強制イベント発生・聖女召喚されました
――王都は、久方ぶりの“平穏”を取り戻していた。
少なくとも、表面上は。
南部街道の混乱は収まり、商流も安定。
民衆の間に広がっていた不安も、徐々に薄れていく。
そして何より――
「……静かすぎるのよねぇ」
馬車の窓から外を眺めながら、私はぽつりと呟いた。
いやほんと、静かすぎる。
怖いわ。
何この“嵐の前のフラグ立ててます”みたいな空気。
絶対あとで爆発するやつじゃない。
「ナリス側は動きなし、です」
向かいに座るフリックが、いつも通り無機質に報告する。
「ええ、知ってる」
「監視網にも大きな変化はありません」
「でしょうね」
私は軽く肩をすくめた。
「一発殴られて、今は“痛いンゴ…”って丸まってるだけでしょ」
「……」
フリックは何も言わない。
けどその沈黙、絶対「その表現どうなんですか」って思ってるやつよね。
分かるわよ。
でも訂正しないわよ。
「どうせすぐ立ち上がってくるわよ、あいつら」
「ナリスは執念深いですから」
「でしょ?」
だからこそ今は――
「嵐の合間」
嫌な静けさ。
ほんと、胃に悪い。
王都、帰還。
……したはいいんだけど。
「歓迎、控えめすぎない?」
「意図的でしょう」
「でしょね」
ため息をつく。
いや分かるわよ? 建前は。
“余計な注目を避けるため”。
うんうん、分かる分かる。
「……単に面倒ごと増やしたくないだけよね?」
「……否定はできません」
「でしょうねぇ!」
即答か。
正直でよろしい。
――それから数日。
私は“聖女としての務め”に励んでいた。
「はい、次の方どうぞ〜」
手をかざす。
淡い光。
傷が塞がり、痛みが引く。
「ありがとうございます、聖女様……!」
「はいはい、大袈裟大袈裟」
にこやかに対応。
完璧な営業スマイル。
でも内心は――
(効率、悪っ)
いやほんとに。
一人ずつって何よ。
列、見えてる?
テーマパークかここ。
(広域回復とかないの? 範囲魔法的なやつ)
ないのよねぇ。
仕様がクソ。
いや神様聞いてる?
バランス調整ミスってない?
……まあいい。
(でも“見せる仕事”としては優秀か)
民衆の安心感アップ。
信頼度上昇。
支持率安定。
うん、数字的には美味しい。
やってて虚無だけど。
教会。
荘厳な空間。
高い天井。
静かな空気。
……の、裏側。
「……やはり、あの方を正式な聖女とするべきかと」
「いや、影響力が強すぎる」
「制御が効かん」
(あーはいはい)
聞こえてるわよ全部。
耳いいのよ、私。
(“強すぎて扱いづらい”ね、はいはい)
テンプレ来ました。
異世界あるある。
「力がある」
=「怖い」
=「排除 or コントロールしたい」
(で、代わりに“従順で可愛い子”欲しい、と)
うわぁ。
分かりやすすぎて逆に清々しい。
(教科書に載せたいレベルの小物ムーブ)
拍手したい。
しないけど。
――その夜。
教会地下。
本来なら立ち入り禁止エリア。
「準備は整っております」
「……本当に成功するのか?」
「古文書の通りであれば」
(はいアウトー)
誰も見てないと思ってる?
見てるのよ。
めちゃくちゃ見てるのよ。
監視ナメないでほしい。
「今なら、あの女の影響も薄い」
(“あの女”って私よね?)
名指ししなさいよ。
陰口下手か。
「今しかないのだ」
(いや“今しかない”じゃないのよ)
“いつでもダメ”なのよそれ。
理解して?
「始める」
あ、押し切った。
ダメなやつだこれ。
止める人ゼロ。
終わってる組織あるある来た。
――同時刻。
「……は?」
私は書類から顔を上げた。
「今、なんて?」
「教会地下区画にて、大規模な魔力反応を検知」
「規模」
「不明。ただし――」
「ただし?」
「“嫌な感じ”です」
「語彙!」
でも分かる。
その“嫌な感じ”が一番信用できるやつ。
「……あいつら」
立ち上がる。
「やりやがったわね?」
直感が叫んでる。
これはもう――
「聖女召喚」
確定。
最悪のビンゴ。
「無断で?」
「その可能性が高いかと」
「はぁーーーー……」
深いため息。
「なんでそう“地雷を全力で踏みに行く”の?」
才能なの?
逆にすごくない?
――教会地下。
光が溢れる。
魔法陣が暴れる。
「来るぞ……!」
(いや来るな来るな来るな)
祈りも虚しく。
空間が裂けた。
そして――
“ドサッ”
「……え?」
落ちてきた。
普通に。
雑に。
扱い、軽くない?
もっとこう……演出とかないの?
少女が一人。
完全に場違いな服装。
完全に状況理解ゼロの顔。
「ここ、どこ……?」
(うん、それな)
私も聞きたい。
なんで呼んだ。
誰が責任取る。
「――成功じゃないわよ、それ」
空気が凍る。
全員が振り返る。
入口。
私、登場。
はい修羅場入りましたー。
「何やってんのよ、あんた達」
一歩ずつ近づく。
逃げ場なし。
「許可は?」
「……」
「手続きは?」
「……」
「安全確認は?」
「……」
「はい全滅」
即死判定。
おめでとう。
「終わってるわね」
ほんとに。
運営に通報したいレベル。
「だ、だが! これで真の聖女を――」
「は?」
止まる。
振り返る。
にっこり。
「もう一回言って?」
空気、氷点下。
「“真の聖女”? へぇ〜?」
一歩、詰める。
「じゃあ私は何?」
さらに一歩。
「偽物?」
(言ってみ? 言ってみ?)
圧。
無言の圧。
「……っ」
「随分いい度胸してるじゃない」
フリックが動こうとするが、
「いい、下がってて」
制する。
これは私の仕事。
「で?」
静かに問う。
「その子、どうするつもりだったの?」
沈黙。
=図星。
「……はいアウトー」
本日二度目。
「発想が犯罪なのよ」
マジで。
私は少女の前にしゃがむ。
さっきまでの空気を全部捨てて。
「大丈夫?」
「……う、うん」
震えてる。
そりゃそう。
(ごめんねほんと)
内心で謝る。
こいつらのせいで。
「怖いわよね」
優しく言う。
「でも安心して」
手を差し出す。
「ここにいる中で」
一拍。
「私が一番マシだから」
……我ながら酷い自己紹介ね?
でも事実。
少女は恐る恐る手を取る。
よし。
信頼ゲージ+1。
立ち上がる。
振り返る。
神官どもを見る。
「全員」
にっこり。
「後で覚悟しときなさい」
笑顔。
満点の笑顔。
「ちゃんと“責任”取ってもらうから」
その場にいた全員が思った。
――あ、終わった。
と。




