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第六章 反逆者

本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。


本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。


彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。


本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。


それでは、外伝の物語をお楽しみください。

  カシアン外伝 闇に葬られた任務


 数日後。


 聖剣教団本部では、緊急の会議が開かれていた。


 議題は、ある村で発生した大規模な虐殺事件についてだった。


 村は壊滅。


 多数の住民が死亡し、建物の多くが破壊された。


 現場へ派遣された教団の部隊も消息を絶ち、指揮官であるカシアン・ヴェイルの行方も分からなくなっていた。


 事件の規模は、教団にとって決して無視できるものではなかった。


 教団の保護下にある村で、これほどの犠牲が出たのだ。


 信徒たちの不安は広がり、教団の権威にも傷がつきかねない。


 さらに、事件の真相が明らかになれば、教団上層部が秘密裏に進めていた人工聖剣の研究まで露見する恐れがあった。


 枢機卿は、集まった者たちを見渡した。


「この事件を、教団の責任として公表するわけにはいかん」


 誰も反論しなかった。


「村の地下で何が行われていたのか。誰が研究を許可したのか。そのような話が外へ漏れれば、教団全体への不信につながる」


 枢機卿は、一通の書類を机の上へ置いた。


「ゆえに、事件の責任者を明確にする」


 書類には、カシアン・ヴェイルの名が記されていた。


「カシアンは任務中に教団を裏切り、魔剣使いと共謀した。その結果、村人と自らの部下たちを殺害し、混乱に乗じて逃亡した」


 枢機卿は、淡々と告げた。


「これを教団の正式な発表とする」


 会議室に、重い沈黙が落ちた。

 カシアンは教団に忠誠を尽くしてきた騎士だった。


 その彼が裏切り者になったという発表

は、教団内部にも大きな衝撃を与えるだろう。


 しかし、枢機卿は気に留めなかった。


 必要なのは、真実ではない。


 教団を守るための説明だった。


「カシアン・ヴェイルを反逆者として指名手配せよ。発見した者は、直ちに教団へ報告すること。抵抗する場合は、討伐を許可する」


「……承知しました」


 会議は終わった。

 その日のうちに、教団から正式な発表が出された。


 ――カシアン・ヴェイルは教団を裏切り、魔剣使いと共謀して村人および自らの部下たちを殺害した。


 ――現在、カシアンは逃亡中であり、教団への反逆者として追跡されている。


 その発表は、瞬く間に各地へ広がった。


 人々は驚き、憤り、そして恐れた。


 教団に忠誠を誓った騎士が、仲間を裏切って村を滅ぼした。


 そう信じ込まされたのだ。


 カシアンの名は、かつての功績とともに語られることはなくなった。


 代わりに、裏切り者、虐殺者、反逆者という言葉が付きまとった。


 彼の部下たちが何を思い、どのように命を落としたのか。


 村人たちがなぜ犠牲になったのか。


 教会の地下で、どのような実験が行われていたのか。


 その真実を知る者たちは、次々と闇に消されていた。


 教団は事件の詳細を厳しく統制し、人工聖剣の研究については一切公表しなかった。


 村の壊滅は、魔剣使いによる襲撃と、カシアンの裏切りによって引き起こされたものとして処理された。


 それでも、教団内部では事件の重大さを理解している者たちがいた。


 村人の大量死。


 精鋭部隊の消失。


 指揮官の逃亡。


 そして、何よりも、教団自身が秘密裏に行っていた研究の痕跡が失われたこと。

 これらすべてを覆い隠すために、教団は一人の男へ罪を押しつけたのだった。

 だが、枢機卿にとって、それは必要な処置にすぎなかった。


「カシアンは死んだものとして扱っても構わん。ただし、遺体が確認されていない以上、捜索は続けろ」


 側近がうなずく。


「もし生きていた場合は?」


 枢機卿は、冷ややかな目を向け

た。


「そのときは、今度こそ確実に始末しろ」


 窓の外では、夜の闇が広がっていた。


 その闇の中を、真実を知る者たちが逃げ続けている。


 研究資料を持ち出した者たち。



 命令に従っただけで、すべてを失った騎士たち。


 そして、奇跡的に生き残った一人の少女。


 彼らの運命は、まだ終わってはいなかった。


 川の下流。


 流れ着いた岸辺で、一人の男がうめき声を上げた。


 カシアン・ヴェイルだった。


 全身に傷を負い、意識も朦朧としている。

 それでも、彼は生きていた。


「……くそ……」


 目を開けたカシアンは、空を見上げた。

 部下たちの顔が、次々と脳裏に浮かぶ。

 助けられなかった。

 何一つ、守れなかった。

 そして、自分が見た真実は、教団によって隠されようとしている。

 カシアンは震える腕で地面をつかんだ。


「……必ず……」


 声はかすれていた。

 それでも、その目には消えない怒りが宿っていた。


「必ず、真実を明らかにしてやる……!」


 その誓いが、誰かに届くことはなかった。

 教団にとって、この事件は重大な危機だった。

 だからこそ、真実は闇に葬られた。

 そして、忠誠を尽くした男は、組織を裏切った反逆者として歴史に刻まれることになった。


 カシアン・ヴェイル。


 彼の名は、教団によって汚された。

 だが、彼が本当に何をしたのかを知る者は、まだこの世界のどこかに生きている。

 闇に葬られた任務。

 その真相が再び明るみに出る日まで――。

 物語は、静かに幕を閉じた。


     第六章 完

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回の外伝では、『聖魔剣戦記』本編では語られなかった物語をお届けしました。


本編では描ききれない人物たちの過去や、それぞれが歩んできた道。その裏側にある出来事を知ることで、物語の世界をより深く楽しんでいただけたら嬉しいです。


これからも、本編では描かれない物語や人物たちの知られざる一面を、外伝を通してお届けしていきたいと思います。


少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ感想や応援をいただけると励みになります。


これからも『聖魔剣戦記』をよろしくお願いします!


三國ユウ

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