第11話 初陣
秀矢の刃機が亜由美のと同様、部品の継ぎ目や溝が淡く光りだした。
やはり男なのだろう。
光を帯びた刃機を目の当たりにした秀矢は、命がかかってる状況下にも関わらず興奮を覚えた。
「秀矢。弱点はわかるでしょ?」
「弱点は頭部。刺突と射撃なら脳みそを貫くように攻撃する事」
「さっすがー。それじゃ最初は射撃で倒してみようか。剣で切りかかってみたいところだけど、万が一ってこともあるからさ」
(そっか、確か俺の刃機には引き金があったな)
亜由美の言葉に異論は無い。秀矢は素直に刃機を持ち替えた。
切っ先をコボルドに向け、引き金に指をかける。
(あいつは間違いなく生きてるし、俺達を殺そうとしてる。そうだ、これはゲームじゃない。もしゲームならネタバレ禁止と釘を刺すが、命がけの戦いなら攻略情報は大歓迎さ)
視界には、ゲームのようにレティクルが表示された。
レティクルは、四隅の括弧と中央には点が一つ。
レティクルの点をゴブリンの頭部に向けて動かす。
点と頭部が掠れた瞬間、ゴブリンの眉間と点が綺麗に重なる。
「いいでしょ。エイムアシストがあるのよ」
エイムアシスト――マウスと違い微調整が難しいゲームパッドのスティックでエイムを合わせる時、レティクルを標的に近づけると、ゲームソフト側で細かな調整をサポートする機能。
「視覚情報とマスターの身体能力を元に、アイボーが最適なエイムを算出、そのデータを体内のナノマシンに送信、最後にナノマシンが潜在意識と神経に働きかけ筋肉を動かしてくれるの。最初は、気味悪いと思うけど、すぐに慣れるわ」
「それはありがたい」
エイムを調整してる間に、コボルドは正気を取り戻したのか、殺意を帯びた目つきで秀矢達を睨みつける。
レティクルは、コボルドの眉間にピッタリ張り付いてる。
秀矢は、躊躇なく引き金を引いた。
ピチュン、と軽い音と共に、短い光線が刃機の先端から射出。
光線は、コボルドの眉間に小さな穴を開けた。
コボルドは、短い断末魔と共に倒れた。
「おお、見事なヘッドショット。さすが秀矢」
「凄いのは、エイムアシストだよ。俺は、ただ引き金を引いただけさ」
「自信を持っていいよ、時田くん。アシストは、文字通りアシストに過ぎない。少なくとも君には、本当に射撃の才能がある。だから、すんなりと的を撃ち抜いたんだ」
「そういうものですか?」
「僕らの体にあるナノマシンは、ジャンクDNAを揺さぶって潜在能力を引き出し、才能を開花させるけど、苦手なものを克服したり新しい能力は授かる事はできないからね」
(才能ねぇ……実感が沸かないな)
日本生まれ日本育ちの秀矢は言うまでも無く、銃とは無縁の人生を歩んできた。
本物はおろか、エアガンすら見た事がない。せいぜいプラスティックの安っぽい水鉄砲が関の山。
それでも本物の武器で、動く標的をいとも容易く撃ち抜いた。
素人を達人に変えるエイムアシスト機能には、感心する他はない。
初戦を終えて安堵してると、刃機から《レベルアップおめでとうございます。マスター》と合成音声の祝言が聞こえた。
続けて画面には、レベルが2になったこと、各種ステータスの増加、スキルポイントの獲得したことが順番に流れる。
(数値は増えたけど、強くなった実感は無いな)
続いて、スキルポイントの割り振りの画面に遷移した。
(つうか、エイムアシスト機能があるくせに、なんでステータスとスキルは最初から全開じゃねえんだよ)
心の中で悪態をつきながら、秀矢は射撃系のパッシブスキルを一つ習得することにした。
「へえ、時田くんは判断が早いんだね。それだけスキルツリーあると、決めるだけでも一苦労すると思ったんだけど」
「それなら最初からスキル全開放、レベルとステータスをカンストしてくれればいいと思うんですが――」
「残念ながら、それは叶わない。何故なら、いきなり大きな力を得ると増長を招き、造反する恐れがある。それらを防ぐ意味があるからね。お館様の話では、昔は最初から潜在能力を全て解放してたけど、お館様に刃を向ける者が後を絶たなかったらしい。無理もない。大金と強大な力を得たら、どんな人格者も強欲になって、野心が芽生えるものさ」
「蛟牙のじいさんに刃を向けるって、そいつらはどうなったんですか?」
「士道不覚悟と見なされ、お館様自ら制裁を下したって聞いたよ」
「じいさん、何者なんだよ」
「陰陽師だよ。歴史に名を残す功績は無いけど、その道では、相当な実力者らしいよ。――と言っても、この話は全て、お館様からの伝聞だから正直、何とも言えないし、それが嘘か真かなんてどうでもいい。僕たちは粛々と仕事をして、労働に見合う対価をもらう。それだけさ」
「そんなに強いなら、じいさんがやれよ、って思いましたけど、仕事になるなら、隠居してもらった方がいいですね。前金もたんまりもらいましたし」
「そもそもお館様は、陰陽師であると同時に、大企業の会長だ。お館様の双肩には、10万人を越える社員とその家族の命が圧し掛かってる。悠長に、ダンジョン探索をしてる余裕がないのは当然さ」
「うーん、一般庶民の俺には想像もつかないな」
「そこは考えても意味はない。だから今は、一つ一つ仕事をきちんとこなし、実績を積み上げ、信頼を得ること。実社会でも、信用できない人間に融資はしない。大きな仕事は任せない。車の免許がない人に、公道を走らせないようにね。なんたってレベル、スキルポイント、ステータス、これらは全て、サムライとしての実績を数値化したものだからね。ちなみに査定は、アイボーがやってくれる。敵を倒せば経験値を獲得し、経験値が一定以上たまればレベルアップ、ダンジョンからお宝を持ち帰ったら追加報酬みたいに、ゲーム感覚で信頼を勝ち取るんだ」
「うーん、あれだけのスキルツリー。全部、埋められる気がしないんですが」
「伸びしろがある分には、いいじゃないか。それだけ才能に恵まれてるんだよ」
(そう言われてもなぁ……)
仮に、何等かの才能があったとしても、それが人生の支えになるとは限らない。
それは、秀矢自身が一番理解してる事。
だから、賞賛の言葉を耳にしても、素直に喜べなかった。




