第85話 決着……一部視点変更
ボスに連撃を放つ荒川が急に動きを止めた。
宿敵と繰り広げた生涯最後の試合。
そして、蛟牙との立ち合いが頭に過ぎる。
来ると分かっていながら、さばくのに難儀した攻撃。
相対する敵が震えあがる、獰猛なまでの執念と確固たる殺意を秘めた拳を思い返す。
ボスを討たねば全滅必至の状況下。
荒川は己自信を構成する矜持、信条、義務感を捨てた。
そして『命に代えてでもボスを討つ』という一つの信念を打ち立てる。
(恐れおののけ! 化け物め!)
無数の視線を浴びる。
サムライとモンスター……敵味方関係なく、戦いの最中だというのに、荒川に目を向けたのだ。
脅威――今の荒川は、人混みの中で凶器を振り上げた反社会勢力のような、日常の中に混沌をもたらす暴の権化。
周囲で戦ってる者達は、本来はわき目もふらずに逃げるべきシチュエーションにも関わらず、何故か凶器に目を奪われ、棒立ちになる。
それは、ボスも例外ではない。
弱点の位置は把握してる。
ウルトを当てようと試行回数を重ねてた時、人間で言う心臓の部位に当たることを避けるように、わずかだが距離を多くにとっていたことを見逃さなかった。
(今だ!)
千載一遇のチャンス。
荒川はボスの左胸部に目掛けて、三千世界無双拳を放つ。
パワー、ウィークポイント、タイミング……全てが完ぺきに噛み合う。
だが――引き手から突き手に変わろうとした瞬間、ボスの体がわずかに後ろに下がった。
正気を取り戻したのだろう。
このままでは、急所を避けられるのは必至。
腕が伸び切り、突き手の形と成る。
諦め――三澄彰の訃報から常に頭の片隅に転がってた言葉が一気に膨れ上がる。
正拳突きがボスの急所をとらえた。
――確かな手応えを感じる。
タイミングをずらされクリーンヒットの回避は免れない、と思った矢先に……ボスの体が爆散した。
視界に一瞬だけ黒い霞に覆われるが、程なくして消えた。
その先には、刃機の銃口をこちらに向ける秀矢の姿があった。
《目標の生体反応消失を確認……ノルマ達成だ。おつかれさん》
アイボーの報告に安堵するも束の間、すぐに気を引き締め周囲の警戒にあたる。
《大丈夫だよ。お前さんが引き付けてる間に、あの新人が全部倒してたよ》
――同僚に凄い青侍が居ると思ってくれればいい。
(青侍なら、俺を恐れないってことか)
自分に向けた銃口を見て、図らずも連携を取っていた事を知り、少しだけ心が沸き立つ。
「おつかれさま、うまくいったみたいだね」
長光からの通話が入る。
「こうみえても社会人だからな。ノルマをこなすのは慣れてんだよ」
「それは頼もしいね。――でも、次からは安全マージンの確保も忘れずにね」
「耳が痛えな」
「あー、よかったあ。今日もちゃんと生き延びられた~。ありがとう、だいちゃん」
「姐さんも、ご無事で何よりです」
「師匠は――大丈夫? 何か、ぼーっと突っ立ってるように見えるけど」
日下部が指摘する通り、秀矢の姿勢は刃機の銃口を向けたまま微動だしない。
マネキンのように動かないと思った次の瞬間、膝から崩れ落ちた。
両ひざと両手で、どうにか体を支えてるようだ。
「時田! 大丈夫か!?」
「師匠!」
三人が秀矢の元に駆け寄る。
◇◇◇
「刃機が重てえ……亜由美! 俺の体、どうなってんだ!?」
《命に別状は無いけど、ナノマシンの稼働率が1%切ってるから、そのまま寝てた方がいいわよ》
「戦ってる最中に寝てられるかよ」
《大丈夫よ。戦いは終わってるから》
「それじゃ、ここは天国か?」
《現実よ。私達の勝利も含めてね》
「いつの間に!?」
「時田くん、僕たちの事はわかるかな?」
「……長光さん、サクナ、荒川さん」
「記憶に異常は無いみたいだね。2つ目のウルトによる、体への負担は相当みたいだけど」
「2つ目のウルトって何ですか?」
「……空閑さん、詳しい説明は後日お願いするよ。今は、彼のためにも早く帰還しないとね」
《わかりました。……そうだ、荒川。秀矢、動けないから肩かしてあげて》
「お前が動かせよ」
《さっきも言ったけど、ナノマシンの稼働率が1%切ってるの。視覚共有と通話がやっとで、私からじゃ指一本動かすことできないんだから》
「わかったよ。俺が一番、体力余ってるみたいだしな」
荒川は秀矢の左腕を自分の首にかけた。
右手で秀矢の腰を抱きかかえようとした、その時――視界にアンノウンの警告メッセージが映し出された。




