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デート……?

「お飲み物をお持ちしましたー」


 ウェイトレスが飲み物を持ってきた。


 壱河には、コーヒーがなみなみと注がれたマグカップを。


 亜由美には、ミルクティーがたっぷりと注がれた透明なグラスを手慣れた所作で置いた。


 カフェインは気になるが明日以降控えさせれば、数日で体から抜けるだろう。


 それから三人で……というか大半が亜由美と壱河だけど、とりとめのない雑談で時間を潰す。


 傍から見ると、仲が悪いようには見えない。


 故人となった亜由美。


 生きた人間を苦手とする壱河。


 特殊な境遇と特殊な嗜好。


 何の因果か、バッチリ噛み合ってるようだ。


 特に亜由美は、男の俺から見ても明らかに、楽し気におしゃべりをしてる。


 壱河は感情が表に出てないだけで、相槌をうったり、共感したり、時折ブラックジョークを交えながらも亜由美との会話を満喫してるようだ。


 おそらく壱河は日常生活において、魂だけの存在となった亜由美と、良くも悪くも共感できる唯一の人間。


 しかも同性となれば、亜由美にとっては心強い存在だろう。


 何せリスナーとの絡み、事務所との繋がり、友人、知人との交流が一瞬にして断ち切られたのだ。


 亜由美の中にある寂しさや喪失感は、俺如きでは計り知れないし、俺だけでは埋めることが出来ないのは容易に想像できる。


 そう考えると壱河と出会えたことは、素直に喜ぶべきだろう。


 死亡フラグを立てないように気を配る必要はあるけど、亜由美のためを思えばなんてことはない。


 などと二人の会話を聞きながら思いを巡らせてると食事が運ばれてきた。


 壱河はサンドウィッチが2片。


 亜由美は魚介類とトマトベースのパスタ、ペスカトーレのようだ。


 どちらも、こじゃれたカフェらしく小綺麗で少量と、男性目線からは物足りない。


 でも太りたくないので、今の俺には非常にありがたい量とも言える。


「いただきます」


 亜由美はフォークを使い、一口サイズになるまで麺を巻いてから口に運ぶ。


「? 悪霊さん、大丈夫?」


「ゴメン。久しぶりのご飯だから、つい嬉しくて」


 感無量、なのだろう。


 今の俺には亜由美の表情が見えないけど、満面の笑みを浮かべてるに違いない。


 二人は先ほどまでの賑やかさがウソのように、黙々と食事を続けた。


 程なくして、お皿が綺麗になる。


 壱河がスマホを操作して、食後のデザートを運ぶように注文をつけた。


「いやあ、美味しかった」


 亜由美はご満悦の模様。


「あー、自由に体を入れ替えることが出来ればいいんだけどねェ」


《俺としては、登校日は勘弁してほしいな》


「うん。わ、じゃなくて俺は勉強、好きじゃないし」


「勉強はともかく、今日みたいなフォローは二度とゴメンよ」


「へー、ふーん、ほう」


「ただの商売よ。時田くん、悪霊を払いたくなったらいつでも言ってね。学生ローンと初回キャンペーンもいいけど、現金一括払いがオススメよ。現金なら消費税分、おまけ出来るから」


《その気になったら、声をかけるよ》


「ちょっと!? 酷くない!?」


「デザートお持ちしましたー」


 ウェイトレスが二人分のケーキを持ってきた。


 二人とも、イチゴがのったショートケーキのようだ。


 うーん、タンパク質がちょっと心配だな。


 帰宅したらプロテインでも飲ませよう。


「さてさて、お味の方は――」


 亜由美はフォークでショートケーキの先端をすくいとり口に運ぶ。


 嬉しそうな唸り声が聞こえた。


 顔は見えないけど歓喜に打ち震えてるに違いない。


 一方、壱河はと言うと――。


「なめらかでコクのあるクリーム。綿菓子のようにフワフワなスポンジ。芳醇な香りと上品な甘さが口の中でとろけるわね。うん、SNSで評判なだけはあるわね」


 いつになく真剣な表情で饒舌に語りだした。


「ねー、生き返ったら絶対来ようと思ってて、目をつけてたんだよね。このお店」


「これなら他のメニューも期待できるわね」


 壱河がおもむろにメニュー表をテーブルに置いた。


「私、次はガトーショコラ頼んじゃおうっと」


「それじゃ呼ぶわね」


「ありがと」


 亜由美は、自分の体が男であることをすっかり忘れてるようだ。


 いや、そんな事よりも。


《あの……二人は、まだ食べるの?》


「当たり前じゃない。せっかくのチャンスだもん。たっぷり味わうわよ。太る心配いらないし」


《だから、それ俺の体! 太るのも俺なの!》


「時田くん。まさか『デザートは別腹』という言葉を知らないの?」


《知っとるわ! でも、俺の体は男の子なの! だから、腹も一つしかないの!》


「秀矢。ギリ6つあるから1つくらい、いいじゃん」


《デブったら問答無用で1つになっちゃうの! せっかく6つになったんだから維持したいの! 太りたくないの!》


「……あんたたち。普段、どんな生活してるのよ。もしかして一緒にお風呂に入ったりしてるの?」


 壱河のゴミを見るような視線が痛い。


 さらに佇まいが亡霊っぽいのも相まってホラー感に拍車がかかって怖い。


「今時、風呂場にスマホを持ち込むのは普通じゃない? 湯船に浸かってる時に動画とかネットを見たりしない?」


「私はそうだけど、あんたたちは見ないでしょ」


「普段は、個室じゃないと会話もままならないからね」


《壱河、俺の名誉と尊厳のために言っておくが、俺に見せびらかす趣味はないし、そういう癖も無いからな》


「時田くんは、露出症の疑い有り、と――」


 予測はしてたけど壱河は、俺の言葉を信じてない模様。


 ケーキをむしゃむしゃ食べながら、俺の体を凄まじい形相で睨みつけてる。


 そして、二人がケーキを3個ほど食べた時、俺の体の容体が急変した。


「う゛う゛っ! こんなはずじゃ……まだ3つ目なのに」


 俺の胃袋が限界に達したようだ。


 おまけに血糖値の急上昇により、眠気と倦怠感が押し寄せてる。


「情けないわね、時田くん」


《確かに俺の体だけど、ギブしたのは亜由美だからな》


「男の子のくせに」


《何で俺がなじられなきゃならないんだよ!》


「仕方ない。小さい時田くんに代わって、私が頂くわ」


「ゴメンね」


《クレームはいいけど、せめて主語はつけろよ。――というか、壱河は良く食うな》


「除霊師はね。実作業のカロリー消費が凄いのよ。毎日、鍛錬してるのもあるけど」


「そうなんだ。配信業が下火になったら除霊師に転職しようかな」


 そういや俺も任務の後は、めちゃくちゃ腹減るもんな。


 俺のはリミッター解除の副作用だけど、先天的に能力を保有してるギフテッドは日頃の燃費が悪いのかな。


 それはそうと、壱河は黙々とケーキを食べ進めてる。


 顔色一つ変えずに、食べるペースに衰えが見られない。


 当然、ケーキが運ばれると同時に追加注文を欠かさない。


 ドリンクも珍しくブラックコーヒーを飲んでると思ったら、口の中をリセットするためらしい。


 こんなに食べるならケーキバイキングに行ってくれよ。


 お金が払えることと商品価格が高いと思うことは別なんだからな。


「おい、あの席、見てみろよ。すげえウケるぜ」


「ほんとだー」


 そんな感じで、壱河の食欲が満たされるまでを待ってると、外野から嫌な声を聞こえた。

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