第97話 初見のモンスター
程なくして、2つの点が見えた。
近づくにつれて、モンスターの輪郭が浮かび上がる。
それは人の形を成してるようだ。
頭と胴があり、そこから両手、両足が伸びてる。
人間よりも悪魔と呼ぶに相応しい異形の出で立ち。
近づいてみてわかったのは『それ』は、人間と比べて大きい。
とりわけ目を引くのは、頭部の鋭利な枝角。
点に見えてたものは、角の尖端のようだ。
その枝角は、禍々しく歪に枝分かれしており、全ての尖端が槍のように太く鋭くて、殺意を形にしたような造りに見えた。
頭は、人間よりも遥か高い位置にある。
大体、5メートルくらいだろうか。
上半身は肩幅が広いが胸、腹、腰にかけて絞られてる。
極端な逆三角形だ。
そこから、だらりとひざ下まである両腕と指先から鋭い爪が生えてる。
そして細い腰からは、馬や鹿のような後ろ脚が生えてる。
その足の先は蹄ではなく、獣のような指と鋭い爪が伸びてる。
「ポチの言う通り、こいつは生物じゃないね」
長光が言った。
見た目こそ生き物のように見える枝角の悪魔は、たしかに熱源、鼓動、呼気――生物の特色がない。
妖気が生き物の真似をしてる、という印象を受ける。
しかし、モンスターらしく並々ならぬ圧と敵意を豪雨のごとく浴びせてくる。
枝角の悪魔は、やる気のようだ。
戦闘態勢に入る。
「みんな、こいつの後ろに同じのが2体控えてるから、位置取りには気を付けてね」
「うん」
「ああ」
「わかりました」
長光の注意喚起に、巳月を除くサムライ衆が各々返事をする。
枝角の悪魔と対峙。
心臓が早打ちする。
いち早く前に出たのは、巳月だった。
「巳月ちゃん!」
「先陣は俺達の役目だ。嬢ちゃんは、控えてな」
「敵情を探るなら尚の事、私が先陣を務めるべきよ。ポチ!」
《はっ!》
ポチが巳月の側に飛ぶ。
「どういうつもりかな。お嬢」
「私の戦い方は、先ほどお見せしたはずよ。身の安全が第一なら私に任せて」
「お嬢こそ、僕たちの戦い方を忘れたのかい? 動画の後に伝えたはずだよ」
「もちろん、承知してるわ。その上で進言してるのよ」
巳月の言葉には、論理より感情が色濃く出てる印象を受けた。
長光の言う『戦い方』とは、タンク役の日下部、荒川を前面に出して、長光と秀矢が敵の隙をついて畳みかける、というゲームではチュートリアルで履修するセオリーのこと。
「……わかりました。それでは頼みますよ、お嬢」
「任せて」
しかし、長光は巳月に異論を挟まない。
秀矢も口を出すつもりはない。
《長光先輩。新人に任せて、大丈夫?》
「空閑さんも動画は見たでしょ? より安全に先手を打つなら、お嬢の刃機が適してるさ」
《まあ、ね》
「お嬢は、あくまで一番手。決して、僕たちが暇になるわけじゃない。空閑さんも気を抜かないでね」
《はいはい》
「でもまあ、楽できるに越したことはないけどね」
《あはは、そういうところは先輩らしいですね》
別に戦い方が変わるわけでは無い。
一番槍を巳月が務めるだけ。
緊張を切らさないようにしつつ、巳月に目をやる。
「敵を喰らえ! ポチ」
《承知!》
巳月の合図と共に、ポチが枝角の悪魔に飛び掛かる。
安全に先手を打つ――答えは、至極単純。
命がない自律型刃機をけしかける。
それだけだ。
安全を旨とするなら、人間よりロボットを先行させた方がいいに決まってる。
だから長光は、巳月に任せたのだろう。
秀矢もそのつもりで、何も言わなかった。
勢いよく飛び掛かったポチが枝角の悪魔の細い横っ腹を噛みつく。
ポチが噛み千切ったかのように、横っ腹が抉れた。
ポチはそのまま枝角の悪魔の側に着地する。
抉れた横っ腹が血の一滴も流さないまま、何事もなかったかのように元に戻る。
次の瞬間、目端にモンスター情報の更新を知らせる通知が来た。
敵は、精霊のようだ。
そして、体を構成してる粒子は、氷水のように低温らしい。
「精霊なら、私の領分ね」
巳月はポケットから数枚の札を取り出す。
その札には模様や文字らしき物が書き込まれてる。
巳月は取り出した札を全て枝角の悪魔に投げた。
プラスチックカードのように勢いよく放たれると、枝角の悪魔にピタっと張り付く
腹の底が震えるような低い唸り声がした。
バチッと枝角の悪魔の全身に、一瞬だけ蒼い雷が走る。
それが気に障ったのか、枝角の悪魔は巳月の方に向いて、構えをとる。
ヘイトは確実に巳月に向いてる。
敵に応じるかのように日下部はハンマーを握りしめ、荒川はファイティングポーズを取る。
二人は、警戒を怠ってないようだ。
だが当の本人である巳月は二人と違い、涼しい顔をしてる。
「こんな紙切れでは、相手にならないようね――でも、今のでわかったわ」
ポチが巳月の側に駆け寄る。
《いかがなさいますか、巳月お嬢様》
「こいつは、私が相手をするわ」
《よろしいのですか?》
「ええ」
巳月は再びポケットから札を取り出すと、今度は床一面にバラまいた。
枝角の悪魔が動く。
巳月に目掛けて、長い右腕と鋭い爪を振り下ろされた。




