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第107話 暇潰し

 ディオスが加わってから、何度かモンスターと遭遇した。


 ――人が死ぬのは気分の良いものじゃない。


 そう考えてた秀矢は、ディオスにもしものことがあれば出来る範囲でキャリーするつもりで居た。


 しかし、それは杞憂に終わった。


 相も変わらず好戦的な巳月が仕掛けて、そのまま圧倒する局面は多い。


 当然、モンスターが多勢の場合、巳月一人では手間取るため、秀矢たちも加勢する。


 そんな中においてディオスは、サムライに引けを取らない戦闘力を披露していた。


 薄ら笑いを浮かべたまま、7階のモンスターである巨大な白熊、騎士、僧侶、魔法使い、戦士、枝角の悪魔をこともなげに斬り伏せたのだ。


(敵に回さなくてよかった)


 その様子を見た秀矢は頼もしさと、それと同じくらいの脅威を感じた。


 変わった技や術を使ってる様子はない。


 ただただ剣で斬り伏せ、盾で敵の攻撃を凌ぐ。


 基本に忠実と言わんばかりの戦いぶり。


 その様子を見た時、ふと思い出したことがある。


 それは、対戦ゲームで万人が扱いやすいキャラクターを操作してる上級者の視点を視聴してる時に感じたもの。


 視聴中は簡単そうに見えるが、いざ真似ようと思うと、うまくいかない。


 ゲームの上級者になるまで、幾度となく味わったもどかしい感覚。


 仮に、今の自分に敵の情報と戦いの経験があったとしても、あのようには戦えない。


 そう思わせるほどの実力の差をディオスから感じた。


《どしたの? 秀矢》


「ちょっと凹んでた」


 亜由美の声を聞いて、自分の目的を思い出す。


 それは、アスクレピオスの杖を見つけるためであり、最強になることではない。


 杖を見つけるまでの障害を排除できればそれでいい。


 その後は、任期満了まで生き延びるだけ。


「心配しなくていいよ、亜由美。初心を思い出したから」


《? なら、いいけど》


 現在地は、ディオスの居た場所と帰りの階段の間だが脇道が逸れてる。


 ディオスが寝てた場所まで歩いた道と階段への帰り道が違うのだ。


 敢えて違う道を選ぶことで、帰りの階段にたどり着くまで可能な限り開拓して、ボーナスを得る腹づもりのようだ。


 当然、リスクとして目的地から遠ざかる可能性も考えられるが、その場合は歩行距離が行きよりも長くなった瞬間、引き返すらしい。


 長光曰く、想定より余力があることとポチのおかげで寄り道を選択した、とのこと。


「いやはや、君達もなかなかやるじゃないか。ボクの手助けは不要な気がするね」


 移動中、ディオスが話しかけてきた。


「こちらこそ、随分と楽させてもらってるよ。こんな場所で呑気に眠れるだけあるね」


 長光が返答する。


 長光とディオス。


 秀矢は、二人が話す様子を後ろから傍観する。


「思ったより楽しめたよ。ソロじゃなければ、このままついて行きたいくらいさ」


「連れがいたのか」


「元々、別行動中の仲間を待ってたんだよ。最初は暇潰しに魔物を倒してたんだけど飽きたから寝てたんだ」


「待ち合わせしてるのに、フラフラしてていいのかい?」


「いいのいいの。ボクの仲間は、地上に戻ってるだけだから」


「よくわからないけど、君がいいって言うならいいか」


「まあね。ボク一人ならいいんだけど、仲間はそうもいかなくてね」


「ふーん」


「そういえばさ、あのタマって子は新人かい?」


「どうして? 見ての通り実力はあるし、戦い慣れてる。それでも新人に見えるのかい?」


「彼女と君達は、足並みが揃ってないからね」


「仕方ないさ。タマは今日、加入したばかりだからね」


「なるほど。だからか」


「……?」


「まあ駆け出しの冒険者は、仲間に良い所を見せようと張り切る傾向があるからね。コウはリーダーなんだろ? 後で、ちゃんと褒めてあげるんだね」


「随分と彼女の肩を持つじゃないか」


「だって彼女――タマの実力なら、この辺りの魔物に後れを取ることはないからね」


「そこは同意する」


「……あくまで魔物相手なら、ね」


 ディオスの思わせぶりな言い回しに、不穏な空気を感じた。


 後ろから見ていたおかげだろう。


 ディオスの歩調が速まるのを見逃さなかった。


 剣を抜く様子はない。


 しかし、胸のざわめきがおさまらない。


 ディオスが巳月に近づく。


 それを察知したのか、先頭を歩く巳月が素早く身を翻す。


 そこでディオスの背中が巳月と重なった。


「てめえ、何の真似だ!」


 荒川の強い口調が事の深刻さを表してるようだ。


 一瞬にして空気が張り詰める。

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