第108話 M1911
《え? 嘘でしょ……》
亜由美の声が震えてる。
荒川の刃機から二人の様子を見たに違いない。
亜由美の声に続いて、秀矢、日下部、長光の三人はそれぞれ、ディオスと巳月が対峙が見える位置に素早く移動する。
目を疑った。
その光景は、おそらくサムライ衆の誰もが予想だにしなかったと断言できる。
それほどまでに強い衝撃を受けた。
ディオスと巳月。
二人が対峙するところまではいい。
問題は、ディオスの得物。
剣は鞘におさめられたままだ。
「こういう時は確か……動くな! と言ってたかな」
ディオスは朗らかな表情で言った。
それが余計に不気味さを際立たせる。
相対する巳月は、ディオスの得物を突きつけられてるにも関わらず、力強い表情をたもっていた。
「あなたのこと、奇妙な男とは思ってたけど……」
「思ってたけど?」
「まさか、そんなものまで所持してるとは思わなかったわ」
『あれ、本物よ』
内緒話のつもりなのだろう。
亜由美から個人チャットが送られてきた。
『照合の結果、あの男の手にある拳銃はM1911と断定。通称コルト・ガバメント。正真正銘の自動拳銃』
そう。
異世界の住人と思しき者が唐突に現代兵器を取り出し、巳月の額に突きつけてる。
これが今、目の前で起こってる現実なのだ。
もし、ここが日本ならオモチャの可能性も十分にありうる。
しかし皮肉なことに、現代兵器とは無縁と思しき人物が所持してる物だからこそ、本物である信憑性が高いと言えるのだ。
《巳月お嬢様!》
「おっと、妙な真似はするなよ。ボクの人差し指は羽より軽い」
雑談の最中、話題を振るかのような明るい口調で言った。
巳月の小さな唇が固く結ばれる。
「特にコウ。たしかに君の力は見えない。正直、驚いたよ」
「なら、それっぽい顔をしてほしいね」
「たしかに小細工にはうってつけだ。しかし、その分、力を使う時に一瞬だけ餓えた獣のように気配が高まる。そんな予兆を見落とすほどボクは弱くない」
「……アドバイス、感謝するよ。ついでに、その物騒な物を仕舞ってくれると、ありがたみが増すんだけどね」
「悪いけど、そのつもりはない」
ディオスは笑顔を崩さない。
その様子が憎しみとおぞましさをより一層掻き立てる。
秀矢の脳裏に、亜由美が死神の手で殺されたシーンがよみがえる。
(くそっ! あんな思いは二度とゴメンだ――)
秀矢は刃機の引き金に指をかけた。
次の瞬間、ディオスの視線が心臓に突き刺さる。
怖気がした。
微かな挙動も見逃さない、と釘を刺されたみたいだ。
チャットで連絡もない。
その場にいるサムライ衆は誰もが口を閉ざし、身動ぎせず、ただただ二人の様子を見守っていた。
息が詰まるような緊迫感が満ちる中、強張っていた巳月の表情がフッと和らぐ。
「あなた。その拳銃、どうやって手に入れたの?」
「気になる?」
「ただの好奇心よ。だって口しか動かせないもの。それなら話し相手になってもらえないかしら?」
「それはごもっともだ」
「で、どうなの? 実際のところは――」
「こいつは、友人の置き土産さ」
「ふーん、友達に恵まれてるのね。うらやましいわ」
「俺もそう思う」
するとディオスは、拳銃の銃口を自身のコメカミに突きつけた。
そして間髪入れずに引き金を引いた。
スライドパーツが後退する。
カチャと金物と金物がぶつかる軽快な音が鳴る。
さらに引き金を引く。
薄暗いダンジョンにカチャ、カチャと小さな音が鳴っては消えていく。
巳月の目が丸くなる。
弾が入ってないことに少なからず衝撃を受けたのだろう。
そしてディオスは銃口を自分に向けた状態で、巳月に拳銃を差し出した。
「何の真似かしら?」
「こいつを持ち主に渡してもらおうかなと思ってさ」
巳月が怪訝な顔をする。
「ほら、さっき見せた通り、ボクにはこいつの矢……あー、ダンガンか。ダンガンを作る技術が無いんだ。つまりボクが持ってても無用の長物、宝の持ち腐れって奴だよ」
「ポチ」
《はっ!》
ポチはディオスの手に向かって飛び掛かると拳銃を口に咥えた。
そして、すぐさま飛び退いた。
巳月から銃口が離れても尚、秀矢は警戒を緩めなかった。
何故ならディオスは腰に剣を帯びてるからだ。
《巳月お嬢様。罠はないようです》
「そう、ご苦労様」
「長生きしそうな性格だね」
「嫌味かしら?」
「素直に褒めてるつもりなんだけど――」
「そう」
「ただ長生きなんてするもんじゃないさ」
気に障ったのか巳月は凄まじい剣幕でディオスを睨む。
「ゴメン、ゴメン。年を取るとつい、若い子にあれこれ助言したくなるんだ」
「そういうのを老害っていうのよ」
「ロウガイ? それはニホンゴかな?」
「そうね」
「勉強になったよ。――それで、そいつの持ち主なんだけどさ」
「約束はできないわよ。あなたの友人なんて見当がつかないもの」
「コウガ」
サムライ衆の間に緊張が走る。
特に巳月は、銃口を突きつけられた時よりも驚いてるようだ。
「コウガ=ホウリュウインっていうんだ。俺の友達で、拳銃の持ち主」
ディオスは念押しするように言った。




