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お前は、ヒロインではなくビッチです!  作者: もっけさん
オブシディアン領で労働中

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198/207

強制イベント発生・聖女召喚されました4

 食堂は、静かだった。


 いや、正確には――


「静かすぎるのよね」


 私が入った瞬間、スプーンの音が一斉に止まった。


 見事なまでのシンクロ率。


 なんなのこれ、練習してるの?


「どうぞこちらへ」


 フリックが自然に席へ案内する。


 うん、仕事ができる男は違う。


 背後では神官たちが、さっきまでの“強制労働現場”から逃げ出してきたのか、魂が抜けた顔で壁に張り付いていた。


 いい傾向ね。


 そのまま干からびていいわよ。


「ユイ、座って」


「う、うん」


 おずおずと椅子に座るユイ。


 目の前に並ぶ料理に、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「……すごい」


「でしょ」


 誇らしく言う。


 私が作ったわけじゃないけど。


「毒とかは入ってないから安心して」


「入ってたらどうするの!?」


「その時は一緒に倒れるわね」


「安心できない!」


 いいツッコミ。


 将来有望。


 思わずちょっと笑う。


 ユイもつられて、少しだけ口元が緩んだ。


 よし。


 場の温度、さらに+5度。


「ほら、食べて」


「……いただきます」


 小さく手を合わせて、スープに口をつける。


 一口。


 二口。


 そして――


「……おいしい」


 ぽつりと零れた声。


 その瞬間。


 胸の奥が、少しだけ軽くなった。


(ああ、よかった)


 こういう“普通”が、一番効くのよね。


 ――その頃。


 教会奥、立ち入り制限区域。


「……どういうことだ」


 低い声。


 重たい沈黙。


 そして、苛立ち。


「“聖女”は一人のはずだ」


 机を指で叩く音が響く。


「それが二人?」


「はい……現場の報告では……」


「馬鹿な」


 吐き捨てる。


「計画が狂う」


 その一言に、全てが詰まっていた。


 計画。


 つまり――


「ナリス様への報告は」


「……まだです」


「当然だ」


 鋭く言い切る。


「余計な混乱を招くだけだ」


 一拍。


「まずは――」


 ゆっくりと、笑う。


 冷たい笑み。


「どちらが“本物”か、選別する」


 その言葉は、静かに。


 だが確実に。


 嵐の種を撒いた。


 ――再び食堂。


「ねぇ、リリアン」


「なに?」


「その……」


 ユイが少し迷ってから言う。


「さっきの人たち、怒ってた?」


「んー」


 ちょっと考える。


「怒ってたというか」


 一言でまとめる。


「人生終わった顔してた」


「えぇ……」


 引いてる。


 うん、正常な反応。


「でも大丈夫」


 軽く手を振る。


「ちゃんと働けば許すつもりだから」


「許す“つもり”なんだ……」


「結果次第ね」


 にっこり。


 ユイ、スープを吹きそうになる。


 危ない危ない。


「で、ユイ」


「なに?」


「これからちょっと忙しくなるけど」


 フォークをくるくる回しながら言う。


「怖いことは、できるだけ私が前に出る」


 視線を合わせる。


「だから――」


 軽く笑う。


「後ろにいなさい」


「……うん」


 今度は、ちゃんとした頷き。


 さっきよりも、少しだけ強い。


 いいね。


 ちゃんと“軸”ができてきてる。


(さて)


 私は内心でため息をつく。


(外は権力争い、内は後始末)


(しかも聖女二人問題付き)


 完全に詰め合わせセット。


 返品不可。


 クソ仕様。


「……ま、いいか」


 小さく呟く。


「どうせやるなら」


 口角を上げる。


「全部ひっくり返すくらいでちょうどいいでしょ」


 その言葉は、誰にも聞こえなかったけど。


 確実に――


 物語は、次の段階へ進み始めていた。

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