強制イベント発生・聖女召喚されました3
――そして。
「ご飯って言ったけど」
私は立ち止まる。
「この教会、まともなご飯出るの?」
「……精進料理が基本でございます」
フリックが即答。
さすが有能。
そして嫌な予感しかしない。
「ちなみにメニューは?」
「薄味の粥、塩控えめのスープ、味のしないパンでございます」
「味のしないパンって何?」
「概念です」
「概念で腹は膨れないのよ」
即ツッコミ。
ユイがくすっと笑った。
よし、笑顔ボーナス+3。
「却下」
私は即決する。
「人はね、ちゃんとした飯を食べないとまともな判断できないの」
「はぁ……」
「つまりこれは」
指を立てる。
「人道的支援よ」
「ただの外食では?」
「違うわ」
キッパリ。
「正義よ」
「定義が広い」
教会を出た瞬間。
――視線。
めちゃくちゃ視線。
何この注目度。
私、いつの間にそんな有名人になったの?
「……リリアン様だ」
「隣の子が例の……?」
「え、もう次の聖女決まったの?」
「仕事早すぎない?」
「ブラックすぎるでしょ教会」
おい。
最後のやつ誰だ。
あと事実に近いのやめろ。
「……情報伝達速度どうなってるの?」
「噂は風より早くございます」
「風、失業しなさい」
とりあえず一番近くの店に入る。
「ここでいいか」
看板を見る。
“肉・肉・肉”
「潔いわね」
「精進料理の反動でしょうか」
「人間って極端よね」
席に着く。
ユイはまだ少し緊張してる。
まあ無理もない。
異世界初飯が“肉祭り”ってどうなの。
「遠慮しなくていいからね」
「……でも」
「いいのいいの」
メニューを開く。
「今日は奢り」
「えっ」
「経費で落とすから」
「落ちるんですかそれ」
「落とすのよ」
強い意志。
注文後。
ふぅ、と一息。
「で」
私は水を一口。
「ここからはちょっと真面目な話」
ユイが姿勢を正す。
うん、いい子。
「さっきも言ったけど」
「すぐに元の世界に帰すのは難しい」
「……うん」
「でも」
指でテーブルを軽く叩く。
「手段は絶対ある」
「……ほんとに?」
「ある」
即答。
「なかったら?」
一瞬、考えて。
「作る」
「作るの?」
「作る」
力技宣言。
ユイ、ちょっと引いてる。
大丈夫、私もたまに自分で引く。
そこへ。
「お待たせしましたー!」
料理到着。
ドン。
ドン。
ドン。
肉。
肉。
肉。
「圧がすごい」
「戦場みたいですね」
「平和な戦場って何よ」
ユイが一口食べる。
「……おいしい」
ぽつり。
その一言。
ほんの少しだけ、肩の力が抜ける。
(よかった)
まずはこれでいい。
全部一気に解決なんて無理。
でも。
一個ずつなら。
――その時。
店の扉が開く。
カラン、と軽い音。
「……あら」
見覚えのある顔。
そして、明らかにこちらを探していた視線。
女が一人。
ゆっくりと歩いてくる。
「随分と楽しそうね、リリアン」
にこやか。
でも目が笑ってない。
「仕事中にお食事なんて」
あーはいはい。
来ました。
めんどくさいやつ。
「……どちら様?」
とぼける私。
フリックが小声で補足。
「教会本部所属、“もう一人の聖女”候補でございます」
「候補って何よ」
「暫定的な対抗馬です」
「いらないそのシステム」
女はユイを見る。
じっと。
値踏みするように。
「その子が“新しい聖女”?」
「違うわ」
即否定。
「被害者」
「……まあ」
女は肩をすくめる。
「どちらでも同じことよ」
「全然違うわよ」
声が少し低くなる。
「その認識、今すぐアップデートして」
空気が、少しだけ張る。
さっきまでの“肉の平和空間”が、
じわじわと戦場に変わる。
ユイが私の袖を握る。
ぎゅっと。
(大丈夫)
軽く手を重ねる。
「ねぇリリアン」
女は微笑む。
「その子、あなたが抱えるつもり?」
「そう言ったでしょ」
「大変よ?」
「知ってる」
「潰れるかもよ?」
「ならない」
即答。
女は一瞬だけ黙る。
それから。
くすっと笑った。
「……いいわ」
一歩引く。
「せいぜい頑張りなさい」
踵を返す。
「その“理想”がどこまで持つか」
最後に一言。
「楽しみにしてるわ」
去っていく。
沈黙。
「……」
「……」
「……」
そして。
「……冷めるわね」
「はい」
「戦闘後あるある」
私は箸を持ち直す。
「食べよ」
「え、いいんですか今のあとで」
「いいの」
きっぱり。
「冷めた肉は正義じゃない」
「基準そこなんですね」
ユイが、少し笑った。
ほんの少しだけ。
でも確かに。
(さて)
心の中で思う。
(面倒くさいの、増えたわね)
教会。
二人の聖女。
帰還手段。
そして――
明らかに“何か隠してる連中”。
でもまあ。
やることは変わらない。
「全部まとめて」
小さく呟く。
「どうにかするだけ」
――嵐、拡大中。




