第126話 懇談
「待たせたな、お前達」
法龍院家の屋敷にあるサロンの大きなテーブルを6人のサムライと4人の異世界人で囲んでる。
ポチは、巳月の側でお座りの姿勢で待機してる。
そこに蛟牙が遅れてやってきたところだ。
巳月以外のサムライ衆が居る理由は、蛟牙に『就労時間内だから残れ』と業務命令を受けたから。
いつもの和室ではなくサロンに集まってるのは、蛟牙の要望で『ディオス達の世界には、床に座る文化がないから』と『この部屋ならライブ翻訳の設備が整ってるから』という2つの理由がある。
地上に帰還し、蛟牙がサロンに来るまでの間に、異世界人4名の滅菌処理と亜由美の着替えは済ませている。
「80年ぶりだな、コウガ」
「おうおう、立派なジジイになったじゃねえか」
「二人は、相変わらずだな」
「コウガ。酒は、まだか?」
「夜まで待ってろ。とっておきのを出すからよ」
蛟牙、ディオス、ハルマ、久方ぶりに顔を合わせた三人は楽し気に挨拶を交わす。
少ししてから蛟牙は上座の席に腰を下ろした。
「じじい、一体、何の話があるんだ」
荒川が不満げに言う。
「そういうな、荒川。彼らを屋敷まで連れてきた報酬も出すから、少しだけ年寄りに付き合ってくれ。それより――」
蛟牙は訝し気に、亜由美の方に目を向ける。
「報告にはあったけど、空閑。お前、本当に生き返ったんだな」
「何で疑いの目を向けるの!? ワイバーンゲーミング所属の紅一点、収益トップクラスの私に向かって、その言い草は無いんじゃない?」
「アレは、有望なサムライ候補者を探すための会社だから、採算なんてどうでもいいんだ」
「ひどッ!?」
「それに交流の頻度で言えば、生前も死後も大して変わらん」
「まあ私も生活スタイルが変わった程度にしか思わなかったしね」
「とりあえず空閑は、来週から戦線復帰ということで、改めてよろしくな」
「まっかせなさい!」
「それと会社と学校、その他関係各所には、もう手を回してるから、明日からは配信活動を再開しても構わんぞ」
「さっすが、じっちゃん! 約三か月ぶりの配信が楽しみだわ」
亜由美との話がひと段落つくと、蛟牙は在席者を一瞥した。
それだけで、場が静まり返る。
旧知の仲がいるというのに、空気が張り詰めてる。
「まずはサムライ衆の諸君、無事で何よりだ。ディオス、ハルマ。まさかジジイになって再会するとは思わなかった。ここはわしの屋敷だ。自分の家だと思ってくつろいでくれ」
「善処するよ。貴族の屋敷みたいで落ち着かないけどさ」
心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべるディオス。
「言われるまでも無い。異世界の意匠、存分に堪能させてもらうぞ。コウガ」
恵比須顔で応じるハルマ。
「そちらのご婦人方は、新顔だな。わしは、コウガ=ホウリュウイン。ディオスとハルマの元パーティメンバーだ。よろしくな」
フローラとイリアは男性陣と違って、物々しい雰囲気を醸してる。
2つの奇跡的な再会があった直後だと言うのに、妙に緊迫した空気になってるのは、この二人のせいだろう。
「私の名前は、フローラと申します」
「これはこれはご丁寧にどうも。あなたのことは、サムライ衆からうかがっておりましたが、こうして顔を合わせるのは初めてですな」
「奇遇ですね。私も顔を見るのは初めてですが、あなたの事をクロリスお姉さまからのお手紙でよーくご存じですわ」
フローラが席から立ち上がった。
怒りを笑顔で誤魔化してる表情をしてる。
一方、蛟牙はというと『クロリス』という言葉の直後に、眉をひそめた。
「う゛っ! あのドケチ女に妹がいたのか」
「生前、お姉さまはディオス、ハルマ、そしてコウガの三人の金遣いの荒さに悩まされておりましたわ」
流れ弾が当たったことを察したのか、ディオスとハルマも固まる。
「高難易度クエストをクリアして得た高額報酬をたった一晩で使い切る豪遊っぷりに、いつもお姉さまは泣かされておりましたわ」
「おお、泣くほど嬉しかったのか。あやつ、俺たちにはきつく言っておきながら、可愛いやつめ。お前達、こういうのを俺達の世界では、ツンデレという。覚えておくといい」
「ツンデレ、か。なるほど。これでまた一つ、ニホンゴの学びを得たな」
「ふーん、今度かみさんがブチ切れた時に使ってみるか」
ディオスとハルマは、新たな知識にご満悦の様子。
「んな、わけないでしょうが! あんたら三人のせいで、お姉さまは常に路銀不足に悩まされ、日々の寝食に大変苦労なされた様子。うう――」
「そんなこというけどな。クロリスだって、時と場所を考えずに強力な魔法をぶっ放したおかげで、城や街の修繕費で高難易度クエストの報酬が秒で消し飛んだときもあったぞ」
「何を言ってるの? お姉さまのやることは全て正しいのよ。正義なの。むしろ、お姉さまの魔法を浴びることで、建築物から芸術品へと昇華したことに感謝なさい!」
「……まあ、いいや。フローラ、おれんちは壊すなよ」
「それは、あなた次第よ。もし、私のお姉さまに不埒な真似をしたら、こんな木造建築物なんて一瞬で消し炭にしてやりますわ」
「俺は、素人に手を出す趣味はねえよ」
フローラはどかっと椅子に座る。
「お隣の……その首飾りは、レムリア教の信者か」
蛟牙の言葉に合わせるかのように、イリアがスッと立ち上がる。
頭には、頭髪を隠すかの様にベールをかぶせたまま、蛟牙を見据える。
「どうした? 言葉がわからんか? フローラとの会話を見てわかると思うけど、遠慮なく自分の国の言葉で話しても大丈夫だ」
イリアは静かに目を閉じた。
そして、ゆっくりとお辞儀をすると、意を決したかのように目を開いた。
「私は、イリアと申します」
「わしは、コウガ=ホウリュウイン。よろしくな」
「コウガ、あなたにお訊ねしたいことがあります」




