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第94話 四機神(しきがみ)ポチ

 和室でのひと悶着が想像以上に時間を浪費したため、サムライ衆は早めに任務を開始することにした。


「あー、やっと目が見えるようになった」


 視界に飛び込んできたのは、転移装置と壁に敷き詰められた無数のモニター。


 どうやらベースキャンプのようだ。


《次は、こんなもんじゃ済まさないわよ》


「へいへい」


「師匠、お疲れ様」


「サクナ、もう立ち直ったの?」


「まあ、お仕事だからね」


 笑顔にぎこちなさを感じるが、花占いの時に比べたら大分持ち直したようだ。


 各々、刃機を転送し、ダンジョンに突入する準備を完了させた。


 ただ巳月だけは違うようだ。


 華奢な身形には、着の身着のままと言った感じで、何一つ武装してない様子。


 リーダーとして心配に思ったのか、長光が声をかけたようだ。


「お嬢、非武装で任務に赴くつもりですか?」


「刃機のこと?」


「はい」


「心配しなくても、隣にいるじゃない」


「隣といいますと――」


 巳月の指し示す方を見ると、大型犬のペットロボットがお座りしてる。


(つうか、ここまで連れてきたのかよ。あのペット)


 秀矢だけでなく他の三人も、怪訝な目をペットロボットに向ける。


 巳月は意に介さず、視線をペットロボットに向けてから口を開いた。


「そろそろ頃合いね。ポチ、みんなにご挨拶を」


《よろしいのですか? 巳月お嬢様》


「私の自己紹介は、大分前に終わったわ」


《かしこまりました》


 突如、大型犬のペットロボットから燕尾服をピシっと来た執事を彷彿とさせる渋い壮年男性の声がした。


《私めは、巳月お嬢様の刃機を務める四機神(しきがみ)。サムライ衆の皆様、私めのことは気軽にポチとお呼び下さい》


「言っておくけどポチそのものはアイボーよ」


《ちなみに四機神(しきがみ)という字は、四つの機械の神と書きます。これは、名付け親である現当主、蛟牙様の趣向でございます》


 巳月の刃機――ポチの自己紹介が終わる。


「そういうわけで、私の刃機は心配に及ばないわ、この通り既に備えてるから。それと私は今日からサムライ衆の一員。あなた達の同士だから父上との混同を避けるため、私の事は気軽に巳月と呼んでちょうだい」


 巳月は得意げに言った。


 場が静まり返る。


(そう言われてもなぁ……)


 雇用主の息女。


 法龍院家の令嬢。


 いくら彼女が職場の同僚でも、身分の差が埋まったわけではない。


《巳月お嬢様。どうやら皆様との距離の詰め方を見誤ったようですね》


「ポチ! いちいち言わなくてもいいのよ!」


《エロガキで十分でしょ》


「黙りなさい、地縛霊風情が!」


《ちがうもん。私、束縛系女子じゃないもん》


「まあまあ二人とも落ち着いて」


 長光が仲裁に入る。


「お嬢。一つ、おうかがいしてもよろしいでしょうか?」


「構わないわ、長光総司」


「お嬢の役割(ロール)、とりわけ得意な戦い方はございますか?」


「うーん――」


 巳月が顎に手を当てる。


 数秒経過した後、ポチの声がした。


《巳月お嬢様。ここは、お嬢様の戦いぶりを皆様に見てもらうのは一番良いかと》


「そうね。ポチ、直近の私の戦闘記録をみんなに共有して」


《かしこまりました》


 程なくして、ベースキャンプのモニターの一つに動画が再生された。


 時間にして約10分、その場にいる者達は、黙って動画を最後まで視聴した。


《エ……エロガキのわりには、なかなかやるじゃない》


 負け惜しみのように吐き捨てる亜由美。


 網膜に投影されてる亜由美の3Dモデルは、不機嫌そうにそっぽ向く


「お嬢のレベルとステータスはさっき知ったけど、実戦も相当なものだね」


「青侍を3人、引き連れてるとはいえ、6階のモンスターを簡単に倒すなんて凄いわよ、巳月ちゃん。私達4人でも、あんな風に倒すには結構時間かかったし」


「こんなに強ぇなら、嬢ちゃんを連れて7階を探索してもよさそうだな」


 長光、日下部、荒川の三人は巳月の戦いぶりに感心してる。


 これは秀矢にとっては嬉しい誤算だった。


 何故なら荒川の言う通り、寄り道せずに7階の探索が可能ということは、亜由美の復活が早まることを意味するからだ。


「強いだけでなく、どの射程(レンジ)でも、そつがないね。今後とも頼りにさせてもらうよ、巳月」


 秀矢は動画の戦いぶりを見た上での本心を口にした。


 秀矢たちの言葉に気を良くしたのか、巳月は少々照れ臭そうに「ま、まあ、この映像を撮った時は、あなた達の救援に向かう最中だったから、いつもより戦いに力を入れただけよ」と言った。


「巳月ちゃん、それって先週の話?」


「そうよ」


 日下部の問いに即答する巳月。


 その様子を見て、ある疑問が氷塊した。


「そっか、俺が気を失った後に屋敷に戻ってこれたのは、巳月のおかげか! ありがとな!」


「礼には、およばないわ。あなた達に加勢しなさい、と父上からのお達しがあっただけだし……それに肝心の戦闘には間に合わなかったし――」


「別にいいよ。俺は、今もこうして生きてるから」


「そうだね。それに、あの時、お嬢が来てくれなかったら、僕達はベースキャンプにすら辿りつけずに全滅の恐れがあったからね」


「うんうん、そうちゃんも私も、もうヘトヘトで、師匠とだいちゃんを担ぐ体力どころか、自分一人の体を動かすのもきつかったし」


《私の電源が落ちてる間にそんなことがあったのね》


「長光さんとサクナは、巳月の力を見るのが初見っぽかったけど、帰り道が一緒なら、その時に巳月の戦いぶりを見れたんじゃないですか?」


「帰りは、モンスターと遭遇しなかったんだよ。その時は不思議に思ったけど、さっきの動画を見て納得した」


「道中のモンスターは、巳月が全て倒してくれてたのか――改めてお礼を言わせてくれ、助かったよ、巳月」


「時田秀矢。お礼なら、あなたの体で――」


《黙れ、エロガキ! 私の目の黒いうちは、そんな事させないわよ!》


「それなら問題ないわね」


《なに意味わかんない事、言ってんのよ!》


 3Dモデルの亜由美と巳月の視線が交差する。


 物凄い剣幕の亜由美と超然としてる巳月が火花を散らす。


「意味わかんねえのは、空閑の方だろうが」


《間違いなく、空閑様の間違いでございます》

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