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第136話 アイへの告白

 咄嗟に真横に動く。


 散弾の射程外から逃れるように。


 銃声が鳴る。


 足先に何かが掠めた。


 痛みはない。


 秀矢は、猛然と斬りかかる。


 亜由美は、天井に銃口を向けてから、引き金を引いた。


 再び銃声が鳴る。


 天井は破損してない。


 どうやらバフをかけたようだ。


 振り上げた刃機を下ろそうとした、その時……亜由美の姿が忽然と消えた。


 亜由美は、窓のサッシに足をかけてる。


 ビルから飛び降りるようだ。


(逃がすか!)


 亜由美が窓から姿を消した。


 追いかけるため、秀矢も窓から飛び降りた。


 3階の高さから飛び、雑に着地する。


 膝関節への負荷を感じない。


 マップを開く。


 一度、亜由美を視認したためか、亜由美の位置が映し出されてる。


 思ったより距離は離れてないようだ。


 秀矢は亜由美を追いかけた。


 亜由美の背中が見えた。


 追跡する秀矢を牽制するように、亜由美は銃を撃ってきた。


 秀矢はどうにか回避行動をとるが、散弾のせいか完全回避とはいかない。


 しかし、追跡に支障はない。


 秀矢も負けじとエーテル弾で応戦するも、亜由美には当たらない。


 ゲームでは高い起動力をほこる回避系キャラを扱うだけあって、実戦も似たような戦法が得意な模様。


 亜由美がビルの中に入る。


 罠を張る暇はないはず。


 秀矢もビルに入る。


 つかず離れずの距離のまま、亜由美は階段を駆け上がる。


 追跡の最中、違和感を覚える。


 ウルトが切れてないのに何故、亜由美に追いつけないのか。


 ウルト中は、身体能力を底上げするパッシブが全て解放されるため、単純な走力は秀矢の方が上。


 しかし、現実は距離の差が縮まってない。


 階段を駆け上がる足音が消えた。


 廊下に出る。


 亜由美の後ろ姿が見えた。


 この距離なら不可避の弾幕(ウルト)を使う猶予はないはず。


 秀矢は追いかけた。


 先にいる亜由美がドアをショットガンで破壊し、部屋の中に入る。


(おかしい。何で亜由美に追いつかないんだ)


 一瞬、立ち止まり思いを巡らせる。


(……もしかして、俺が遅くなってたのか)


 亜由美は射撃スキル以外にバフ、デバフのスキルが使える。


 考えられる事は、速度が低下するデバフをかけられた上に、亜由美自身には速度が上昇するバフをかけた。


 これなら、全速力で追いつけない事に納得ができる。


 背筋がゾクリとした。


 秀矢は慌ててマップを開く。


 亜由美を示すマークは、ビルの外にある。


(しまった! そういう事か!)


 次の行動に移ろうとしたその時、ビルが微かに揺れた。


 続けて、ドアが壊された入口から、無数の銃弾が撃ち込まれた。


 床に転がる弾に目をやる。


 弾の大きさは、人差し指くらいの長さに直径は約3センチメートルくらいのようだ。


 当たって欲しくはなかったが、答え合わせが終わった。


(このビルもろとも俺を倒すつもりか!)


 不可避の弾幕(モータルバースト)の光景を思い出す。


 亜由美の周辺にショットガン型刃機が複数現れて、一斉掃射。


 不可避の弾幕(モータルバースト)の細かい仕様まではわからない。


 もし、このビルを無数の銃で取り囲み、アンチマテリアルばりの弾丸を一斉掃射できるなら、銃火器を想定してない建物を瓦礫にかえるなど容易だろう。


 加えてに仮想現実での1オン1。


 フレンドリーファイアはおろか、跳弾による二次被害も、建物の倒壊や誤射で第三者を巻き込む心配もいらない。


 現実ではタブーとされる無茶な戦術を躊躇う必要はない。


 侮っていた。


 不可避の弾幕(モータルバースト)の真価は、閉鎖空間のンジョンではなく、開けたフィールドでこそ発揮される。


 このままビルの外に出たら、間違いなくハチの巣になる。


 だからといって、ビルの中に留まっていても同じ末路を辿るに違いない。


 建物の倒壊よりも早く、弾を打ちぬかれて敗北となる。


 壁に亀裂が入る。


 天井がたわむ。


 もはや一刻の猶予はない。


 目を開ける。


 辺りは暗い。


 辛うじて刃機を振り回すスペースはあるようだ。


「アイボー、マップを開いてくれ」


《はい、マスター》


 マップが映し出される。


 亜由美を示すマークを確認して、すぐに閉じる。


(勝負はついてないようだな……どうしたものか)


 ここは、倒壊したビルの地下。


 秀矢は賭けで、刃機で床を破壊しながら地下に直進して、地下の頑丈そうなところに避難したのだ。


 そして運よく、降り注ぐ瓦礫と銃弾を凌いだ。


 英雄叙事詩(ウルト)の残り時間は数秒。


 天井を押してみる……が、ビクともしない。


 目が慣れる。


 周囲を見渡す。


 大小、様々な瓦礫を見て、胸をなでおろす。


 天を仰ぐ。


 無策で飛び出したら、間違いなく亜由美に狙われる。


 勝負がついてないことは承知のはず。


 だから、銃を構えて待機してるはずだ。


 しかし、このままここに居たら瓦礫に押し潰されるのは時間の問題だろう。


 この瓦礫を打ち破るには、全てのスキルが使える今しかない。


銀華一刀(ぎんかいっとう)!」


 周囲の瓦礫を全て薙ぎ払う強力な剣技を放つ。


 辺りの瓦礫が粉々になる。


 天井から光が差し込む。


 秀矢は光に向かって跳躍した。


(居た!)


 地上に詰み上がった瓦礫を吹き飛ばす。


 そして、飛散する瓦礫を盾にして、亜由美に斬りかかる。


 銃声が鳴る。


 痛みはない。


 瓦礫が銃弾を防いだのだろう。


 亜由美に向けて、容赦なく刃機を振り下ろす。


 ――が軽やかな身のこなしで避けられた。


「あれでもダメだったか。結構がんばったんだけどね」


 亜由美の銃口がこちらに向く。


「だろうね。これまで亜由美(きみ)と戦った中で、一番ヤバイと思った。負けを覚悟したよ」


 散弾を当たらぬように安全マージンを意識しながらの回避行動。


 剣と銃が織り成す円舞曲の再演。


 仮想現実でありながら、凛然と戦う亜由美の姿に見惚れる。


 心拍数と体温の上昇を自覚する。


「それじゃあ、まるで『ゲームだと相手にならない』って言ってるようなものじゃん」


「チームメイトに恵まれただけさ」


「それ……余計、傷つくんだけど」


「結構だ。俺は、何としてでもこの戦いに勝たなきゃならないんだ」


 どう思われようとも構わない。


 勝てば記憶から消える。


 自分一人の思い出になるだけ。


「何でよ! 私の事が邪魔なの!?」


「逆だよ」


 この気持ちに気づいたのは、亜由美の手を取った時だった。


 自分は、空閑亜由美のことを好きであると。


 でも、好きだからこそ危険から遠ざけたい。


 そのためなら嫌われてもいいし、なんなら、これまでの関係を壊すことに躊躇いはない。


 それなら、もういっそのこと全部ぶちまけてしまおう。


 勝てば、配信者とリスナー、プロゲーマーとしてのライバル関係に戻るだけ。


 それでいい。


「言っただろ。俺は、アイの厄介ファンだぜ。推しからちょっと優しい言葉をかけられただけで、ガチ恋勢になるくらいによ」


「!? ガッ……ガチ恋勢!? ほ、ほんと!?」


「ああ。俺は、アイが……空閑亜由美が大好きだ」

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