダンジョンで猛威を振るった各種スキルとウルトは使えない。


「お前達、対象を駆除しろ」


 秀矢は、青侍に命令を下す。


 青侍達は何も言わずに飛び出した。


 少し間を置いてから、秀矢は青侍達の後を追いかけた。


 モンスターには素手で応戦もできるが、それは青侍達が全滅した時の奥の手。


 初手は、刃機を携帯してる青侍達をぶつけるのが定石。


 約100メートル程、移動した先に、手足が異常に長い熊を発見。


 相も変わらず、常識から嫌な方向にズレた姿に辟易する。


 地上に沸くモンスターはダンジョンとは違い、一目見ただけで嫌悪感を抱くほど、いびつでおぞましい造形。


 それはまるで幻想絵画から飛び出してきたクリーチャーである。


 熊の骨格を霊長類に無理矢理変えたようなモンスターは、3人の青侍達によって瞬く間に無残な姿となった。


 戦闘が終わってからすぐに、死骸から無数の紐状の黒い煙が立ち昇り、そのまま闇に溶けるように死骸が消えた。


(目撃者はゼロ。電子機器の類もない。これなら細工は無用だな)


 青侍の存在は、戦闘はいわずもがな、隠ぺい工作にも寄与してる。


 まず第三者に目撃された場合、青侍達を不審者として扱える。


 普通の人間から見れば青侍は、鉄板で顔を隠してる怪しい出で立ちに凶器を所有した危険人物に映る。


 つまり、モンスターとの戦闘ではなく、不審者同士の諍いとして処理できる。


 では青侍がモンスターとの戦闘で機能不全に陥った場合、どうするのか。


 結論から言えば、隠ぺい工作に支障はない。


 むしろ、好都合となるケースがほとんどと言える。


 何故なら『遺体』が発見されれば、他殺か自死、場所によっては害獣被害として処理できるため。


 当然、法龍院家の圧力は政府、報道機関、捜査機関、民間のSNS運営会社まで及んでるため情報操作はお手の物。


 クラウドサーバー上にあるデータは消去し、SNSに公開されたデータはAIを駆使して細工を施す。


 現にこれまでのモンスターが関連する被害の大半は、青侍の遺体で殺人事件として報道されてる。


 かくして法龍院家の尽力によって、モンスターの存在を闇に押し込められ、人々が平和を享受している。


 しかし、被害者の数は、日を追うごとに増加の傾向にある。

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