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第91話 法龍院蛟牙の実子

「まさか、お館様の娘とはね」


「只者じゃねえとは思ってたけど、じーさんの娘とはな」


《奈央姉、その子の事、知ってるの?》


「うん。お屋敷にお泊まりする時に、怪我を治してもらったり、お話相手になってもらってるわ」


「空閑さんは、彼女の事を知らないのかい?」


《初対面ですよ》


「空閑は、怪我と無縁だからな」


《確かに、生前は屋敷(ここ)に泊まったことはないわね》


「嬢ちゃんは、患部に紙切れを貼って怪我を治せるんだよ。俺も世話になった」


「荒川さん、紙切れじゃなくて、お札ですよ」


「似たようなもんだろ」


「そう言われると身も蓋もないんですが」


《ちょっと待って! 長光先輩と荒川はともかく、秀矢も知ってるの!?》


「うん。会うのは今日で2回目かな。彼女の名前は今、初めて知ったけど――」


《何時の話? 私、知らないんだけど》


「あの時の亜由美は、アップデート中だったからな」


《入れ違いだったのね。ふーん》


「亜由美、せっかくの新人なんだから、もうちょっと愛想よくしてもいいんじゃないか?」


《まあ私は、アイボーだからね》


「何で拗ねてるんだよ」


「ご覧の通り、巳月はちょっぴりシャイでな。お前達には苦労かけるかもしれんが、わしからもよろしく頼む」


 割って入ってきた蛟牙の言葉に、サムライ衆の視線が蛟牙に集まる。


「お任せください」


長光が言った。


「頼りにしてるぞ。――で、今日の任務だが、言うまでないと思うが7層の探索。以上だ」


「お館様。お言葉ですが今日は、新人の……お嬢の育成を優先すべきかと――」


「巳月のステータスを見てみな」


 サムライ衆は一斉にスマホに目を向ける。


《むむっ、じっちゃんが言うだけあるわね。レベルは私達の中で一番上だし、他のパラメータも相当なものよ》


 亜由美の言う通り、巳月のレベルは歴の長い長光と日下部よりも上で、パラメータは集中力が突出してるものの他のパラメータも平均値が高く、長所はあるが短所らしい短所が見当たらない。


 固有ステータスは、呪力。


「スペックだけなら即戦力ですね」


 長光が言った。


「そういう事だ。長光、後は任せた」


「わかりました。――任務開始まで時間が空いてるから、場所を変えて、お茶でも飲みながら適当にお話でもしようか」


「珍しいわね。そうちゃんがお話の場を設けるなんて」


「新人歓迎会みたいなものだよ」


「そういうのは大賛成よ。巳月ちゃんともう少しお話しをしたいし」


「それじゃ、いつものラウンジに行こうか」


「了解」


 長光と日下部が立ち上がる。


 荒川、秀矢が後に続く。


「長光総司。少しだけ時間を頂戴」


 巳月は言いながら、立ち上がると秀矢に近づいた。


 秀矢の右腕と巳月の左腕がくっつきそうな感じだ。


《何で、秀矢の隣なのよ!? ほぼゼロ距離だし》


 その様子を目の当たりにした他のサムライ衆は一斉に足を止めた。


「任務に赴く前に、父上にお伝えしたいことがあります」


「どうした?」


 巳月に袖を引っ張られる。


「兼ねてからの懸案事項。私は、この者を推挙したいと思います」


 巳月の凛とした声が広い和室に広がる。


「ふむ、巳月の考えを聞かせてもらおう」と蛟牙が応じる様子を見せる。


 話が見えない秀矢の頭には、いくつものクエスチョンマークが浮かぶ。


 長光、日下部、荒川の三人も法龍院親子の話にピンと来てない模様。


「三者の才覚に優劣はありません」


「それは、わしも同意見だ」


「ですが、彼は――時田秀矢は、才覚の他に何やら秘めておられる様子。その実体は不明ですが、我が法龍院家には無い資質なのは間違いありません。――ならば、より強い龍の子を産むために、取り入れる価値は十分にあるかと存じます」


「なるほど。お前が自分で考えて、自分で選んだのなら、わしから言うことは何もない。好きにせい」


「ありがとうございます、父上――時田秀矢、私についてきて。部屋は用意してるから」


 袖が強く引っ張られる。


「待った、待った。一体、何の話だ? えっと――」


「私の事は、巳月と呼んでいいわよ。時田秀矢」


「わかった。――で、巳月。何をするつもりだい?」


《そうよ、そうよ。秀矢に、いきなり下の名前を呼ばせるなんて、いい度胸してるじゃない。距離の詰め方がおかしいんじゃない?》


 亜由美が毒づいてると、蛟牙が口を挟んできた。


「なあに大した話じゃない。我が家の跡継ぎの問題だ」


 蛟牙の近くにいる明美が「うん、うん」とうなずく。


 続けて巳月が「つまり私は、時田秀矢(あなた)の子を宿したい、という事よ」と真顔で言った。

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