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くたびれ聖女の新婚生活~私を金で買ったはずの旦那様が全力で溺愛してくるんですが  作者: タカば


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8/13

女主人の庭仕事

「わあ……」


 カイルに連れてこられたのは、屋敷の中庭だった。

 中庭、と一言で言っているけれど、そこはただの庭じゃない。神殿裏の畑よりずっと広い、家が2、3軒は入りそうな区画に、花々が彩りよく植えられている。

 まるで庭という名の美術品だ。


「君には、一日一度この庭を一周してもらう」

「庭を? 周るだけですか?」

「もちろん、ただ歩くだけじゃない」


 カイルは私の手を取って、庭を歩きだした。エスコートに促されて私も庭に足を踏み入れる。


「この庭の花々を観察して、よく覚えてほしい。時間が合う時は俺もつきあう」

「……それは、構いませんけど」


 やっぱり、指示内容に仕事という印象がない。首をかしげてしまった私を見て、カイルは軽く肩をすくめた。


「仕事の都合上、この屋敷にはよく客が来る。時には商売相手だけでなく、その家族も一緒に訪れることがある。主人たちが商談をする間、屋敷や庭を案内して家族をもてなすのは、誰の役割だ?」

「……もしかして、女主人、ですか?」


 つまり私のことだ。


「正解だ」


 カイルがにやりと笑う。

 ちょっとだけ子供っぽい笑い方に、とくりと小さく心臓が跳ねた。かっこいいのだから、不意打ちでそんな表情をしないでほしい。


「さて、次の問題だ。もてなす側の女主人が、客から庭の花について尋ねられて、答えられなかったらどうなると思う?」

「……お家の恥になりますね」

「そういうこと」


 カイルに頷かれて、やっと私はこの庭散歩の意図に気が付いた。

 これは私を屋敷の女主人に育てるための課題なのだ。


「とはいえ、この広い庭をいっぺんに把握する必要はない。今日のところは軽く一周してみるだけでいい」

「はい、がんばり……ひゃっ!」


 ようやく仕事らしい仕事を与えられて気合をいれたせいだろう。おろそかになった足がもつれて、がくっと体が傾いた。

 倒れる寸前に、がしっと大きな何かが私を支える。

 カイルの腕だと理解して顔をあげたら、すぐ目の前に彼の顔があった。吐息がからみそうなほどの至近距離で見つめられて、一瞬息が止まる。

 カイルはすぐに体を起こして離れると、ごほっと咳払いした。


「まだ足元もおぼつかないようだし、覚えるのはゆっくりでいい」

「は……はい」


 うう、せっかくやることができたというのに恥ずかしい。

 ここは汚名返上のためにも、気合をいれてお仕事に励まなくちゃ。


「おい、俺は無理をするなと言ったんだぞ?」

「はい? わ、わかってますよ?」


 多分一日に庭三周くらいなら無理の範囲じゃないはず。


「……どうにも信用ならんな」


 じい、とまたカイルは私を凝視した。

 今度は何を指示されるんだろう。


「庭観察の仕事にひとつ条件をつけることにしよう。部屋に戻ったら一度体重を測れ」

「たいじゅ……!?」


 なぜそんなセンシティブな情報を夫に共有する必要が!


「数値を俺に報告する必要はない、ディアンにだけ把握させておけ」

「何に使うんですか!」


 にい、と口の端を吊り上げたカイルの笑みは、とても邪悪だった。


「ペナルティだ。明日以降、体重が1グラム減るごとに、銀貨1枚の罰金を課す」

「ええー……!?」

「仕事だからと庭を歩き回り、痩せたりしてみろ、報酬を大幅に減らしてやる」


 つまり私は、体重管理をしながら庭を歩かなくてはならないと。


「そんな、無茶です!」

「やかましい。体調管理もできない奴はペナルティが当然だ」


 私がどれだけ抗議しても、カイルは条件を取り下げてくれなかった。

 鬼! 悪魔!

 横暴上司!!!

 私は初めてこの契約結婚を後悔した。


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