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第100話 宝箱

 宝箱、と聞いて体温が上がる。


「だ、誰かに開けられた形跡は?」


「ないよ。ポチが確認してくれた」


「それじゃあ、さっさと開けましょうよ」


「罠がなければね」


「罠?」


「師匠は、宝箱見るの初めてよね?」


「うん」


《宝箱の中身は正直、私達にはよくわからないわ。でも、持ち帰ると特別報酬がもらえるのよ。中身が何であれね》


「でも問題があるの。そうちゃんが言ってた通り、罠が仕掛けられてる可能性があるの」


「今までどんな罠があったの?」


「毒ガス、爆弾、電撃、弩の矢(バリスタ)、痺れガス、催涙ガス、石化光線、あと箱そのものがモンスター……ミミックもあるわね」


《今まで見つけたトラップについては、資料に目を通しておいて》


「何かと殺意に満ちあふれてるな」


「とりわけ私達にとって厄介なのが警報(アラーム)、次点でパズルね」


警報(アラーム)?」


「すっごい大きな音が鳴るの。もうフロア全体に響いてるんじゃないかってくらいに」


《6階の時、一度ひっかかったことがあるわね。あれは本当にヤバかったわ。死を覚悟したもん》


「そうか、フロア中にいるモンスターが大勢で押し寄せてくるのか」


《その日は、任務開始3分で宝箱を見つけたんだけど、警報のおかげで長期戦の戦闘になって、モンスターを倒しきったら、そのまま帰還したもん》


警報(アラーム)の脅威は理解した。しかし、パズルとは?」


「一言で言えばダンジョンから私たちに対する『嫌がらせ』かな。直接的に命に関わるものじゃないんだけど、とにかく開けるまで物凄く時間がかかるの。イメージ的には、ノーヒントでダイヤル錠を開けるような感じかな」


「時間稼ぎという点で言えば、確かに嫌がらせだな。俺、謎解きや推理系のゲームはあまりやらないから、ある意味で一番関わりたくない罠だ」


 話ながら歩いてる内に、長光達と合流した。


 今は、全員の顔が肉眼で視認できて、肉声が届くくらいの距離に集まってる。


 そこから、約10メートル先に、如何にもな宝箱が鎮座してる。


現実(リアル)だとシュールな光景ですね」と、秀矢が切り出す。


 長光が背負ってたサイコアームズを下ろしながら「そうだね」と返す。


「宝箱、開けに行かないんですか?」


「日下部さんと空閑さんからレクチャーを受けたばかりじゃないのか」


「罠が仕掛けられてる話は聞きました」


「では、どうすれば罠を回避できるのか。罠を外すのが一番確実だけど、現状は良くて五分。そうなると、失敗した時の保険が必要になる」


 保険――長光の特性と宝箱との距離の組み合わせから一つの手法を弾き出す。


「――!? まさか、罠の影響を受けない場所から開ける、ですか?」


「よく気が付いたね。感心するよ」


「長光さんには、遠くからオブジェクトに干渉できるサイコキネシスがありますからね。宝箱を無理矢理開けるのはお手の物かと」


「惜しいね。宝箱に乱暴なことはしないよ。僕が動かすのは、サイコアームズ(こいつ)さ」


 今日の任務開始直前、ベースキャンプで事前に受けた説明を思い返す。


 今回、長光が持ち込んだのはE型。


 探索者を意味するエクスプローラーの名を冠する探索特化型のサイコアームズ。


 従来の多関節ロボットアームは最小限。


 残りはライト、金属探知機、ネット、接触型のトラップを誤作動させるためのゴム弾等、探索向けの兵装に割いてる分、戦闘には不向き。


 出発前、秀矢は長光に、何で手荷物で済むのにわざわざサイコアームズにしてるのかを訊ねた。


 その時の返答は、今でも印象に残ってる。


 ――サイコアームズ(これ)なら手足が千切れても使えるから。


「リーダー。ポチに開けてもらうのはどうだ? 予備はあるみたいだし」


「それを言うなら、僕のサイコアームズも同じだよ。それなら刃機と兵装、どちらの損傷がマシかは比べるまでも無い。ポチは頑丈な精密機械だけど、僕のはオモチャみたいなものだからね」


「そうちゃん、オモチャネタを引きずってるの?」


《私は、あくまでサムライ衆のカタナ。あいにく私には罠を解除する機能はございません。現状、人命を優先するなら長光様の案が最善かと》


五分(ごぶ)なら結界を用意してあげる」


 巳月はおもむろに札の束を宙に放った。


 それはひとりでにバラけると、通路の壁と壁の間の地面、宝箱と自分達を分かつように、横一列、ピシッと札が並ぶ。


「ガスと弓矢なら、これで凌げると思うわ」


「助かります、お嬢」


「これくらいお安い御用よ」


 巳月は得意げな顔で言った。


「僕は少し集中するから、通話を遮断するよ」


 長光のサイコアームズが浮いた。


 そのまま結界をすんなり越えて、宝箱に到着する。


 ポチと違いロマンの欠片もないデザインと実用性だけど頼もしく見える。


「そうちゃんががんばってる間、私達はお休みね。でも、周囲の警戒を怠っちゃダメよ」


《日下部様、警戒は私めにお任せください》


「いいの? それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」


 日下部はハンマー型刃機を地面に置いた。


「気ぃ抜くのはいいけど、何時でも戦えるように、心の準備だけはしておけよ」


 荒川が注意を呼びかける。


 神経を張り詰めたまま、全身をリラックスさせる。


 すると宝箱の様子が気になり、視線を移す。


 サイコアームズに備えられた複数のロボットアームがタコのように宝箱に絡みついてるようだ。


《秀矢。箱の様子、気になるの?》


「まあな、お目当ての物かもしれないし」


《それじゃ、見せてあげるわよ》

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