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エリア外

《九死に一生を得た、とは正にこの事を言うんだな》


「そうね、助かったわ。壱河ちゃん」


 俺達は壱河のおかげで無事、禁止エリアから脱出することが出来た。


 幸いにも、あの区画には壱河以外の女性の姿は無かった。


 壱河が調べてくれたおかげだ。


 その後は、村田さんに頼んでリミッターを解除してもらい、女子トイレの窓から飛び降りた。


 当然、着地点に人の気配が無いことを確認した上で、素顔は常備してるマスクでカバー。


 飛び降りた後は、亜由美の強い要望で『壱河にお礼がしたい』とのことで、壱河に連絡を取り、こうして合流したわけだが。


 壱河はというと、怪訝そうな顔をしてる。


「時田くんの声で『ちゃん付け』は、吐き気がするわ」


《悪いな壱河。後で言い聞かせておくから》


「お願いするわ。幽体離脱中の時田くん」


「わ、わた――じゃくて、俺が何をしたって言うのよ」


《微妙に男になりきれてないな》


「――で、悪霊さん。お礼ってなに?」


「今日1日、俺とデートしよう!」


 薄ら寒い笑顔を振りまく俺の顔。


 対する壱河はというと、こいつ頭大丈夫か? と言わんばかりに、眉間に大きなしわを寄せてる。


「テストも終わったことだし、ね。全部オゴるからさ」


 それ俺の金じゃん。


 そして俺の体じゃん。


「現世で死人とデート、ね。いいわよ」


「よし、きた! それじゃ、このまま行くよ」


「エスコートは頼むわよ。私が誘ったわけじゃないし」


「まっかせなさい!」








「ふー、やっと席に座れたな。壱河」


「そうね。悪霊さん」


 俺達は今、隣町にある有名なケーキ屋のテラス席にいる。


 天気もいいので、カメラの画角からでも解放感が伝わってくる。


 ここはカフェを併設してるため店内で飲食も可能で、ランチとディナーの時間帯には食事もある。


「ここまで遠い所なら、同じ制服の子はいないね」


《そうだな。テラス席と店内の見える範囲で解析をかけたけど、同じ学校の奴らはヒットしなかった》


「スマホに霊が憑りついてると、そういう芸当ができるのね。勉強になるわ」


 ちなみに俺の魂が入ってるスマホは今、テーブルの上に置かれてる。


 俺の視覚は亜由美と共有化してるので、亜由美の視点がそのまま映像として見れる。


 通話は、片耳に無線イヤホンを装着することで実現。


 俺の声は外部に漏れないが亜由美達には聞こえる状態になってる。


 そして壱河は私物の無線イヤホンを俺のスマホとペアリング済。


「ほら壱河。遠慮しないで好きな物、頼んで」


 亜由美は、そう言いながらテーブルの上にメニュー表を置いた。


「本当に遠慮しなくていいのね」


「うん。まっかせなさい」


 俺の金なんだけどな。


 そう思ったけど、口に出すのは止めよう。


 俺が出費に気を取られてる間に、亜由美と壱河は注文を終えたようだ。


「壱河、テストどうだった?」


「テスト、ね。……正直言えば、あんたたちの気配が気になって、それどころじゃなかったわ」


《俺達が入れ替わってるの気づいてたのか?》


「モチロンよ」


《――で、テストに集中できなかった、と》


「うん。そういう事にしておいて」


 どうやら壱河は俺と同じく勉強が苦手のようだ。


「悪霊さんは、どうだった?」


「当然、手も足もでなかったわ」


《追試、がんばるよ》


「お願いするね」


「時田くんは、大変そうね」


 そういや、壱河は除霊師だったよな。


 おまけに呪いの日本人形の制作者でもあるし、ちょっと聞いてみるか。


《壱河》


「なに?」


《お前の力で、俺の体を元に戻すことはできるか?》


「無理。私が出来るのは除霊。魂を別の肉体に移すことはできないわ」


《例の日本人形はどうやって作ったんだよ》


「人形だからできたの」


《それじゃあ、俺と同じ境遇の奴を知ってるか?》


「聞いた事も見た事も無いわ」


《現実は厳しいな》


「まあ、手がなくもないけど――」


《マジで!?》


「うん。マジ」


「えー、せめてご飯とデザートを味わってからにして。久しぶりの外食なんだし」


《う゛っ! で、でも――》


「そうね。悪霊さんの言う通り、食事が終わった後が良いわよ」


「ありがとう、壱河」


「だって、これが最後の食事になるもの」


「え゛!?」


「だから、せめてもの手向けとして、食べ終わるまで待ってあげるわ」


《壱河、お前が思いついた解決策を教えてくれ》


「まず時田くんの体から悪霊を除霊する。その後は、時田くんの魂が空っぽになった元の体に戻ろうとする作用に賭ける。以上よ」


「《却下だ》よ!」


「……なーんだ。できるかどうかやってみたかったのに」


「やっぱり、あんたはわた……俺の強烈なアンチね」

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