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真の日常が戻る

 翌朝。


 眠い目をこすりながら、ベッドから起き上がる。


 そこで体が元に戻ってる事に気が付いた。


 昨夜は、アラームをセットしてからスリープモードにした所までは覚えてる。


 亜由美も魂がスマホに戻ってることを不思議そうにしてた。


 依然、俺達の体が入れ替わる条件は不明のまま。


 少ない情報の中から無理矢理、共通点を挙げるなら『睡眠時に入れ替わる』くらいだろう。


 毎晩、『体が入れ替わるかもしれない』という不安に怯えるのは勘弁願いたい。


 特にテスト期間中は、進路にモロひびく。


 こうして無事、いつも通りの朝を迎えることが出来た俺は朝食と身支度を済ませて、妹と一緒に家を出た。


 いつもの場所で妹と別れ、高校の校門を抜けると同時に声をかけられた。


 振り向くとそこには、男子生徒が複数名いた。


 ガタイにいい奴。


 ゴツイ拳だこのある奴。


 中背中肉だが肩幅が広い奴。


 体格はまばらだが、揃いも揃って精悍な面構え。


 少子化の時代に『よくもまあ朝っぱらから暇な連中だな』と感心する。


 結局、そいつらの正体は空手部、柔道部、拳法部、ボクシング部等の格闘技界隈からのスカウトだったので、丁重に断りを入れた。


 まったく運動部のスカウトが大人しくなったと思ったら、今度は格闘技か。


 格闘ゲームでも嫌な俺が、リアルの格闘なんてやるわけがないだろ。







「時田、壱河、昼休みに職員室まで来るように」


 ホームルームの終わり際、担任の十塚先生から呼び出しを食らった。


 昨日の件、既に学校に伝わってるようだ。


 そこで朝のスカウトと繋がった。


 公衆の面前で喧嘩をする問題児をスカウトする辺り、どこも少子化の波には逆らえない模様。


 そして昼休みになった。


 カバンを持って、教室を出る直前、百瀬からは「いつも通り部室にいるから」と声をかけられたので、俺は「時間があったら行くよ」と返した。


 俺と壱河は職員室に入り、十塚先生の席に向かった。


 俺達の顔を見るや否や、呆れ顔で「はぁー」と深い深い溜め息を吐いた。


「時田、壱河、何で昼休みの貴重な時間に呼び出されたのか。わかってるわよね」


「昨日、ケーキ屋の前で他校の生徒と喧嘩した件、でしょうか」


「素直に認めるのね」


 実際にやったのは俺じゃないが言い訳をするつもりはない。


 何故なら昨日の件は、俺も乗り気だったからだ。


「そうね。本音を言えば、ここで切り上げたいところだけど、私は君の担任という立場上、そうもいかなくてね。悪いけど、指導という形を取らせてもらうわ」


 ここは大人しくに説教を受けた方が良さそうだな。


「正直言って、最初は耳を疑ったわ。うちの男子生徒が『女言葉を発しながら他校の生徒と殴り合いの喧嘩をしてる』と聞いたから」


 あの時の亜由美は、俺の体であることを忘れてたのか、一発殴るごとに「手が痛くないわ」とか「蹴りを入れた時の手応えが違うわ」等、女子の口調で声を上げてたからな。


「――で店側から送られてきた動画を見たら、見覚えのある男子生徒だったわけ」


 やっぱり防犯カメラで撮られてたのか。


 さすがに録画したての映像は、どうしようもないよな。


「時田。とんだ高校デビューね。中学の生活態度は可もなく不可もなく。喧嘩とは無縁の人間だと思ってたのに」


「向こうが先に手を出してきたから、仕方なくですね――」


「それも聞いてるわ」


 十塚先生が怪訝そうな顔をしてる。


 何か腹を探られてる気がして、ちょっと嫌だな。


「まあ時田の方は、壱河に任せるとして――」


「嫌ですけど」


 本人のいる目の前でハッキリと拒絶されると傷付くなぁ。


 それにしても、十塚先生の態度が妙だな。


 てっきり、大声で叱りつけられるものと思ってたんだけど、そんな気配は無さそうだ。


「先生。結局、今回の件で、俺への罰とか内申の影響はありますか?」


「今回は、お咎め無し。当然、壱河もね」


「そうなんですね」


「そもそも昨日の件、通報者と当事者。全部が奇妙なのよ」


「はあ」


 話を切り上げようとしたのに、逆効果だったか。


「時田の女言葉もそうだけど、お店の態度も1回目と2回目で全然違ったの。1回目は『御宅の生徒を出禁にするぞ!』と息巻いてたのに、その数時間後には何故か平謝りして『今後とも御宅の生徒のご利用をお待ちしております』と言われたわ」


 シノビ衆が手を回してくれたんだろうな。


「そこに時田の犠牲者となった、他校の生徒の供述は何と『時田と喧嘩した記憶が無い』そうだ」


「え?」


「彼女と別れて、頭に血がのぼったところまで覚えてるけど、目が覚めた時には既に体中のあちこちが痛かったそうよ。時田のせいでね」


「記憶の欠落は、俺のせいじゃないですよ」


 少なくとも、あのチャラ男の頭部には触れてないし、床や壁に打ち付けてもない。


 それは亜由美の視点をきちんと見てたから、自信を持って言える。


 だから記憶喪失もきっとシノビ衆の隠ぺい工作だろう。


「だから、向こうの生徒個人からのクレームはない。原黒高からは『今回の件は穏便に済ませられるなら、それに越したことはない』との事。先に手を出したのは向こうだからね」


「へえ」


「この件は、それでお終い、というわけ。そういうことで時田。以後、気を付けるように。ただ――」


「?」


「最近は何かと物騒だから、変な事に巻き込まれないよう、節度ある生活を心掛けるように。以上」


「わかりました」


「壱河、次もし時田が手を上げそうになったら、大事になる前に止めるように」


「……検討します」







 俺と壱河は職員室を後にした。


 時間はまだまだあるので、部室に行くことになった。


 その道中で壱河が突然、足を止めた。


「時田くん、ちょっとだけスマホかして」


「え?」


「いいから。早くしないと人が来るわ」


 俺は壱河に催促されるがまま、カバンからスマホを取り出した。


「早く済ませろよ。俺のアイボーは騒がしいからな」


「わかってるわ。……悪霊さん、聞こえてるかしら?」


《何よ、壱河》


「もし、この世に未練が無くなったら私に言って。無料で、お祓いしてあげるわ」


《結構よ。こう見えて私、この世に未練タラタラなの》


「残念」


《でも、そうね……お気持ちだけは、ありがたく受け取っておくわ》


 壱河は俺にスマホを返却すると、俺を置き去りにするように早歩きした。

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