第93話 法龍院巳月は何が何でも子供が欲しい
「おう、言ってみろ」
「新人――お嬢が身重となっては、我々サムライ衆の戦力の低下が懸念されます。リーダーとして、より深い階層を探索するためにも優れたサムライの欠員は看過できません」
「お前の言い分にも、一理あるな」
「法龍院家の事情は、僕たち庶民には想像つかないことは重々承知してますが、せめて――せめて1年だけは待っていただけないでしょうか!」
「うーむ」
《ナイス正論! ちょっと保身に走ってる辺りが姑息だけど、この際なんでもいいわ。長光先輩! そのまま押し切っちゃって!》
「そうだな……もし巳月が臨月で戦線離脱を余儀なくされた場合だが……巳月の代わりに、わしがお前の指揮下に入ろう」
「……お館様、自ら任務にあたる、と?」
「当然だろ。我が家の都合なのだから、当主であるわしが責任を負うのが筋というもの。それともわしでは、不服とでも言うつもりか? まあ確かにジェネレーションギャップがあるかもしれんが、戦力という一点においては、まだまだ若いもんに遅れはとらんよ」
「異存はありません!」
長光は間髪入れずに、ハッキリと答えた。
《何、言い負かされてんのよ! しかも、嬉しそうなのが腹立たしいわね!》
「申し分ない代替案だと、判断したまでさ」
《何、格好つけてんのよ》
「いいかい、空閑さん。座席と死ぬ順番は、年寄りに譲る。これは若者の役目だよ」
「その点は俺もリーダーに同意だな。普通に考えれば娘より、じいさんが先に死んだ方がいいだろ。――というわけで時田。女性に関して、会社の先輩が頂いたアドバイスがある。せっかくの機会だし、お前にも伝えておこうと思う」
「せっかくもとにかくも、よくわかりませんが」
「女性に恥をかかせてはならない、だそうだ」
「……庶民的なアドバイス、ありがとうございます」
《ありきたり過ぎて、非常事態には役に立たないわね。大体、羞恥心があるなら両親の前で誘わねえよ》
「――つうこと事で時田。腹を括れ。お前が男になるだけで勝ち確になるなら安いもんだろ。少子化に貢献するし、嬢ちゃんは危険から遠ざかるし、じいさんは味方になるわで、一石三鳥で良いことずくめじゃないか」
《荒川……てめえは、首を括ってろ。うーん、こうなったら奈央姉!》
「生きる、死ぬかも、生きる、死ぬかも、生きる、死ぬかも――」
《ああああああ、奈央姉が壊れてる!》
日下部はブツブツと陰気な声で、洒落にならないことを呟いてる。
手元を見ると、バカデカスマホを何度もフリックしてる様子が見えた。
どうやら、花占いアプリに興じてるようだ。
「日下部さんは、お嬢からお館様に変わった時の損得勘定に苛まれてるんだろうね」
「時田秀矢。父上から、あなたの子種を受け入れる許可が下りたわ」
「そ、そうみたいだね」
「任務開始まで時間もあるし、早速だけど――」
「待った待った!」
「何か不都合でも?」
《何、私の相棒に手をだそうとしてんだよエロガキがよぉぉおおおおお!》
「死者の分際で、生者の営みを阻むつもりなの? このストーカー女!」
《この流れで営みとか言うな! あとストーカーってどういう意味よ!?》
(あの子、亜由美が死者であることは普通に受け入れてんだな)
「時田秀矢。善は急げ、と言うわ。ささ――」
「ほら、俺達、出会ったばかりだし。そういうのは、もっとお互いの事をよく知ってからの方が――」
《何で、ちょっと乗り気なのよ》
「心配しなくていいわ。寝所は、既に用意してるから」
「だから俺が言いたいのは、そういう行為をするなら、もっと親密になってから……ね」
「……は!? そういう事ね」
「そうそう」
「それが時田秀矢の望みなら、仕方がないわ。法龍院家のためならば――」
巳月は冷静な口調で言うと、淀みない所作でウェストの位置で腕を交差させると、上着の裾を掴んで下からめくるよう脱いだ。
一瞬にして胸元まで上着がめくれたため、巳月のスレンダーなボディラインとブラジャーが目に入り、動揺する。
次の瞬間、視界が真っ黒になった。
「前が見えねえ! どうなってんだ!?」
《センシティブな映像だったから、つい》
亜由美がナノマシンを通じて、秀矢の視覚を遮断したようだ。
これは本来、スタングレネードのような、目が眩むほどの閃光を浴びた時、少しでも早く態勢を立て直すために作動させる眼の保護機能である。
「亜由美、早く目を何とかしてくれ」
《とりあえず反省なさい!》
「何で!? 俺、何も悪いことしてねえだろ!?」
《女の子の裸をガッツリ見ておいて、言い訳すんな! ほら……あんたも、さっさと捲った上着を下ろしなさい。大体、何がどうしたら、皆がいる前で服を脱ぐのよ》
「個室がお気に召さないようでしたので」
「場所の問題じゃねえよ!」
「それと、衆目に晒されることで昂ぶる趣向かと思って――」
「俺にそんな癖はない! 亜由美、視界を元に戻してくれ!」
胸を抉るような鋭い気配を複数感じる。
側にいる長光、日下部、荒川の三人から、快く思わない視線を向けられてるのだろう。
《目の毒だからね。脳を焼かれても困るし》
「私には、衆目に素肌を晒す趣向はないわよ。でも、あなたの望みならば、と仕方がなく――」
「だから、誤解を招くような言い方はやめてくれェエエエエエエエ」
「時田くんの好みはともかく歴史の中には、ある為政者の習慣に実子の証明のために親戚や従者の監視下で『そういう行為』を実施する例があったみたいだよ」
《長光先輩……スカした顔でうんちくを語れば、許されると思ってるんですか?》




