第101話 トラップ解除
1つのウィンドウが出てきた。
それは、4分割された映像で様々な角度から宝箱を映し出してる。
人間と同じ構造の手、ライト、レーザー、ドリル、チェーンソーを駆使して罠を解除してるようだ。
物珍しさに視聴するも、動きのない絵面のため数秒後には飽きが来た。
苦心してる長光には申し訳ない気持ちになるものの秀矢は視聴を止めた。
「長光さんの苦労はわかった。俺達は、張り込みをがんばろう」
《つまんないでしょ。パッとしない絵がずっと続くから》
「いちいち言わなくていいの」
《地味な事を延々とやって、苦労して開いたと思ったら、罠が作動した時は悲惨よ。去年なんて荒川、石になったし》
「あー、そんな事もあったな。石化する光が俺んところに照射されたんだよな」
「どうやって元に戻ったんですか?」
「屋敷に、そういった特別な症状を治せる人がいるんだよ」
《そうそう。だから、状態異常系の罠はあまり気にしなくていいの。もちろん、引っかかったら人数不利になるから任務は即中断だけどね》
「安心して、時田秀矢」
巳月が話に割り込んできた。
「私なら麻痺でも石化でも治せるから、任務が中断することはないわ」
「お! それは頼もしいな。アテにしてるぜ、巳月」
気を良くしたのか、巳月は胸を張って得意げな顔になる。
「まかせて。実際、去年、荒川大樹の石化を解いたの私だし」
「そうなのか。世話になったな、お嬢ちゃん」
「お互い様よ。私も石化解除の修業になったし……まあ失敗しなくてよかったわ」
「なあ、失敗したら、どうなってたんだ?」
「絶命に決まってるじゃない。石になった体が粉々になって」
「……そ、そうか」
心なしか荒川の顔から血の気が引いてるように見える。
「青侍で散々練習したから自信はあったけど」
「でも、そうなると例の杖を見つける確率を上げるには、罠は極力外した方がいいな。……つうか、よくよく考えると宝箱自体がリスクだな。開けてもらって言うのもなんだけど、人命を優先するなら宝箱はスルーが最適な気がするけど――」
「大丈夫よ、師匠。私達にとって宝箱は『ボーナス』みたいなものだから」
「亜由美もさっき特別報酬って言ってたけど、どういうこと?」
「――んとね、宝箱は発見した瞬間、サブクエストに登録されるの。タスクを見てみて」
秀矢はタスクを開いた。
メインタスクとは別に、サブクエストが追加されてることを確認した。
詳細を開く。
主目的の欄に、宝箱の開封ならびに中身の持ち帰り、と記載されてる。
「確認できたよ、サクナ」
「それでね、宝箱は報酬が3段階あるの」
「3段階? なんか、ピンと来ないんだけど――」
「えっとね。宝箱を開けた時、中身を確認した時、中身を持ち帰った時、の3段階に分かれてるのよ」
「――ちょっと確認させて。宝箱を開けるだけで報酬がもらえるの? 中身を持ち帰らなくても?」
「そうよ。だから、そうちゃんは率先して宝箱を開けてるの。お金がもらえないなら絶対に無視してるわよ」
タダ働きを忌避する長光がリスクを冒してでも宝箱を率先して開ける理由に納得する。
「あと発見してから、すぐに開ける理由がもう一つあるの。それはね、翌週になると何故か宝箱が消えてるの」
「俺達以外にも、誰かいるのか?」
「わかんない。でも、6階探索中に見つけた宝箱の内、いくつかは開ける前から消えたのは事実よ」
その時、任務初日に出会ったエルフ――フローラの存在がよぎる。
彼女は杖の存在を知らせてくれた情報提供者であり、杖を巡って競うライバル。
「第三者の可能性は、否定できないな」
「だからね、宝箱は見つけたら、すぐ開ける事にしてるの。翌週に回したら、稼ぎにならないから」
先週出くわした、人語が通じる魔人と名乗る者の存在が頭に浮かぶ。
こちらには探し物がある。
だから第三者は、お呼びじゃない。
報酬だけでなく亜由美の復活の事を考えても、宝箱を即開封することは大歓迎だ。
幸いにも7階の宝箱は手付かずの模様。
罠のリスクが減らせるなら積極的に開けた方がいい。
「――ゴメン」
突然、謝罪の言葉が聞こえた。
蚊の鳴くような声のため、声の主はすぐに判別できなかった。
「どうしたの? 巳月ちゃん」
巳月がそわそわしてる。
「あなた達が見つけた宝箱を回収したの、私なの……まさかサムライの収入源とは思わなくて」
「まあ、巳月ちゃんが謝る事ないよ。開けない私達が悪いんだし」
「巳月、さっき青侍で練習した、という話だけど、もしかして青侍に宝箱を開けさせてるのか?」
「そうよ。罠解除の技術もモンスターの情報と同様に蓄積してるから、開けることは出来るの」
青侍と聞いて、亜由美の顔がチラつく。
「時田秀矢、そんな思い詰めないで……今後は無断で回収しないから」
「もう師匠! 巳月ちゃんに悪気は無いんだから、そんな顔しないの!」
申し訳なさそうにする巳月を庇うように、ふくれっ面になる日下部。
それは怒りというより、お叱りという感じだ。
「悪い悪い、臨時収入の使い道を考えてただけだ」
「そうなの?」
巳月は呆気にとられたのか、きょとんとしている。
「そもそも俺は、今日初めて宝箱を見たんだぞ。その上、開けただけで報酬がもらえる、なんて聞いたらお金の使い道を色々と考えたくなるの。だから巳月は悪くない。勘違いさせた俺のせいだ。すまん」
「それなら、お詫びとして、今日の任務が終わったら、私の部屋に来て――」
《優しさにつけこんで、秀矢に手を出そうとしてんじゃねえエロガキが!》
「――ちっ! ストーカーめっ!」
《うわあ、思いっきり舌打ちしたよ、このエロガキ。秀矢! 騙されちゃダメよ? 女なんて皆、良い子ちゃんぶってても、お腹は真っ黒なんだから!》
(知ってるよ)
――と思ってても、口に出すのを止めた。
「あははは……」
場の雰囲気についていけないのか、誤魔化す様に乾いた笑いを浮かべる日下部。
「はぁ」と呆れたように深いため息を吐く荒川。
そんな中、妙な方向にズレた空気を払拭するように、宝箱の回収成功の通知が来た。
中身は、野球のボール程の大きさの、きちんとカットされた宝石のようだ。




