第12話 お手本とは?
「さあ、秀矢。次のレッスンに移るわよ」
「了解。エイムアシストのおかげで、俺でも戦えるし」
「次は、接近戦よ」
「え!?」
「ほらセンゴクだって、刀で斬りつけるでしょ? せっかく剣術スキルがあるんだから」
「それはゲームの話だって」
「大丈夫よ。そのゲームの才能が力になるし、フィジカルはナノマシンのバフとAIのサポートがあるでしょ。それに安心して。最初は手本を見せるから」
「そこまで言うなら」
「では、手頃な敵を見つけにしゅっぱーつ」
数分間、辺りを散策すると再び視界にモンスター情報が映し出される。
画像では、頭部が豚、腹部がぽっこり丸く、四肢には贅肉がついており、斧と盾を携えてる。
名前はオーク。
数は2匹。
「秀矢、ちゃんと見ててよ。私、白兵戦は苦手だから、一度しかやらないわよ」
亜由美が前に出る。
2匹のオークが獣のような唸り声を上げながら近づいてくる。
(ライフルで白兵戦って、どうやって戦うんだ?)
秀矢の疑念を他所に、亜由美が駆け出した。
軽快な足音が鳴ると同時に、1匹のオークに詰め寄る。
次の瞬間、オークの頭頂部が潰れた。
小さいながらもモザイク必至のグロ画像が鮮明に映る。
どうやらライフル型の刃機を無理矢理、鈍器の代用にしたようだ。
(あれを参考にしろと? ある意味、持ちキャラがバスターのやり方らしいと言えば、そうなんだけど……もっとこう、前衛らしい戦い方ってのがあると思うんだけど――)
呆気にとられてると、亜由美が戻ってきた。
「さあ、次は秀矢の番よ」
「俺が期待してたのとは、大分違うみたいだけど」
「接近戦なんてパッと近づいて、ザクッとやればいいじゃん」
「そう言われると、身も蓋もないな」
「それじゃ、頑張ってね」
秀矢は刃機を両手で強く握りしめてから、オークとの距離を一瞬で詰めた。
自転車で坂道を一気に下るような感じで、風を浴び、足を懸命に動かす。
気が付くと、目と鼻の先にオークの醜悪な姿があった。
(これは仕事だ。そして相手は人間じゃない。モンスターだ)
秀矢は、オークの体に目掛けて、一突きする。
刃機は何の抵抗もなく、オークの体を貫いた。
獣とも人とも思えぬ声をあげると、何かが落ちる音がした。
それは、オークが携えてた斧と盾だった。
続けて、刃機を通じて重さを感じた。オークが項垂れる。
直後、視界にはオーク撃破の通知と獲得した経験値とお金が表示された。
オークの亡骸から刃機を引き抜く。
刺し傷から血液と思しき黒い液体が噴き出た。
「上出来、上出来」
亜由美の明るい口調につられて、秀矢は上機嫌になる。
「秀矢。画面……視界の右上にゲージあるのわかる?」
そこには亜由美の言う通り一本の縦方向のゲージと、その上部に丸いアイコンがあった。
アイコンは、アルファベットのOとも、数字のゼロにも見える。
しかし、目を凝らして見ると、蛇が自分の尾を噛んで輪になってるようだ。
ゲージは、下の方から約三割が塗り潰されており、残り七割は背景が透けて見える。
「このゲージに、何か意味でもあるの?」
「当然よ。ゲージを消費しないと出せないスキルもあるんだから」
「――という事は当然、こいつを貯める方法がいくつかあると思うけど」
「うん。でも、貯める方法は、共通してるものと、してないものがあるの」
「共通してるもの……という事は、刃機を使ってアクションを起こすことかな」
「その通り。まあ、ゲーマーなら察しがつくわよね」
「必殺技とか特別なアクションをするためによく見るシステムだからね」
すると、ピロンと軽快な音と共に視界の右上、ゲージを隠す様にテキストウィンドウが出てきた。
今まで見たウィンドウと違うのは差出人という項目があること。そこには『長光総司』という名前が表示されてる。
それを見た秀矢は瞬時に、そのメッセージがチャット機能によるものだと理解した。
『チャットツールの活用も兼ねて、空閑さんの言うゲージの補足説明する。ゲージの正式名称は、ウロボロスゲージ。ウロボロスには様々な象徴性があるけど、僕たちの場合は循環性。僕たちのスマホには、既製品には無いウロボロス機関というものがある。こいつはスマホの動力源であるバッテリーとは異なる、もう一つのエネルギー貯蔵庫。運動だけでなく熱、原子、光を始めとする多種多様なエネルギーを変換して貯めることが出来る代物。ちなみに微量だけど、ダンジョンの外でも万歩計のようにスマホを所持して歩くだけでもエネルギーは貯まるよ。それがお館様が僕たちに、無理矢理デカいスマホを持たせてる理由の一つでもある。少々長くなったけど、もし最後まで読んだなら返信をしてほしい』
秀矢は返信の文字にタッチした。
すると、チャットの入力欄と同時に文字が記載されたウィンドウが出てきた。
文面は、チャットは思考で入力ができます、と書いてる。
確認用のOKボタンをタッチして、チュートリアル用のウィンドウを消す。
そして、チャットの入力欄がアクティブになるのを確認したら、返信したい言葉を思い浮かべた。
『充電でウロボロスゲージは貯まりますか?』
『早速、ニューラルインターフェースを使いこなしてるみたいだね。このチャットは同じフロア内なら多少、距離が離れてても使えるし、傷病等で発声が困難な時のコミュニケーションツールにうってつけだ。利用頻度が高い機能だから覚えておいて欲しい。で、質問の回答だけど、残念ながら通常の充電ケーブルではウロボロスゲージは貯められない。変な所で既製品と同じ仕様なのがもどかしいけど、そこは我慢だ。それじゃ講習も終わった事だし、チャットを閉じるよ』
『了解』
秀矢が返信した直後、チャットが閉じた。
同時にログというボタンが出てきた。どうやらチャットの履歴は、後で確認が出来るようだ。
「時田くん、僕たちがチャットをしてる合間に、近づいてくる敵がいるみたいだ。多分、さっきの断末魔に誘われたようだ」
「息つく間もないですね」
「ダンジョンはモンスターの巣窟。こちらの都合なんて、お構いなしさ」
「でも、俺の視点では警告は無いですけど」
「僕は、モンスターの感知が得意なんだ」
秀矢は、長光が装備してるゴーグル型の刃機を見て『そういうタイプ』なのだと納得した。
程なくして、モンスター情報が映し出される。
その映像を目にした瞬間、頭が真っ白になった。
何故なら、それは紛れもなく人間そのものだからだ。




