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お前は、ヒロインではなくビッチです!  作者: もっけさん
オブシディアン領で労働中

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200/207

聖女が増殖を始めました2

 ――まだ温かい。


 その一口を飲み込んだ瞬間。


「失礼いたします!!」


 バンッ!!!


 また扉が開いた。


 今日、何枚壊れるのこれ。


 建築費が心配になってきた。


「今度は誰よ……」


 げんなりしながら顔を上げる。


 入ってきたのは――


 伝令。


 全力疾走してきた顔。


 汗だく。


 息切れ。


 そして第一声。


「聖女様が増えました!!」


「帰っていい?」


 即答だった。


 無理。


 キャパオーバー。


 さすがに三人目は聞いてない。


「増えたって何」


 フリックが冷静に聞く。


 さすが、メンタル鋼。


 私はもう折れかけてる。


「市街地で……その……“私も聖女です”と名乗る者が……!」


「うん」


「現在、五名ほどに増殖しております」


「増殖言うな」


 完全にバグじゃん。


 パッチ当てて。


 運営どこ。


「……リリアン」


 ユイが小声で呼ぶ。


 顔が引きつってる。


 わかる。


 私も同じ顔してる。


「これ、どういうこと……?」


「知らない」


 即答。


 むしろ知りたい。


「え、なに?聖女って流行ってるの?」


「流行語大賞狙えますね」


 フリックが真顔で言う。


 やめて。


 それ採用されると困る。


「“今年の一文字:聖”とかになるわよ」


「縁起は良さそうですね」


「国が終わるわ」


 色んな意味で。


「と、とにかく!」


 伝令が必死に続ける。


「民衆が混乱しておりまして!どの聖女を信じればいいのかと!」


「全員信じなきゃいいじゃない」


「それはそれで困ります!!」


 でしょうね。


 信仰ビジネス的に。


「……ねぇフリック」


「はい」


「これ、どう収拾つけるの」


「簡単でございます」


 即答だった。


 怖い。


「“選ばせなければよろしいかと”」


「どういうこと?」


「選択肢が多いと人は混乱しますので」


 さらっと怖いこと言ってる。


「選択肢を――減らす?」


「いえ」


 フリックはにこりと微笑む。


「逆でございます」


「逆?」


「全てを“正解”にしてしまえばよろしいのです」


「詐欺師かな?」


 天才かもしれないけど方向が危険。


「つまり」


 フリックは指を一本立てる。


「“誰を信じても救われる”という構図にすれば」


「宗教の完成形じゃないそれ?」


「効率的でございます」


 怖い怖い怖い。


 この人、国動かせるわ。


 悪い意味でも良い意味でも。


「……リリアン」


 ユイがまた小声。


「なんかすごいことになってない?」


「なってるわね」


 他人事みたいに言う。


 実際、半分他人事。


 もう感覚麻痺してる。


「でも大丈夫」


「どこが!?」


「どうせ――」


 私は椅子から立ち上がる。


 ガタッ、と音が鳴る。


 全員の視線が集まる。


 うん、この感じ。


 慣れてきた自分が怖い。


「こういう時は」


 一歩前に出る。


「もっと混ぜればいいのよ」


「悪化させる気ですか!?」


 正解。


「伝令」


「は、はい!」


「その“自称聖女たち”」


 一瞬考える。


 そして、にやっと笑う。


「全員ここに連れてきて」


「はい!……はい!?」


 二回返事したね。


 混乱してる証拠。


「え、ちょっと待ってリリアン!」


 ユイが慌てる。


「それ、まずくない!?」


「何が?」


「だって聖女だらけになるよ!?」


「いいじゃない」


 私は肩をすくめる。


「多い方が賑やかでしょ」


「お祭りじゃないんだよ!?」


 的確なツッコミ。


 ほんと優秀。


「大丈夫大丈夫」


 軽く手を振る。


「どうせ偽物混ざってるんだから」


「混ざってる前提!?」


「むしろ全員偽物の可能性もあるわよ」


「じゃあ私たちは!?」


「……」


 一瞬、間。


「……たぶん本物」


「たぶん!?」


 不安定すぎるアイデンティティ。


「まあいいのよ」


 私はくるっと背を向ける。


「本物かどうかなんて」


 歩きながら言う。


「後で決めればいいんだから」


「順番おかしくない!?」


 後ろでユイが叫ぶ。


 うん、正論。


 でも無視。


「フリック」


「はい」


「会場用意して」


「どの規模で?」


「そうねぇ……」


 ちょっと考える。


「聖女十人くらい並べても余裕あるやつ」


「かしこまりました」


 即答。


 仕事が早い。


 怖い。


「あと」


 私は振り返る。


「“聖女総選挙”って名前にしよ」


「やめてください」


 珍しくフリックが即否定した。


「それは本気でまずいです」


「ダメ?」


「ダメでございます」


「ちぇー」


 舌打ち一歩手前。


 残念。


 絶対面白いのに。


「じゃあ」


 代案を考える。


「“聖女フェス”」


「方向性が変わっておりません」


「えー」


 ノリ悪いなぁ。


「……リリアン」


 ユイがぽつり。


「これ、どうなるの……?」


「んー」


 私は少し考えてから、笑った。


「カオスになる」


「もうなってるよ!!」


 その通り。


 満点回答。


「でもね」


 少しだけ真面目な声で言う。


「カオスの方が」


 軽く肩をすくめる。


「嘘は暴きやすいのよ」


「……あ」


 ユイの目が、少しだけ見開く。


 うん、気づいたね。


 いい感じ。


「だから」


 にっこり笑う。


「全部ひっくり返す準備、しよっか」


 その言葉と同時に。


 外からさらに騒がしい声。


「新しい聖女様が来たぞー!!」


「七人目だ!!」


「増えてる!!」


「やめて!!」


 ユイの悲鳴が響く。


 うん、気持ちはわかる。


 でもね――


 私はちょっとだけ楽しそうに笑った。


「いいね」


 完全に目が据わってる。


「乗ってきたじゃない」


 こうして。


 聖女二人問題は。


 なぜか――


 “聖女増殖事件”へと進化したのだった。

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