第84話 敗北条件……視点変更
荒川は今、凄まじい焦燥感と罪悪感に囚われてる。
ボスの倒し方はわかってる。
しかし、あと一歩のところで必ず外してしまう。
そして、隙を突かれてモンスターが召喚される。
他の同僚がきちんと仕事をこなしてるのに、自分が足手まといになってる事に負い目を感じてるのだ。
老齢な見た目に反して、その動きは練達の域に達してるのは、否が応でも認めざるを得ない。
(寸でのところでいなされる……まるで蛟牙を相手してるみてえだ)
何度も交戦する中で、ボスの魔法攻撃への対処に慣れ、今では無意識に応対できるまでに至る。
しかし、ウルトだけは確実に防がれる。
だから、次こそは、と意気込み己を奮い立たせる。
その時、右腕のすぐそばに何かが掠めた。
《こいつは、新人の流れ弾だね》
ぶっきらぼうな若い女性の合成音声――荒川のアイボーが言った。
(――ったく、何やってんだ時田の野郎!)
集中力が途切れ、脳内に雑念が散らばる。
《スピーカーがオンに? 長光からのボイスチャットだ。ミュートを切るよ》
「荒川くん、いい知らせと悪い知らせがある」
「悠長な事、言ってる余裕ねえだろ! リーダー!」
「無理して、返事はしなくていい。僕からの一方的な言伝だ。君のアイボーに録音させておくし、追って詳細をまとめたメッセージも送信するから、そのままボスを引き留めてくれ」
荒川は長光の言う通り、返答せず、ボスとの交戦に集中した。
「まずは吉報から。今いるモンスターは、こっちで片付ける……正確には、時田くんがやるんだけどね」
ウィンドウを開き、同僚のステータスに目を向ける。
ゲージ、エネルギーの類は無いも同然。
荒川自身は彼らに比べて比較的マシだが、通常の任務では大きく消耗してる部類に入る。
(くそっ! こうなったら――)
皆に加勢しようとした時、通知が来た。
《戦ってるところ悪いが、これは目を通した方が良さそうだ》
ボスの魔法攻撃を避けつつ通知に嫌々、目を通す。
最初に、秀矢がウルトを発動中であることを理解した。
疑念を抱きつつ通知を読み進める。
ウルトの名前は、疑似英雄詩。
解放条件は、レベルが20以上でゲージとエネルギーが空になること。
発動条件は、ゲージとエネルギーが空になった時、ゾーンに入ると強制的に発動。
アビリティの内容は、ナノマシンを強制的に最大出力状態にすることで全ての動作が理論値に達する。
効果が切れるまで習得済みのスキルは、ゲージやエネルギーの消費を無視して、無制限で使用可能。
代償は効果が切れたら、99%のナノマシンが稼働停止する。
「――と言っても今の時田くんは何でもこなせる超人ではなく、時田くん本来の実力にAIの超反応が合わさることで、人間そのものを最大化した感じかな。だから疑似英雄詩が発動した時は、身内に凄い青侍が居ると思ってくれればいい」
(流れ弾は当たらないから、気にするなってことか)
「次に悪い知らせだが、僕たちはそろそろ限界だ。具体的に言えば、時田くんの2つ目のウルトが切れたら詰みだ。そのつもりで任務にあたるように。では――」
長光からの通話が切れた。
劣勢の状況下にも関わらず、いつもの作戦会議と同じ落ち着いた口調が逆に頼もしく思えた。
変に不安を煽られたり、オドオドしてるよりかはいい。
一瞬だけボスから目を切って、周囲を見渡す。
秀矢が敵陣を縦横無尽に駆け回り、モンスターに斬撃を繰り出し、魔法攻撃にはエーテル弾で応対してる様子が見えた。
その戦いぶりに、畏怖の念を抱く。
それは、2か月前に初めて見た青侍達への想いと同じ。
機械が命令通りに粛々とタスクを処理してる、という印象。
普通、生き物であれば感情の機微が顔や仕草に表れるもの。
それを荒川は、空手を通じて経験してる。
相手との立ち合いは言うまでもなく、観戦の時に遠くから見る二人の顔色と所作からでも感情が見て取れる。
しかし、今の秀矢からはそれを感じない。
文字通り、命を危険に晒してるにも関わらず無表情で、モンスターの攻撃を間一髪で回避しても、それがさも当然であるかのように眉一つ動かない。
その反面、今の秀矢がモンスターの攻撃に当たる想像がつかない。
《よそ見するな! お前さんはお前さんの職務を全うしな》
「言われるまでもねえ。――次は、必ず当ててやるよ!」
ボスと真っ向から撃ち合う。
(こんなものじゃねえだろ! 俺の、俺の拳は――)




