第118話 待ち伏せ
「おおッ! あれがディオスの話にあった冒険者たちか」
泣き止むハルマ。
「ひいいいいいいいい、も、申し訳ございません。あなた方の拠点を破壊する悪事に加担した事は、この通り、この通り、謝ります。ですから、どうかお許しをぉぉぉおお――」
ハルマと入れ替わるように、白い修道服の女性が首飾りを掲げながら、平謝りしだした。
「どうもお久しぶりです。フローラ嬢」
長光がフローラに話かける。
「あんた、アイはどうしたのよ? 声は聞こえるのに、姿が見えないじゃない」
「あの後、色々とありまして、今は彼の武器の中におります」
話を振られた秀矢は渋々、刃機をフローラに向けた。
《お久しぶり、フローラ》
「……」
フローラは真剣な眼差しを秀矢の刃機に向ける。
「おい、フローラ。オレの耳にはハッキリと『あの時』と聞こえたが、どういう意味だ? あのひよっこ共の知り合いなのか?」
ハルマに声をかけられたフローラがハッとなる。
「え、えっと、それは……手分けして杖を探してた時に、お世話になったというか、助けてもらったというか――」
「――で、ひよっこ共がもってる杖はなんだと思う?」
「アスクレピオスの杖です」
「だよな……さて、そこのひよっこ共の頭目よ。その杖で何なのか知ってるのか?」
「死者を蘇らせる杖、とフローラ嬢からお聞きしました」
フローラが居心地悪そうにしてる。
「だって、短慮で短命で短所だらけだから、言っても大丈夫かなって思ったんだもん」
「全く、ライバルになるかもしれない奴らに、お宝の話をするとは」
「……たかが300程度の小僧のくせに」
「おう。言いたい事はハッキリいったら、どうだ。クロリスみたいに」
「はいはい、すみませんでした。私が悪うございましたよ」
「まったく可愛げも大人気もない奴だな――!?」
ハルマの顔が強張る。
「ハルマ様、いかがさな……あれ?」
「う、動かない」
フローラと白い修道服の女性、二人は動揺したためか目を大きく見開いた。
困惑する三人を前に、不敵な笑みを浮かべる長光。
「三人で盛り上がってるところ悪いけど、お先に失礼するよ」
長光が扉に向かって歩き出す。
「仕掛けてたのかよ、リーダー」
「まあね」
「長光さん、俺達に黙ってるなんて人が悪いですね」
「黙ってたのは悪かったよ。でも、ディオスの仲間となれば、一筋縄にはいかないだろうと思ってね」
ディオスが超能力の起こりを察知してた事を思い出す。
「違和感を感じない程の微力で全身をゆっくりと包み込んでから、一気に締め付ける。さすがね、長光総司」
「恐れ入ります」
サムライは皆、三人を素通りする。
長光が扉に手をかける。
しかし、扉が開かない様子。
「長光さん、早く開けてくださいよ」
「おかしいな、開かないぞ」
「超能力の使い過ぎで疲れてるんじゃないですか? 代わりますよ」
秀矢が扉に手をかける。
扉は2センチほど開くが、そこで止まる。
開けようとしても、巨大な重しに引っかかってるようだ。
「まさか!」
秀矢は後方に目を向ける。
「獲物が通る道に罠を張るのは、狩りの定石だろうが。ひよっこ共」
ハルマが不敵な笑みを浮かべてる。
「どけ! 時田!」
強い力で押し出された。
秀矢を押し退けた荒川が扉にストレートを放つ。
だが、扉には傷一つつかない。
扉の先にある巨大な重しも動いてない様子。
「動くなよ、若造」
ハルマが地面に右手を付ける。
長光の注意がそれたため、超能力の戒めから解放されたようだ。
ハルマの右手についた地面がひとりでに盛り上がり、姿形を整え、巨大な斧へと変貌した。
そして、巨大な土塊の斧をこちらに放り投げてきた。
凄まじい速さで飛んでくる斧を日下部のハンマーが叩き落す。
「ふぅ、危ないわね」
「おいおい、随分と生きのいい娘だな。まったく……怪我だけで済ませてやろうと思ってたのに」
ハルマは再び地面から巨大な斧を作った。
「助けていただいた事には感謝してます。ですが、その杖だけは見過ごすことはできません」
フローラが突き出した手の平から、いくつもの火の球が射出される。
「ポチ!」
《はっ!》
巳月とポチが日下部の前に出る。
火の球が迫りくる。
――が、火の球がこちらに来ることはなかった。
まるで巳月の目の前に見えない壁が張ってあるようだ。
《玄武みたいね》
「そういや動画で見たな」
刃機のゲージを防御に全振り、任意の範囲に強力無比の結界を張る形態。
シールドと呼称する通り、ポチは身動きが取れないため、巳月がポチを担ぐ。
その代わり、玄武形態の結界はゲージが続く限り、大抵の攻撃を寄せ付けない。
先週見た巳月の動画では、玄武形態の結界内で悠然とモンスターを観察し、適切な攻撃手段を取っていた。
観察してる間、全方位から攻撃を受けたが全て結界が防いだ。
その時は、巳月を包み込む球体の結界を張っていたようだ。
火の球が止むと同時に、ハルマが巨大な斧を持って襲い掛かってきた。
「テッポウか!?」
ハルマが驚愕すると同時に、秀矢が刃機から射出したエーテル弾がハルマの右手の甲に直撃。
ハルマの右手から巨大な斧が離れた。
上り階段の扉を背に、ハルマ達と対峙するサムライ。
日下部、巳月、ポチも少し退いて、体勢を整える。
「あーあ、やっぱりダンジョンの土じゃダメだな。さっきの拠点の金属が恋しいわい」
「ハルマ様、使ってしまったものは仕方ないですよ」
「くう、泣けてくるなあ」
「泣き言かオッサン。珍しいな」
その声を聞いた瞬間、サムライ衆の顔に緊張が浮かぶ。
「お前さん、来るのが遅くないか」
「はは、悪い悪い。でも、間に合ったみたいだね」
余裕のある笑顔を浮かべるディオスが姿を表す。




