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第105話 意志疎通

 秀矢たちは、地面で寝てるプリセットの男に近づいた。


 約1メートルのところまで近寄るが起きる気配はない。


 立ち位置としては、秀矢たちとプリセットの男の間に距離を開けてる状態だ。


「ポチ、白虎に戻って」


 巳月の命を受けたポチは、駆動音を立てながら四足歩行に変形した。


 プリセットの男は、呑気に寝息を立てて眠ってる。


 すると、荒川から全体チャットでメッセージが届いた。


『俺が叩き起こしてやろうか?』


『荒川くん、暴力はダメだって』


『長光先輩。もしかして、このまま目覚めるまで待つつもりなの?』


『時間の浪費はゴメンだ。だから、目に光をあてるよ。みんな、警戒は怠らずにね』


『了解』と、秀矢は簡潔に返信する。


 長光はサイコアームズE型を動かし、ライトをプリセットの男に向けた。


 次の瞬間、プリセットの男の上半身がむくりと起き上がった。


 光を照射する前に目覚めた。


 この事実が秀矢たちの緊張をより高めた。


 プリセットの男は、ゆるやかに両腕をあげると「ふああぁ……」と大きな欠伸をした。


 間抜けな声に、緊張感が一気に失せる。


 プリセットの顔がこちらに向いた。


「……おはよう」


 寝起きの挨拶を終えたプリセットの男は、のんびりと立ち上がり、剣と盾を拾いあげた。


 プリセットの男は、こちらを警戒してない模様。


「……おはよう、ございます」


 呆気にとられたのか、長光も緊張感のない口調で返事をする。


 それにしても目を開けた姿が、初期アイボーの男とよく似ている。


 スマホにあるプリセットのアバターが『この男をモデルにしてる』と言われても納得できるほどに。


「私に何か用?」


 巳月は警戒を払うような、少し強い口調でたずねた。


 プリセットの男の視線は巳月に向いてるようだ。


「珍しい衣装だからね。目に焼き付けようと思っただけだよ」


「そう。親しくもない女性をジロジロ眺めるのは、関心しないわね」


 巳月は突き放すように言った。


『どうやら、彼とは意思疎通が図れるようだね』


 話に割り込むように、長光から全体チャットでメッセージが届いた。


 同時に、緊急クエスト達成の通知も出た。


 肩の荷が下りた。


 秀矢の関心がプリセットの男の目的に移る。


『長光さん。せっかくだし、探りを入れますか?』


 秀矢は、それとなく意見を出す。


『取引材料が無い以上、下手な邪推は自滅を招く恐れがある。腹を探り合ってる内に、杖の存在を知られた時のリスクの方が大きい、と僕は思うけどね』


『言われてみれば、そうですね』


『――という訳でこの場は、何食わぬ顔をして立ち去ろうと思う』


 長光の言うリスクを聞いて、ハッとなる。


 そもそも杖の探索に躍起になってる最大の要因は、杖の存在を知ってるからだ。


 もし杖を知らなければ、亜由美を生き返らせるなんて露ほどにも思わないに違いない。


 プリセットの男に生き返らせたい人がいたなら、杖の存在を気取られること事態がリスクとなる。


 それなら慣れ合う必要もなければ、わざわざ敵に回す必要もない。


『異議はありません』


『俺もだ』


『うんうん』


『長光総司の判断には従うわ。気味悪い視線から逃れたいもの』


 秀矢の返答を皮切りに荒川、日下部、巳月が続いて長光に同意する。


『それにしても驚きました。長光さん、亜由美の生き返らせることに肯定的なんですね』


『任務のついで、ならね』


『ありがとうございます』


『礼を言われるまでもない。僕は人手が欲しいんだ。特に経験者なら尚のことさ』


『長光先輩ならわかってると思うけど、今を生きてる人達の命が優先だからね』


『心得てるよ。空閑さん』


「あのー、無視しないでほしいなぁ」


 全体チャットで打合せをしてる間、放置してたプリセットの男が寂しそうな声をあげた。


 どうやら、何度も声をかけてくれてたようだ。


 プリセットの男に対し、長光が口を開いた。


「すまないね。行き倒れかと思って心配して駆け寄ったら、君が急に起き上がったからビックリしたんだ。まさかモンスターがうろついてる地下深くで、寝てるとは思わないだろ?」


「心配かけたか。それは悪いことをしちゃったかな」


「こちらこそ眠りを邪魔して悪かったよ」


「別にいいさ」


「見たところ五体満足のようだし、僕たちはこれで失礼するよ」


 長光が反転する。


 直後、『みんな、引き返すよ』と全体チャットを受信する。

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