第114話 警鐘
「時田くん、はやる気持ちは抑えてね」
「わかってますよ」
宝箱の開封を終えた長光と合流する。
E型サイコアームズの手には、アスクレピオスの杖が握られてる。
杖は今、サムライ衆の注目を浴びてる。
口を固く閉ざしてた日下部ですら例外ではない。
外観は、蛇が巻き付いてるだけの杖。
――にも関わらず肌感覚で、その杖が尋常ならざる物であることを理解した。
それは神聖な場所で飾られている工芸品、芸術品、重要文化財といった類とは一線を画してる代物。
一目見て、外観ではなく内包された力に畏怖の念を覚える。
実在する神や仏を杖の形にしたもの、とでも言えばいいだろうか。
サムライ衆は、ただただ無言で杖を眺める。
「こんな、お宝は初めてだよ」
長光がポツリと言った。
「死者を蘇らせるって話ですからね」
秀矢は、何となく話を繋いだ。
「ねえ、この杖であみちゃんが生き返るの?」
《エ、エルフの話ではそうだけど》
杖に圧倒されてるのか二人の声が上擦ってる。
「リーダー、時田。アスクレピオスの杖が、とんでもない代物ってのはわかった。疑いの余地はない。しかし、使い方はわかるのか?」
「僕は知らないよ」
「俺もわからないです」
荒川の疑問に、長光と秀矢は明確な回答ができなかった。
「ひとまず異世界に詳しい父上に渡すのが最善ね。ここで私達があれこれ話をしても進展なさそうだし」
巳月の言葉に、秀矢は不安を覚える。
「じいさんに渡したら、報酬に換金されそうで嫌なんだけど」
「サムライの給金とは別に、怪異空間の拾い物は全て研究対象になるもの」
「うーん、でもなあ――」
「この杖が常軌を逸してる品であることは、あなたでもわかるでしょ?」
「ああ」
「この杖はいわば不発弾みたいなもの。私達がここで適当にいじくりまわして、うんともすんとも言わないだけならいいけど、下手すると私達の身に危険が及ぶ可能性もあるわ。実際、怪異空間から持ち帰った宝を研究したことで命を落とした者もいるし」
「マジかよ……それじゃ研究の結果、使い方がわかったら貸してくれるのか?」
「私から父上にお願いするわ」
(……オーパーツみたなもんだし、ここは巳月を信じる他ないか)
一考するも巳月の言葉に怖気づいて、食い下がるのを止めた。
「お嬢の言う通り、この杖は僕らが無闇に扱わない方がよさそうだね」
「でも、この杖からは、死者蘇生を納得させられるほどの力を感じるのは確かよ。それこそ三種の神器、古代の遺物、妖刀、秘宝、オーパーツ……いわくつきの品々に引けを取らないほどの力がね」
長光、荒川、日下部の三人はピンときてない様子。
秀矢も『三種の神器と同じくらいの力』と言われても、いまいち腑に落ちない。
《神社の飾り物やオンボロ道具と、この杖を同列に並べるのはおかしくない?》
「では、死者の魂を現世に留めるスマホの存在は、どう説明するのよ」
《言われてみれば、たしかに――ハッ!? エロガキにしてやられたわ》
「空閑さんとお嬢、意外と仲いいね」
「笑えない冗談ね、長光総司」
《さかりのついたエロガキなんて、お断りよ!》
「ほら、二人とも気が合うじゃん」
《「ふん!」》
亜由美の姿は見えないが、語気からして二人が同時にそっぽ向いてる姿は容易に想像できる。
「みんな、スゴイお宝を発見したけど、今日の任務はまだまだ終わりじゃないよ」
長光が言った。
「長光さん、せっかくだし今日は切り上げませんか?」
秀矢は懇願するように言った。
「ダメだ。まだ、お昼を過ぎたばかりだし、大して消耗してない。これで帰還したら、僕たちの命が危ないよ」
「ううっ……ここまできて、おあずけですか」
「僕だって、こんな代物を持って、ダンジョンをうろつきたくないよ」
「何ですか、その意味深なセリフは――」
「この杖が非凡なのは、ご覧の通りだ。僕たちですら、杖の存在感に目を奪われるくらいにね」
「そうですね」
「当然、僕たち以外の者を引き付ける可能性がある」
「そんな、まさか――」
「そうちゃん、もしかして2年前の事を話してる?
「うん。当時見つけた、いくつかの宝の中に、強力な何かがある物があったでしょ? この杖に比べたら格段に弱いけど」
調子を取り戻した、と思った矢先、真っ青になる日下部。
「物凄い数のゾンビに追いかけられたわよね。もう映画のワンシーンみたいに――」
「あれは本当に酷かった」
どうやらトラウマが再発したようだ。
スゴイお宝は回収しただけでリスクがあるようだ。
宝箱の報酬が3段階に分かれてる事に納得する。
「僕たちには、この杖を放棄する、という選択肢もあるけど――」
「それは却下です」
秀矢は長光の言葉を強く拒否した。
「今のところ、回収のつもりだ」
「邪魔立てする奴らは、俺がぶっ倒します」
「頼もしい限りだね。まあ僕も力の限り頑張るつもりだ。空閑さんが蘇るなら、それに越したことはないしね」
「ありがとうございます」
秀矢は周囲を見渡した。
日下部、荒川、巳月の顔色をそれとなく見やる。
賛成も反対もしない。
表だって反対する者がいない事に、秀矢は安堵する。
「時田くん、これだけは言っておく。もし、杖のせいで僕たちの命をおびやかす事態に陥った場合、杖を放棄する」
「……」
《了解です。長光先輩》
答えに困窮する秀矢を横目に、亜由美が明るい口調で応じた。




