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お前は、ヒロインではなくビッチです!  作者: もっけさん
オブシディアン領で労働中

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クーデターを阻止せよ6

 ――数日後。


 王都は、表面上の平穏を取り戻していた。


 南部街道の混乱は収束。

 商流も徐々に回復し、民衆の不安も薄れつつある。


 そして今回の騒動は、“外部勢力による工作”として処理された。

 公式には、それで終わり。

「これで終わるわけないのよねぇ……」

 私は書類を閉じ、深くため息を吐いた。

 多少強引ではあるが、幕引きを図った。

 しかし、いささか静かすぎる。

 どうにも綺麗に収まりすぎている気がしてならない。

 こういう時は大体、“何かを隠している”と私の直感が囁く。

「フリック」

「はい」

「足跡は、拾えたかしら?」

「いくつか」

 差し出されたのは、薄い報告書。

 思ったより量が少ない。

「……ああ、これね」

 一枚目で、当たりを引いた。

 資金の流れが、途中で途切れている。

 だが、消え方が“不自然に綺麗”だ。

「これ、消したんじゃなくて“切り離してる”わね」

「同様の見解です」

「しかも、わざと一部だけ残してるように見えるわ」

 紙を指でなぞる。

 追えるように見せて、追わせない。

 古典的で狡猾なやり口は、ナリスのお家芸なのか厄介極まりない。

「……素人じゃないわね」

「はい」

 フリックが頷く。

「軍属、もしくはそれに準ずる訓練を受けた者かと」

「でしょうね」

 でなきゃ、ここまで綺麗にやらない。

 クルト・フォン・ルーデルフ中将は、国家反逆罪で捕まり帝国法にて処刑と判決が下った。

 しかし、一つだけそれを覆す方法がある。

 それが、司法取引だ。

「それで、見当はついているのでしょう? どこ?」

 一拍置いた後に、フリックは静かに答えた。

「武装国家ナリスです」

「でしょうねぇ」

「お嬢様もお気づきだったのではありませんか」

「あれだけ派手にやってくれたんだもの。よほどの無能じゃなきゃ、ナリスが噛んでいると思うわよ」

 驚きはない。

 むしろ納得の方が大きい。

「でも、正規軍じゃない」

「はい。確認できる限り、諜報部門の動きと一致します」

「……ふぅん」

 私は、椅子に深くもたれた。

 天井を見上げる。

「わざわざこんな回りくどいことする理由も、それなら説明つくわ。武力で押せる国だが、無駄な損耗を嫌う国だもの。正面からぶつかる前に、内部から崩すのが合理的と判断したなら、奴らは確実に実行するわ」

 それが、彼らにとって一番コストがかからない方法だから。

「極めて合理的かつ性質が悪い。まるで私みたいね。わたくし、ルーデルフ中将が欲しいわぁ。マリアンヌというおバカさんを使ったことで彼は大幅に予定を狂わせ、こちらを甘くみたことで悪事が明るみになったけれど。使える駒さえ用意すれば、ナリスの古狸共と対等に渡り合えるんじゃないかしら。むざむざ処刑させるのは、とっても惜しいと思うのよ」

 くすり、と笑う。

「彼の刑は確定しています。いくらお嬢様でも、司法を覆すのは無理なのでは?」

「あの手のタイプは、取引相手の弱みの一つや二つ握っているものよ。それを司法取引材料にして、聖女である私(・・・・・・)の監視下に置いて労役を課せば良い。表立っては、死んでもらうから顔も名前も変えてもらう必要はあるけども。死ななきゃマシでしょう」

「……それを彼が飲むとは思えませんが」

「そう? あの手の輩は、己の正義を貫くためなら他人を利用するのもためらわないわ。陛下(ぼんくら)が大精霊の怒りを買って王家の権威は失墜した。箝口令は敷かれているけれど、人の口に戸は立てられない。中途半端な情報や憶測が彼の耳に入って、あんな蛮行に走ったのかもしれないし。もっと他の事情があったのかもしれない。でもね。それは、わたくしにとってどうでも良いことなのよ。有能な人材をむざむざ死なせるのは、ナリスの思う壺だと思うのよねぇ」

 ふぅ、と自分の考えを述べるとフリックは、ハァと珍しく私の前で溜息を吐いた。

「分かりました。そのように手配いたします。それとは別に一点、不可解な点がございました」

「言ってみなさい」

 フリックは、別の紙を差し出した。

「今回の工作員ですが撤退のタイミングが、早すぎます」

 私は、目を細める。

「……続けて頂戴」

「通常であれば、もう一手打ってから離脱するはずです」

「そうね。私もそうするわ」

「ですが今回は、“切り捨てる前提”で動いていた節があります」

 きっぱりと言い切るフリックに、私は考える。

 そして、導き出した答えに溜息を吐きたくなった。

「……なるほどねぇ。この件に関わった連中は、ナリスの“本隊じゃない”わ。ふざけたことをしてくれる。あいつら、様子見で私達の動きを見ていたのよ。どこまで通るか、どこで潰されるか」

「つまり、私達の反応を計ったと仰るのですか?」

 フリックの目が、わずかに細まる。

「向こう、“私を厄介な敵と認識した”でしょうね」

 かなり高度な戦前の情報操作戦をしていたことになる。

 フリックは、しばらく沈黙してから言った。

「お嬢様、今回の件ですが……」

「なに?」

「相手は“負けた”と認識していない可能性があります」

「当然でしょ」

 意を決したように紡がれた言葉に、私は一笑に付す。

「だってこれは、“一戦目”だもの」

 勝ったのはこちら。

 だが――水面下での戦い自体は、始まったばかりだ。

「……ねぇ、フリック」

「はい」

「これから忙しくなるわよ」

「承知しております」

「中将の件が片付いたら、今のうちに休んどきなさい」

「お嬢様もお休みになられるので?」

 その問いに、私は少しだけ考えて――

「無理ね」

と笑う。

 視線を遠くへ向ける。

 武装国家ナリスの方角を見ながら、

「今度は、“本気で来る”もの。後手に回らないように手を尽くさなければ、この国を護れないわ」

 その声は静かで、けれど確信に満ちていた。




 ――遠く、ナリスの王都の人通りのない薄暗い屋敷の部屋の一室で小さな会合が開かれていた。

「……失敗、ですか」

 報告を受けた男は、淡々と呟いた。

「いえ」

 部下が答える。

「“想定通りの反応”でした」

「そうですか」

 男は、小さく笑う。

「では、次に進みましょう」

 机の上には、イーサント国の地図が広げられ、いくつもの印がつけられている。

「今回は様子見でしたが、次はもう少し深く根を張りましょうか」

 指が、一点をなぞる。

 その瞳は、冷たく光っていた。

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