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第135話 アイの告白

 秀矢は無数のデコイと共に、亜由美が潜伏してると思われる建物に向かった。


 次の瞬間、銃声が耳を劈く。


 読み通り、一発で全てのデコイに当たるように散弾を撃ってきた。


 不可避の弾幕(モータルバースト)を使ってくれれば御の字なのだが、そこまで愚かではない模様。


 無論、秀矢は自身の体を物陰に隠してるため無傷。


 しかし、散弾の雨を掻い潜りながら、無傷で亜由美のもとに向かうのは至難と言わざるを得ない。


(仕方がない。これは疲れるけどハチの巣になるよりかはマシか)


 秀矢は、建物の窓から見て180度にデコイを展開するように移動した。


 デコイは単調な動きしかできない。


 ただただ秀矢が体を動かした時に、エーテルの力で立体映像として留めた残像が最後の一動作をするだけの儚い存在。


 だから、超スピードで遮蔽物に身を隠しつつ、わざと大回りをしながら建物に向かってる。


 いくら散弾でも180度、全ての敵を一撃でダメージを与えることは不可能だろう。


 現に、銃声はいくつも聞こえるが、被弾したデコイの数は約2割。


 消えた分のデコイは、すぐに補充するので問題ない。


 そして無事に、建物の入口に到着した。


「アイボー、周囲に罠が無いか調べてくれ」


《今回のバトルフィールドには、トラップの類はありません。但し、対戦相手のスキルによるトラップの可能性はございます。ですが、そのような仕掛けの探知は現在禁じられておりますので、お調べになりたい場合マスター自身の能力で解決してください》


(亜由美のスキルに、そういうのあったかな。うーん、今更ながらシュミレーターはフェアかと思ったけど、もしかして俺の方が不利じゃないか? いや、思い出せ。初日に1度だけスキルツリーを見せてもらったはず。そこには射撃系とバフ、デバフ系はあったけど、トラップのスキルはないはず。いや、あるならそれで構わない)


 考えに考え抜いた末、秀矢が導き出した結論は、罠があったとしても突っ切ること。


 ここで一番のロスは、英雄叙事詩(ヒーローモード)の時間の浪費と判断した。


 但し、通路には細心の注意を払うこと。


 退路を意識しながらも、素早く通り抜けること。


 何故なら、逃げ場のない場所で不可避の弾幕(モータルバースト)を打ち込まれたら詰みだから。


 ここは亜由美の潜伏してる建物。


 それくらいの札は用意してるはず。


 秀矢は駆け足で3階に向かった。


 そして、銃身に反射する光が見えた窓のある部屋の前に着いた。


 扉の前に立った瞬間、撃たれる。


 そう考えた方がよさそうだ。


 秀矢は、エーテル弾を扉に撃ち込んだ。


 弾が着弾し、ドアが吹き飛ぶ。


 そのままドアを盾にして部屋に入る。


 部屋の中には、ショットガン型刃機を構える亜由美が居た。


 その姿を見ただけで、熱いものがこみ上げる。


 亜由美と、アイと、こうして向き合う事は、もう二度と無いと思ってた分、感慨深いものがある。


 亜由美は窓際に立ってる。


 その近くの机には、長い銃身のようなパーツがある。


 狙撃に用いたアタッチメントだろうか。


 部屋のレイアウトは典型的なオフィスで、机と椅子が整然と並べられており、端にはコピー機、ゴミ捨て場、ハンガーラック、冷蔵庫、電子レンジが置いてある。


 亜由美との間には、障害物は無いが机と椅子のせいで走り回るのは難しい。


「待たせたかな、アイ」


 秀矢が切り出す。


 亜由美は少しだけ表情を綻ばせた。


「いやあ、全然。なんなら、もう2分くらい後なら、もっとよかったかな……トキヤ」


「アイにしては珍しく芋ってたからね。だから1秒でも早く会いたくなったんだ」


「言ったでしょ。私は、本気で勝ちに行くって」


 亜由美は不敵な笑みを浮かべた。


 おかしい、と秀矢は思った。


 予想では、英雄叙事詩(ヒーローモード)の時間切れを狙って亜由美は銃で牽制しながら逃げる、と踏んでいたからだ。


 しかし、今の亜由美は逃げ出す様子がない。


 人差し指は引き金にかけてるが、まさかウルトの時間中に真っ向勝負を受けるつもりだろうか。


 記憶が正しければ近接戦闘が不得意のはず。


 この距離なら詰め寄るのに秒も要らない。


 そう。


 そのはず。


 散弾が銃口から発射される前に、斬り伏せることができる。


 秀矢は亜由美に切りかかった。


 一瞬の内に亜由美の傍に詰め寄り、刃機を振るう。


 任務初日の時に比べて、剣速は格段に向上してる。


 だからこそ、至近距離から繰り出す斬撃に対抗できるはずがない。


 ――が、秀矢が振るった刃機は空を切った。


 亜由美は見事な体捌きで秀矢の斬撃を躱したのだ。


「へへっ、エロガキが言ってたでしょ? 最新のパッチが当たってるって」


 ――バージョンは、つい先ほど配信された最新版。


「最新版ということは……まさか!? 俺とディオスとの戦闘記録が反映されてるのか」


 銃口が向けられた。


 すぐに身をよじる。


 銃声と共に散弾が発射され、オブジェクトが破壊された。


 すかさず斬り返す。


 亜由美は間一髪のところで身を躱す。


 その動きは恐ろしく洗練されてる。


 その証拠に、亜由美の顔色には焦りが見られない。


 二人は至近距離で一進一退の攻防を繰り広げる。


「そういうこと。だからさ、並の剣捌きなら、どうにかなるかなって思ったの。これも秀矢のおかげだけどね」


「忘れてたよ。戦いのノウハウは共有されるんだった」


「サムライは、私が一年先輩だからね」


「うっ! やっぱ不公平だ」


 数時間前の、ディオスと繰り広げた常軌を逸する剣戟。


 疑似英雄詩(キルマシン)――つまり、秀矢の能力にAIの超反応を掛け合わせた状態で戦ったデータがフィードバックされてることを意味する。


 つまり、今の亜由美は疑似英雄詩(キルマシン)状態の秀矢の剣技にすら対応できるので、AIの超反応が無い英雄叙事詩(ヒーローモード)なら尚更だ。


「勇者を相手に疑似英雄詩(キルマシン)を使ったの。強くなるため、でしょ?」


「ああ。よくわかったな」


 勝ち筋のない状況で疑似英雄詩(キルマシン)を使った理由は、亜由美の指摘通り。


 卓越した剣術と自分の実力を遥かに凌ぐ強者に殺意が無いなら、訓練に使えると踏んだ


 当然、ディオスとの戦いは、最初から敗北を織り込んだつもりはない。


 疑似英雄詩(キルマシン)を使って、それでディオスを討てたなら、それで構わないとも考えていた。


「ここ三か月、相棒として、ずっと一緒にいたからね。『推し』の狙いは、わかるわよ」


 秀矢の体に衝撃が走る。


 動揺した精神を持ち直すため、距離を取った。


「私がね、ランペイジうまくなれたの……秀矢の、推しの動画のおかげなんだよ」


 亜由美は銃を下ろした。


「……」


 聞き間違いではない。


 推しの御口からハッキリと、自分の事を『推し』という言葉が紡がれた。


 頭の中に楽園が広がり、全身が歓喜で打ち震えた。


 あまりの感激で涙が零れそうになる。


「さすがにリスナーを敵に回したくなかったから、動画とかコラボイベントでは言えなかったんだけど――」


 当たり前だ。


 同じ箱の異性でも疎まれるのに、接点のない異性の動画を推したらタダで済むはずがない。


 何故なら、秀矢自身も、推しが異性の動画に熱を入れてる姿なんて見たくない、と切望してるから。


 ただ、それが自分自身とは思いもよらなかった。


 コラボは何度かしたことがあるが、そんな素振りはなかった。


 幸福感は満たされた。


 だが――人は、欲が深いもの。


 推しとリスナーの距離感を見誤ってはならない。


 自戒のような理性で包み隠してた本心が心臓に強く訴えかける。


 仮想現実でありながら亜由美の顔がとても眩しく見えた。


「い、今! 私の口から言えるのは、ここまで」


「もう、お腹いっぱいです」


「ダーメ。私には、まだまだ秀矢に伝えたいことがいっぱいあるの」


 亜由美は目つきが鋭くなると同時に、銃口を向けられた。


 緊張感がみなぎる。


「だから、絶対に離れたくないの!」

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