強制イベント発生・聖女召喚されました4
食堂は、静かだった。
いや、正確には――
「静かすぎるのよね」
私が入った瞬間、スプーンの音が一斉に止まった。
見事なまでのシンクロ率。
なんなのこれ、練習してるの?
「どうぞこちらへ」
フリックが自然に席へ案内する。
うん、仕事ができる男は違う。
背後では神官たちが、さっきまでの“強制労働現場”から逃げ出してきたのか、魂が抜けた顔で壁に張り付いていた。
いい傾向ね。
そのまま干からびていいわよ。
「ユイ、座って」
「う、うん」
おずおずと椅子に座るユイ。
目の前に並ぶ料理に、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「……すごい」
「でしょ」
誇らしく言う。
私が作ったわけじゃないけど。
「毒とかは入ってないから安心して」
「入ってたらどうするの!?」
「その時は一緒に倒れるわね」
「安心できない!」
いいツッコミ。
将来有望。
思わずちょっと笑う。
ユイもつられて、少しだけ口元が緩んだ。
よし。
場の温度、さらに+5度。
「ほら、食べて」
「……いただきます」
小さく手を合わせて、スープに口をつける。
一口。
二口。
そして――
「……おいしい」
ぽつりと零れた声。
その瞬間。
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
(ああ、よかった)
こういう“普通”が、一番効くのよね。
――その頃。
教会奥、立ち入り制限区域。
「……どういうことだ」
低い声。
重たい沈黙。
そして、苛立ち。
「“聖女”は一人のはずだ」
机を指で叩く音が響く。
「それが二人?」
「はい……現場の報告では……」
「馬鹿な」
吐き捨てる。
「計画が狂う」
その一言に、全てが詰まっていた。
計画。
つまり――
「ナリス様への報告は」
「……まだです」
「当然だ」
鋭く言い切る。
「余計な混乱を招くだけだ」
一拍。
「まずは――」
ゆっくりと、笑う。
冷たい笑み。
「どちらが“本物”か、選別する」
その言葉は、静かに。
だが確実に。
嵐の種を撒いた。
――再び食堂。
「ねぇ、リリアン」
「なに?」
「その……」
ユイが少し迷ってから言う。
「さっきの人たち、怒ってた?」
「んー」
ちょっと考える。
「怒ってたというか」
一言でまとめる。
「人生終わった顔してた」
「えぇ……」
引いてる。
うん、正常な反応。
「でも大丈夫」
軽く手を振る。
「ちゃんと働けば許すつもりだから」
「許す“つもり”なんだ……」
「結果次第ね」
にっこり。
ユイ、スープを吹きそうになる。
危ない危ない。
「で、ユイ」
「なに?」
「これからちょっと忙しくなるけど」
フォークをくるくる回しながら言う。
「怖いことは、できるだけ私が前に出る」
視線を合わせる。
「だから――」
軽く笑う。
「後ろにいなさい」
「……うん」
今度は、ちゃんとした頷き。
さっきよりも、少しだけ強い。
いいね。
ちゃんと“軸”ができてきてる。
(さて)
私は内心でため息をつく。
(外は権力争い、内は後始末)
(しかも聖女二人問題付き)
完全に詰め合わせセット。
返品不可。
クソ仕様。
「……ま、いいか」
小さく呟く。
「どうせやるなら」
口角を上げる。
「全部ひっくり返すくらいでちょうどいいでしょ」
その言葉は、誰にも聞こえなかったけど。
確実に――
物語は、次の段階へ進み始めていた。




