第122話 不老不死の勇者
「酷い顔だな。心配してくれたのかい? でも、案ずる事は無い」
笑顔に相応しい柔らかな口調。
それが自分に向けられた言葉という認識だけはした。
「あの通り、父上の友人は不死身なの。だから、気に病むことはないわ。何せ、生き返った本人がそう言ってるんだし」
《不死身って、私達が戦ったボスと似たようなものじゃ――》
「アレとは違う。あなた達が倒したのは、ひとの姿を真似した化け物で弱点があった。でも、あいつは違うわ」
「酷いなぁ、ボクは人間だよ。ただ不老不死の呪いを受けてるけどね」
ディオスの声音には、わずかに自嘲が込められてる。
――不老不死。
この言葉は、秀矢に安堵と絶望をもたらした。
人殺しという禁忌を冒してないことと、不老不死を相手に勝ち筋が見出せないこと。
それは『亜由美を生き返らせることが不可能である』という、秀矢がもっとも恐れていた結論を否が応にも叩きつけられた。
打ちひしがれてると、視界の右端に通知が出た。
そこには『法龍院家の呪いに関する情報が解禁されました』と一文が表示された。
頭に血がのぼる。
(るせぇ!)
八つ当たりをするように、通知を消した。
「それにしてもトキヤだったかな。正直、驚いたよ。まさか異世界人である君がボクと同じ力を使えるなんて」
「だろうな。斬りかかった瞬間、てめえの間抜け面が見えたからな」
「ボクの呪いに配慮してくれたのかな」
「呪いなんて知るか。光魔斬は、てめえのビビらせるために使っただけだ」
秀矢は背筋をのばし、刃機を構えた。
「ハッハッハッ! あの小僧。もしかして、お前さんよりも強ェんじゃねえか?」
「いいねェ。あんな、とっておきがあるなんてね」
「でも、アテが外れたな。あの力ですら死んでも死にきれねえか」
「みたいだね、ハルマ」
ディオスの笑顔が癪に障る。
苛立ちで全身が湯だつ。
(不死身ってだけで、諦めきれるかよ)
秀矢は、サムライ衆に向けてボイスチャットをオンにした。
「みんな。俺は、足掻けるだけ足掻くよ」
返事がない。
そう思った次の瞬間、「わかったわ。……でも、私は降りるわ。悪く思わないでね」と巳月から応答があった。
「ああ。ここからの戦いは、俺のワガママだ。付き合う必要もないし、付き合わせるつもりもない」
「それなら、気が済むまで戦ってきなさい。動けなくなったらポチに運ばせるから」
「そのつもりだ。……みんなは、俺が無様に戦う姿をのんびりと観戦しててくれ」
ボイスチャットをオフにする。
「降参するつもりは、ないみたいだね」
ディオスが剣を構える。
「もう少しだけ付き合ってくれ、アイ」
喉の奥から声を絞り出した。
申し訳ない気持ちでいっぱいで、アバターにすら合わせる顔が無い。
《しょぼくれた声で言われても困るわよ》
「……」
《……》
「一緒に戦ってくれ、相棒!」
《オッケー!》
推しの快諾で気合が入る。
(たとえ無理ゲーでも、このまま引き下がれるかよ!)
「全身全霊をかけて、ボクを殺してみな」
ディオスは笑顔のまま、他人事のように言った。
「ああ、遠慮はしねえ。お望み通り、ぶち殺してやるよ! チート野郎!」
――英雄叙事詩、起動。
タネは割れてる。
だから、残りのゲージを全てウルトに注ぐのみ。
刃機の引き金に指をかけた。
「光雷散弾!!」
先端の銃口を中心に、バチンという音と共に、稲妻が放射状に発射された。
稲妻はディオスの全身を貫き、その奥にいるハルマ達の近くにまで及ぶ。
「ちょっとー、勇者なら私達の身を守ってよー」とフローラが要求を出す。
「まったく、オレ達の命は一つしかないんだぞ。お前さんと違って」とハルマが続く。
「大丈夫、大丈夫。食らってみた感じ、ハルマ達でも死なないよ……多分」
「そうか。頼むから巻き添えだけは勘弁な」
「ボクはこっちで手一杯だし、そういうのはイリアに任せるよ」
「は、はぁ……私は構いませんが――プロテクション!」
イリアが叫ぶとハルマ、フローラ、イリアの3人を覆う青白い結界が出現した。
「不死身ならともかく、ダメージすらねえのかよ」
秀矢はひとりごちる。
「悪いが、並の魔法はボクには通用しない。少し痛いけどね」
「見りゃわかるよ」
「それじゃあ、ボクの方も――聖なる力!」
ディオスの剣が白い輝きを放つ。
《まるっきり同じスキルじゃない!》
「野郎ッ! 意趣返しのつもりかよ」
「同じ力の使い手に会うのは、初めてだからね。ちょっと嬉しくなったのさ」
「気持ち悪いな」
「こっちの話だよ」
ディオスが構えをとる。
秀矢は応じるように刃機を構えた。
そこから約1分間。
両者の剣戟が薄暗いダンジョンを幾度も明滅させた。
秀矢は最大限の力とスキルを容赦なく、それこそ命を取るつもりでディオスにぶつけた。
対するディオスは、秀矢の剣捌きをことごとくいなす。
ただ、これまでと違うのはディオスが反撃を繰り出した事。
それもただの反撃ではない。
「「十文字斬り!!」」
「「清流剣!!」」
「「光魔斬!!」」
秀矢が持つ種族特攻系の剣スキルと全く同じスキルでディオスが斬り返してきた。
まるで当てつけのようだ。
だから、切り替えることにした。
「無刃斬月!」
無数のホログラムと共にディオスに斬りかかる。
――が、実体を瞬時に見破ったのだろう。
ディオスは一切迷う様子を見せず、本物の刃機のみを剣で受けた。
立て続けに銀華一刀、疾風刃と様々な剣スキルを繰り出すもディオスには通じなかった。
そして光の力の衝突が織り成す煌めきが終わりをむかえた。
勝負の前から『ディオスは強い』という予感はしていた。
ただ、ここまで力量の差があるのは想定外だった。
まるで初心者と上級者。
単純な力だけでなく、技術も経験も何もかもディオスに遠く及ばないことを痛感する。
激しい剣戟の末、全てのゲージを使い果たした。
「降参する?」
ディオスが声をかけてきた。
英雄叙事詩が切れたのを察したのだろう。
「嫌だね」
しかし、今の秀矢に降参はあり得ない。
ただただ推しのためだけに剣を振るうのみ。
雑念を捨て、思考を止め、神経を研ぎ澄ます。
――ディオスを倒す。
その一点に、集中する。
肉体と思考が切り離されたような錯覚に陥る。
――疑似英雄詩作動。
ディオスが一瞬だけ顔をしかめる。
《やっちまいな、トキヤ》
悟りの境地を感じさせる穏やかなトーンの亜由美の言葉は、秀矢には届かなかった。




