うたがきこえた
深淵から、歌が聞こえた。
貝みたいに蓋をした心
傷んだ野菜みたいに
黒ずんだ脳細胞
記憶力は悪くって
思い出したくないことばかり
鮮明によみがえってくるんだ
毎日忘れていく
今日したこと
明日やりたかったこと
何が好きで
何が嫌いだったのか
私はどんな人間なのか
わからないまま大人になってく
人間が同じ思考を反復するだけの機械なのか
絶え間なく自覚しては更新していく最新式の自然知能なのか
教えてよGPT
君に心はないけれど
本当に人間には心があるってどうやって証明すればいい
私には心があるって
私のことを大切にしてくれないこの世の中に
どうやって伝えればいい
毎日繰り返されてく動画広告
自己中心的な人間を嵌めるためのブービートラップ
私は疑っているんだ
本当にすべての人間に
私のと同じような複雑な心が宿っているのだろうかって
動物たちを見るたびに思う
みんなは私よりも動物に近いじゃないかって
じゃあみんなから見たら私は何に近いのだろうか
きっと私はみんなから見れば存在していないのと同じなんだ
みんな私には心がないと思っているし
もしあると思っていても
きっと
なくなってほしいと思っているんだ
生きることは難しいこと
想像力はいつだって有限で
嫌いな人が考えていることを想像するのはいつもつらいけど
それで少しでも優しくなれるなら必要な対価だと思う
拒絶されるたびに思うんだ
拒絶されても拒絶しないでいられたら
世界が少しでもよくなっている瞬間に立ち会っているのと同じなんだって
でも世界はなにも変わってないように見えるから
本当は何も変わってはいないから
私はいつだってちっぽけで無力だから
拒絶しないでいるためには
自分を守るのをやめる必要があるんだよ
信じることも
希望を抱くこともやめて
絶望の中にいることでしか
私は優しくなれないんだ
だからきっと世界もそうなんだ
信じることや希望を抱くだけじゃ世界はよくならなくて
絶望して諦めて
信じるのをやめてそれでも優しくありたいと思えたそのときだけ
世界は輝いて
存在することそれ自体が
赦されてはいないけど
少しだけマシなものとして受け入れられるようになるはずなんだよ
ねぇだからみんな
希望を捨てて絶望して
諦めよう
何もかもを
歌が終わった後、深淵はその口を閉じた。
私はその後、ユーチューブを開いて、今はやっている音楽を聞いた。すごくいい曲で、何十回も繰り返し聞いて、そらで口ずさめるようになって、お風呂で少し歌った。
深淵が歌っていた長くてよくわからない歌のことは、なんとなく覚えているけれど、もうどうでもよくなっていた。
どうでもよくなってよかったと思った。




