第134話 探り合い
戦いの火蓋が切って落とされたようだ。
ゲージが満タンになってる。
秀矢はまず、2つの課題を挙げた。
1つは、亜由美に見つからないように行動すること。
2つ目は、このシュミレーターの仕様を把握すること。
亜由美はショットガン型刃機を取り扱う中長距離を得意とするアタッカー。
しかし、秀矢はショットガン型刃機の仕様や亜由美のスキルの詳細までは知らない。
下手に、リアルのショットガンと同じ50メートル前後で戦ったら足元をすくわれかねない。
装填する弾、スキルやバフによって、射程が伸びることは考慮して然るべき。
だから、射程は亜由美の方が長い、という前提で戦うことに決めてる。
故に、亜由美に先手を取られることは敗北も同然。
それだけは避けなければならない。
その上で、シュミレーターの仕様の把握に務める。
調査するべきポイントは主に2つ。
エリア外に出ようとしたらどうなるのか。
バトロワ系の様に、試合を有利に運ぶアイテムの類が存在するのか。
マップの上面図は開く。
現在地はわかるが、亜由美の位置は隠されてるようだ。
秀矢は物陰に隠れ、射線を切る意識をしながら、足早にエリアの端に向かった。
エリアの端に到着する。
道中、アイテムの類は目にしなかった。
試しに雑草を引き抜くと、そのまま消失した。
リアルの市街地に都合のいいアイテムはない。
ゲームに出てくるライフ回復、アーマー、サブウェポン、パワーアップアイテムのような試合を有利に運ぶアイテムは無いものと見てよさそうだ。
次に秀矢は、エリアとエリア外の境を刃機で突いた。
切っ先が境界に触れた瞬間、強力なバネの力に弾かれたように、刃機が押し戻された。
今度は、拳を突き立ててみる。
同様に、強い弾力で戻された。
痛みはない。
ゲームのように、エリア外にいるとスリップダメージが発生するような仕様は無いみたいだ。
シュミレーターと銘打ってるだけはある。
スポーツのように、運の介入する余地はあまりなさそうだ。
それなら、亜由美の行動だけ注意を払うのみ。
なるたけ射線が通り辛い、ビルの中を身を置く。
しかし、待ちの姿勢ではジリ貧になるため移動は止めない。
見つかる前に見つけて、奇襲をかける。
これが亜由美攻略の勝ち筋なのだから。
(しかし、この広いエリアで動く標的を見つけるには、どうしたものか……)
時間の心配はいらない。
仮想現実とはいえ神経が磨り減る感覚を覚える。
その要因は様々だが、つまるところ亜由美が見つけられないストレスに集約される。
ゲームならば時間経過と共に有効エリアが縮小するので、戦闘が避けられない仕様となっている。
しかし、残念なことに、今やってるのはシュミレーター。
エンターテイメントではなくリアルの戦闘行動に寄せてる。
二人が遭遇しないなら、無慈悲に時間を浪費するだけ。
もし、実際の戦闘で戦いもせず、いたずらに時間を浪費するとどうなるのか。
時間経過と共に、無関係の人間の屍が積み上がるのは想像に難くない。
だがゲームなら混比べに持ち込み、痺れを切らして飛び出してきたところを討てばいい。
しかし、時間経過で有効エリアが縮小するかどうか不明な場合、射程で負けてる相手に待ちの姿勢はリスクが大きい。
索敵範囲は射程の長さに応じるものだから。
もし敵が索敵用のスキルを所有してるなら尚の事。
(仕方がない。リスクは承知だけど――)
秀矢は、あえて身を晒すことにした。
遮蔽物のない車道を悠然と歩く。
次の瞬間、数十メートル先のアスファルトのごく一部が削れた。
直後、銃声が聞こえた。
ロングレンジからの狙撃。
射程の有利を容赦なく押し付けてきたところを見るに、本気で勝ちに来てるようだ。
「アイボー、デコイをヘッドショットした奴の位置を割りだせ」
《かしこまりました》
それを物陰から見てた秀矢は、亜由美の位置取りをアイボーに計算させた。
車道を悠然と歩いてた立体映像のデコイの頭部を貫いた弾道と射角、音速を超えた弾丸によって、亜由美の大よその位置は割り出せると踏んでいた。
《算出が完了しました。マップに射撃の位置と時間経過による移動予測範囲を映します》
約600メートル先にあるビルにピンが打ち込まれ、そこを中心に円が描画される。
ここからは、遮蔽物に隠れながらピンの方に移動。
別の遮蔽物に移動する際、デコイを表示。
表示するデコイは1人分のみ。
大量に出せば、不可避の弾幕の餌食になりかねない。
しかし1人分なら、本物と誤認させられる。
(弾切れは無いと思うが、無駄撃ちさせて損はないよな)
秀矢はデコイを見せつつ、亜由美の狙撃位置に向かって移動する。
数秒後、銃声と共にデコイがヘッドショットを受ける。
どうやら亜由美もこちらに近づいてるようだ。
痺れを切らしたのか。
それともデコイを見て、狙撃では埒が明かないと判断したのか。
どちらにしろ秀矢にとっては好都合。
マップの狙撃位置を示すピンの位置が更新される。
約300メートル先。
ピンに向かって移動する。
エーテル弾の有効射程は約20メートル。
実弾の半分以下と非常に頼りないため、近寄るしかない。
ある程度、距離を詰めてから英雄叙事詩を発動し、全パッシブスキルの解放と同時に、インファイトに持ち込む。
もう1発、デコイに狙撃することを切に願う。
細心の注意を払いながら近づく。
息を止め、足音を殺し、周囲の気配を探りながらの移動。
体力よりも神経が擦り減る。
マップには、ピンと円以外に付与された情報はない。
亜由美の位置情報は、おそらく亜由美を目撃しない限り映し出されないのだろう。
(さて、亜由美はどう出るのか――)
秀矢は物陰に隠れ、周囲の気配をうかがいながらも、ある事を考えた。
それは、もし自分が亜由美の立場なら、どのように勝ち筋を作るのか。
どこに狙いを定めるのか。
いくつかの手立てが浮かぶ中、ある懸念を抱く。
今の状況は、亜由美の手の内ではないのか。
(いや、それでいい)
今は、互いに勝機を手繰り寄せてる最中。
決着をつけるためにも、体を晒すことは必至。
でなければ、自分の位置を明かす狙撃を2度もやるはずがない。
おそらく短期決戦になる。
互いに抱えてる手札を熟知してるのだから。
だが、先に相手の位置を掴んだ者が優位なのは間違いない。
(亜由美なら距離を詰めるために、俺がウルトを使うことは読んでるはず)
秀矢にはそれ以外の択はない。
足を動かす。
周囲を警戒。
刃機を握りしめる。
デコイを配置。
物陰に隠れる。
様子をうかがう。
その時、ある建物の3階の窓際の1点がキラリと光った。
ショットガン型刃機の銃身に光が反射したのだろう。
このシュミレーターには、自分と亜由美以外に動くオブジェクトはない。
(推しの誘いなら乗るしかねえよな)
――英雄叙事詩起動。




