騒動の種
――その“現場”に、さらに二人分の圧が加わった瞬間。
(あ、収拾つかない方向に進化したわね)
と、わたくしは静かに理解した。
倒れた机。
砕けた花瓶。
魂を抜かれたような男子生徒。
そして中心で――
「違うんですぅ~♡」
両手を胸元で組み、うるうると見上げるミレイ。
完璧な角度。
完璧な声色。
完璧にイラッとする。
(芸術点は高いのよね、ほんとに)
そこへ――
「リリアン様!」
勢いよく駆け寄ってくるアリーシャ。
スカートの裾を押さえながらも、足取りは軽快。
目はキラキラ――ではなく、ギラギラ。
(あ、怒ってる)
「ご無事ですか!?」
「わたくしはね」
「ではこの惨状は!?」
「だいたいミレイ」
「やっぱりですか!」
理解が早い。助かる。
その横で、ガリオンが一歩前に出る。
「……護衛対象、問題なし」
「状況は?」
「敵性個体一名、行動活発」
「言い方」
「制圧、可能」
「物理やめなさい」
ミレイがぴくっと反応。
「敵ってなんですかぁ~♡」
「現状の総評よ」
わたくしは一歩踏み込む。
空気が締まる。
ミレイは笑顔のまま――
ほんの一瞬だけ、アリーシャとガリオンを見る。
(測ってるわね)
新戦力チェック。相変わらず抜け目ない。
アリーシャが小さく呟く。
「……無理です」
「なにが?」
「この方、無理です」
「分かる」
ガリオンもぼそり。
「……同意」
(珍しいわね)
この二人がここまで一致するの。
「で」
わたくしは腕を組む。
「ミレイ」
「はぁい♡」
「状況説明」
「自然災害ですぅ~♡」
「ガリオン」
「接触、押圧、転倒、連鎖破損」
「三秒で解析終わったわね」
ミレイが慌てる。
「ち、違いますぅ!」
そこで、アリーシャが一歩前へ。
にっこり笑顔。
――でも目が据わってる。
(あ、これ“お仕置きモード”確定)
「ミレイ様」
「は、はぁい♡」
声、震えた。
いい傾向。
「確認させていただきますね?」
「や、やさしくお願いしますぅ~♡」
「優しく“事実確認”いたします」
圧がすごい。
丁寧語で殴ってる。
「押しましたか?」
「……ちょっとだけぇ~♡」
「どの程度の“ちょっと”で机が倒れるのでしょう?」
「机が弱くてぇ~♡」
「学園の備品を侮辱なさるのですね?」
「してないですぅ♡」
「しました」
即断。
切れ味が鋭い。
ガリオンが横で頷く。
「……的確」
「やめなさい、感心しないで」
ミレイがじりっと後退。
一歩。
二歩。
(あら)
本気で押されてる。
アリーシャがさらに一歩詰める。
「リリアン様」
「なに」
「お仕置き、いたしますか?」
柔らかい声。
内容は完全に拷問予告。
ガリオンも続く。
「拘束、可能」
「だから物理やめなさい(三回目)」
でも。
わたくしは少し考える。
(……この流れ、嫌いじゃないわね)
ミレイが明らかに焦ってる。
ユイがハラハラしてる。
桜が観察してる。
(バランスがひどい)
でも。
(使える)
視線をミレイへ。
「選びなさい」
「え?」
「補習十倍」
一拍。
「アリーシャのお仕置き」
「補習で!!」
即答。
過去最速。
迷いゼロ。
アリーシャがほんの少し残念そうに目を伏せる。
「……そうですか」
「残念そうにしないで」
ガリオンも頷く。
「合理的判断」
「あなたもちょっと残念そうよ?」
なんなのこの二人。
怖い。
でも頼りになる。
すごく。
ようやく場が落ち着く。
ユイがほっと息を吐く。
「よ、よかった……」
その声は本当に安心していて。
混じり気がない。
(……こういうところ)
真っ直ぐ。
疑わない。
だからこそ。
さっきの証言も、誰も否定できなかった。
ミレイとは真逆。
桜が小さく呟く。
「……強いね」
「誰が?」
「ユイ」
ユイが慌てる。
「え、え!? わたし何もしてないよ!?」
「してるわよ」
わたくしは軽く言う。
「一番効くことをね」
ミレイがむすっとする。
「ずるいですぅ~♡」
「なにが?」
「正論はずるいですぅ~♡」
「知らないわよ」
それは諦めなさい。
歩き出す。
いつもの並び。
少し騒がしくて、だいぶ面倒な隊列。
横でアリーシャが小声で言う。
「リリアン様……本当にお仕置きしなくてよろしかったのですか?」
「なに、やりたかったの?」
「少しだけ」
「少しの範囲を教えて」
「三時間ほど」
「長い」
ガリオンがぼそり。
「……妥当」
「あなたも乗るの?」
なんなのこの護衛。
怖い。
でも安心感はある。
すごくある。
(……頼りになるわね)
ふと、肩の力が抜ける。
ほんの少しだけ。
「まあいいわ」
前を向く。
「逃げ場はないし」
ミレイがぴくっとする。
「え?」
「全部、管理するから」
にっこり。
宣言。
ユイがちょっと引く。
桜が納得顔。
ミレイが乾いた笑い。
「こわいですぅ~♡」
「今さらね」
騒がしくて。
面倒で。
手間ばかりかかって。
でも。
(……一人じゃない)
それだけで、少しだけ違う。
わたくしは小さく息を吐く。
軽い。
さっきより、ずっと。
「飽きないわね」
その言葉は、自然にこぼれた。




