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第96話 第7階層 探索開始

《皆様方、7階の入口に到着しました》


 下り階段を先行してるポチから連絡が入る。


 サムライ衆の間に漂う空気が弛緩する。


「やっとか、長かったな」


 最初に切り出したのは秀矢。


《おつかれさん、大体30分くらい歩いてたわね》


「そんなにかよ」


「時田くん、一息ついたところに水を差すようで申し訳ないが今日だけは帰りに、この階段を上るから覚悟しておいてくれ」


 長光の言葉を聞いて、体が重くなる。


 7階に足を踏み入れてないのに、凄まじい疲労感に襲われたみたいだ。


「それじゃ、扉を開けるよ」


 長光の問いかけに、他の者がコクリとうなずく。


 長光の手によって扉が開いた。


 キキィと蝶番の擦れる音が鳴る。


 全員、扉を抜ける。


 7階の光景は、他の階層とそれほど違わない。


 相も変わらず通路の奧は暗く、天井の高さは体育館並。


 強いて言えば、壁が素のコンクリートのような灰色と床が茶色のレンガをこれでもかと敷き詰められた、典型的なファンタジー世界のお城の地下通路のような色合いで、1階の洞穴のようなレイアウトと比べて、深い階層とは思えない。


《長光様、周囲にモンスターの気配は無いようです》


「ポチは、索敵もできるの?」


《はい。生き物から霊体、魔法生物、精霊等、気配を備えるモンスターなら大抵、検知可能です》


「それなら引き続き、先導をお願いするよ。よろしいですか? お嬢」


「構わないわ。それもポチの役目だから」


《承りました》


「ポチ、一つ要望をいいかな?」


《何でございましょうか?》


「モンスターの大群を避けるように先導してくれ。それで、3匹以下なら通知を頼む」


《かしこまりました》


「長光総司、随分と慎重なのね」


「お嬢、ここは前人未踏のフロアです。どんなモンスターが生息してるのか、どんな罠が仕掛けられてるのか、僕らには圧倒的に情報が不足しております。慎重に慎重を重ねるくらいでないと命がいくらあっても足りません」


「そうね。ただ、モンスターの討滅に関しては、問題ないわ」


 巳月は長光に対し、堂々と言い放った。


 どうやら未発見のモンスターに対する恐怖は微塵もないようだ。


「アテにしてますよ」


 長光は特に注意するわけでもなく、受け流すように答えた。


 階段を下りた時と同様、ポチの先導のもと、サムライ衆は7階の探索を開始した。


 歩き始めて、数分が経過した頃、上り階段のことを思い出した秀矢は、ネタを振るように口を開いた。


「帰りに、あの階段を上るって思うと億劫になりますね」


「仕方ねえよ。考えてみろ、時田。リーダーがさっき言ってた通り、7階(ここ)は前人未踏のフロア。つまり、ベースキャンプは一つもねえんだ」


「言われてみれば……いつも当たり前のように使ってたから失念してました」


《こればっかりは、ゲームのセーブポイントみたいには行かないわよね。去年の6階初見の時も、帰りは階段上って5階の階段近くベースキャンプからワープしたし》


「大丈夫よ、師匠。今日の探索で良い場所が見つかれば、来週からワープが使えるから」


「サクナ、良い場所ってどういうところ? 広い場所とか?」


「わかんない」


「へ?」


「私達が探索した情報を元に、お屋敷にいる人達がベースキャンプの場所を決めてるみたいだけど、私達から何も言わなくても次の週には出来てたから、あまり気にしなかったなぁ」


「そういう所はゲームっぽいな」


「転移場所はサムライが開拓した範囲内で技術班が選定。後は、任務時間外の日曜から金曜にかけて、私と青侍が設営する手筈よ」


「あの凄い施設。巳月ちゃんが作ってたの!?」


「私はもっぱら、青侍達の護衛とモンスター除けの結界を張るだけ。資材の運搬と組み立ては、青侍が勝手にやってくれるわ」


「――というか、巳月は毎日ダンジョンに潜ってるのか?」


「ええ、そうよ。修業も兼ねてね」


 秀矢は修業という言葉に、驚きよりも腑に落ちた、という心境になる。


 巳月の戦いぶりは、任務直前の動画で視聴済み。


 6階のモンスターを物ともしない実力者なのは言うまでもないが、それだけでなく『場数を踏んでる』という印象を受けた。


 年は自分と変わらないのに、と考えたが毎日ダンジョンに潜ってるのなら当然だ。


 潜り抜けた修羅場の数が著しくかけ離れてるのだから。


 頭の中で野暮な事を考えてながら歩いてる内に、ポチから通知が来た。


『前方にモンスターの数が3体。大気の状況からして、霊体および精霊と思われます』


《幽霊と精霊なら、大丈夫そうね》


「そっか、モンスターの情報も無いから、正体がわからないのか」


《そうそう。ついでに言うとね、マップにモンスターは表示されないし、エンカウント時の警告も出ないわよ》


「不親切設計だな」


《ベースキャンプがない弊害ね》


「なるほど、今まで俺達に都合の良い通知は全てベースキャンプから飛ばされてたのか」


《そういうこと。だからベースキャンプが少ない内は、今まで以上に慎重に戦わないといけないの。これ6階を探索した先輩からのアドバイスよ》


「ご忠告、感謝します」


《だから絶対に無茶しないでよ》


「わかってるよ。帰りの階段を上る体力を残さないといけないからな」


 刃機を構える。


《霊体なら聖なる力(サンブレード)浄化砲(ホーリーライト)、精霊なら炎の刀身(フランベルジュ)光雷砲(サンダーボルト)で様子見ってところかしら》


「妥当だな。今回は、ほぼフルパだし、相手の出方をじっくりと観察できるな」


「時田、忘れるなよ?」


「覚えてますよ、荒川さん。ちゃんと隙をうかがって、致死量の火力を叩き込むよう尽力します」


「――なら、いい」


 日下部と荒川が前に出る。


 ゲージの残量は1割。


 6階の下り階段までの道中に遭遇したモンスターと戦って貯めたゲージ。


 これなら、ピンポイントで英雄叙事詩(ウルト)を発動させることは可能だ。


「みんな、7階で初めての戦闘だ。崩壊の兆し(デッドリービジョン)が発動してないからといって、油断はしないでね。被害が甚大な場合、すぐに帰還するから、一戦一戦、今日最後の戦いのつもりで全力を尽くしてくれ」


「大丈夫よ。そうちゃん」


「うす」


 長光の言葉に、日下部と荒川は当然のように返事をする。


《わかってるわよね? 秀矢》


「ああ。ゲームじゃあるまいし、抱え落ちなんてバカな真似はしねえよ」


《よろしい》


 モンスターの姿は、まだない。


 最大限の注意を払いつつ、通路の先にある暗闇に向かう。

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