第119話 交渉
「ディオス様、私の聖獣はいかがなさいましたか? 姿が見えないようですけど――」
「すまない、イリア。ちょっと彼らに、してやられてね。身動きがとれなくなったから、この中に仕舞ってきた」
ディオスは手の平に収まるほどの黒い水晶を白い修道服の女性――イリアに渡した。
すると、今度はムッとしたフローラが口を開いた。
「ディオス、やっぱり宝箱は無視しちゃダメじゃない。あの通り、短命一族共に取られちゃったわよ!」
「なら君が盗賊の技を習得すればいいだろ? ボクは謎解きが苦手なんだ」
ディオスは穏やかな表情で受け答えをする。
「奴らに情報提供したのは、貴様だろ」
「余計な事を言うんじゃない。ガキのくせに」
ハルマのぼやきに、小声で返すフローラ。
「してやられたのは、こっちだよ。ディオス」
長光は扉に親指を指しながら切り出した。
「その仕掛けは、力押しではビクともせんぞ。オレの錬成魔法で作った壁とイリアの防御魔法を何十も張り重ねた逸品だからな」
ハルマが言った。
「ちなみに防御魔法の触媒には、あなた方の拠点の資材を利用させていただきました。術を施しやすい金属で大変助かりました」
イリアがお辞儀をする。
「結界を強化するための特殊合金が裏目に出たようね」
巳月が冷淡な口調で言った。
「それはそうと、お前さん。オレに嘘をついたな」
「何だよハルマ。おっかない顔して」
「件の不可視の力、気配を注視すれば、どうにかなるとか言ってたけど、話が違うじゃねえか!」
「そうよ、そうよ。何の予兆もなかったわよ」
「私も警戒してましたが何の前触れもなく突然、動けなくなりました」
「つまり、そういう使い方も出来るってことか。すごいな、コウガの世界の連中は」
「感心してる場合か!」
責め立てられる三人に対し、ディオスは全く意を介さない様子。
しかし、ディオスはこちらに対する警戒を一切緩めてない。
「ハルマ。あの子がコウガの子供だ」
「わかってるよ。まあ、気づいたのはつい先ほどだけどな」
「な? 嘘はついてないだろ?」
「それとこれは別だ」
《エロガキ。扉の先にある邪魔な岩はどうにかなんないの?》
「解除はできるわ。時間があれば、の話だけどね」
《どれくらいかかるのよ》
「少なく見積もって、彼らが悠長に昼寝でもしてくれたなら」
《申し訳ございません、空閑様。彼らの術式は、巳月お嬢様の術式と大きく異なるため、どうしても解析に時間がかかります》
どうやら退路はないようだ。
「当然、お宝を見逃す程、ボクはお人好しじゃない」
ディオスは剣を抜いた。
長光が口を開く。
「よく僕たちだと気づいたね。あの一瞬で」
「君達とは一度、出会ってるからね。まさか、お宝を背負ってくるとは思ってなかったけど」
「それにしても、僕たちの拠点の破壊と帰り道を塞ぐのは、度を過ぎてると思うけどね」
「謝罪するつもりはないよ。お宝を手に入れるためにやったことだからね」
「杖を見せた覚えはないよ」
「ボク達は、その杖を1度使った事があるからね。だから、杖が放つ魔力の気配を覚えてたのさ」
「大した記憶力だね」
(杖を使ったことがあるのか)
ディオスの言葉に秀矢は興奮を覚える。
ディオスと戦い、杖を使い方を聞き出せば、亜由美を生き返らせることができるからだ。
「なあ、物は相談だけど、その杖をボク達に譲ってくれないか? そしたら、見逃してあげるよ」
ディオスが長光に提案する。
「戦って諦めさせる、という手もあるけど」
「うーん、友人の知り合いに手荒な真似はしたくないんだけどなあ。でも、このまま引き下がるわけにもいかないし……そうだ! こういうのはどうかな? ボクを『まいった』と言わせる事ができたら見逃してあげるよ。……何なら殺しても構わない」
ディオスの言葉で空気が張り詰める。
「何を驚いてるんだい? もし、コウガがまだボクのことを友人と想ってくれてるなら、きっと君達にこんな頼み事をしてるはずだ。……『ボクを殺せ』と」
ディオスは爽やかな笑顔を浮かべてる。
声音と雰囲気のギャップで、不気味さが際立つ。
先ほどまでの昂ぶりが嘘のように体が冷えた。
秀矢は、すがるような想いでハルマ達に目をやる。
ディオスの言葉を聞いたはずの三人は平然としてる。
「もちろん、君達の相手をするのはボク一人だけ。他のメンバーは見物人だ。いいな? お前達は手を出すなよ」
「わかってる、わかってる。みなまでいうな」
ディオスとハルマは雑談をしてるような調子だ。
秀矢は、サムライ衆の顔色をうかがう。
長光、荒川は動揺が隠しきれてない様子。
日下部は明らかに顔色が悪く、唇が小刻みに震えてる。
顔色が変わらないのは、巳月だけ。
「長光総司。相手は、ああ言ってるけど」
「……」




