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第103話 生体反応

《皆様方、この先に1人分の生体反応を検知しました》


 ポチが足を止めた。


 合わせるように、秀矢たちも足を止める。


 マップを開く。


 ポチがつけたと思われる目印のピンが刺してある。


 しかし、刺さってるのは未踏の場所。


 通路の先のためか、暗闇に阻まれて肉眼では見えない。


「ポチ、その反応はモンスターじゃないのか?」


 長光が訊ねる。


《今、画像を送ります》


 1枚の画像がウィンドウに表示される。


 画像は不慣れな緑一色のため、秀矢は困惑した。


《どれどれ……秀矢。この画像、緑色なのは暗視装置(ナイトビジョン)を再現してるみたいね》


「ポチのバグかと思ったよ」


《時田様。緑色は肉眼に良いとされてますので、可能な限り再現させていただきました》


 ポチは目の届くところにいる。


 つまり、この画像は暗闇の中を撮影したもの。


 改めて画像に目を向ける。


 その瞬間、ポチが足を止めた理由がわかった。


「人間が一人、倒れてるよな」


 自分に問いかけるような、自信のない声でつぶやく。


 その人間は、モンスターが蔓延るダンジョンの中で仰向けで倒れてるのだ。


 両目は閉じており、かたわらには剣と盾がある。


《異世界人かな、フローラみたいに。秀矢はどう思う?》


「異世界人だろうな。俺の知る限り、今の時代にあんな格好をした現代人は見た事がない」


 仰向けで倒れてる人間に注目する。


 衣装は中世の農民を想起させる簡素な布製の服に大きなベルトを巻いてる。


 床と背中の間には、一枚の大きな絨毯……おそらくマントだろう


 何より側らには、宝石がはめ込まれた西洋剣と仰々しい装飾が施された盾がある。


 耳は以前会ったエルフとは違い、尖ってない


 顔の造形からして男だろうか。


 拡大しても、目鼻がぼやけたままなので断定はできない。


 あれこれ思案を巡らされてると、耳障りなブザーが鳴り響く。


《あー、緊急クエストが発注されちゃったわね》


 秀矢はタスクを開いた。


 緊急クエストの欄が追加されてる。


『怪異空間に潜む人間と接触せよ』


 緊急クエストは拒否ができない。


 つまり、否でも応でも、あの人間と対面しなければならない事態になったのだ。


「妙だな」


「何か問題でも?」


 長光の呟きに巳月が問いかける。


「僕の認識では緊急クエストは、攻略済みの階層で不測の事態が発生した時に発注されるもの。7階(ここ)には今日来たばかりで現在の探索状況はお世辞でも『攻略した』とは言い難い。お嬢は何か聞いてますか?」


「父上からの言伝はないわよ。それに私は、今の今までクエストを受注したことがないの」


「そうですか。……何か嫌な予感がするな」


「何はともあれ、今の私はサムライの一員。任務に尽力するだけよ……ポチ」


《はっ!》


「あの者に探りを入れて。静かにね」


《かしこまりました》


 ポチは巳月の命を受けると、四足と首を折りたたんだ。


 変形のようだ。


 しばらくすると、人一人は運べそうなほどの大型ドローンへの姿を変えた。


 ポチは、すぐさま地面から宙に浮いた。


 ローターはブレードが消えるほど高速で回転してるのにとても静かだ。


《皆様、もし私の身に異常事態が発生したら、速やかに撤退をしてください》


「スペアの話は聞いてるけど、いいのかい?」


 長光がたずねる。


《刃機の損傷は戦力の損失。咎められることはないかと存じます》


「なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」


《では、参ります》


 ドローン状態のポチは物音を立てずに闇に向かって飛んでいった。


「ドローンにもなるのかよ」


 秀矢は独り言のように言った。


「ええ。斥候なら朱雀(ドローン)が適してるから」


「そういうものなのか? 別に普段の姿でも、足音を消すだけで行けそうな気がするけど」


「達人は、かすかな大気の振れ幅、わずかな大地の揺れを察知するわ。少なくとも父上はそう」


「なるほど。空を飛べば、少なくとも地響きでバレる心配が無くなるわけか」


「そういうこと。それに、ここは魑魅魍魎がはびこる怪異空間。――にも関わらず、あの振舞い……もし生きてるなら只者じゃないわよ」


「言われてみれば」


「だから、罠の可能性を考慮しなければならないの」


「人間っぽいからといって、味方とは限らないからか」


「それと怪異空間を安全に探索する鉄則は、余計なものに無闇に触れないこと。空を飛ぶ利点は、天井、壁、床、どこにも触れないから罠に引っかかる確率が格段に減るの」


「勉強になります」


「どうやらダンジョン攻略の解像度は、お嬢が一枚上手みたいだね」


《仕方ないわよ。だって秀矢は今日初めて、まともに探索するんだもん》


「そういや俺の成果ってバトルしかねえな」


「安心して時田秀矢。私とあなたは同期。戦闘以外の雑事は、私とポチに任せて」


 巳月は胸を張った。


「それは助かる。でも、俺も足を引っ張らないように探索のノウハウを習得するよ」


《何、秀矢にアピってんだよ。エロガキが!》


「うるさいわね。いい機会だし、除霊しようかしら」


 巳月は1枚の札を取り出した。


《巳月お嬢様。お戯れはそこまでで――皆様方、ご報告があります》


「ちっ! ――命拾いしたわね」


《口の減らないエロガキめ!》


 亜由美のアバターは非表示だが、二人が激しく睨み合ってる様子が見て取れる。


 そんな二人を尻目に、ポチの音声が聞こえる。


《結論から申し上げますと彼の者は、睡眠の状態にあります。心拍数、体温、代謝、大脳皮質の活動の低下からして間違いないかと》

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