第五章 暴走する剣
本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。
本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。
彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。
本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、外伝の物語をお楽しみください。
カシアン外伝 闇に葬られた任務
戦場の一角で、子供の一人が動きを止めた。
人工聖剣の光は、先ほどよりも弱まっている。
剣を握る手が震え、子供の膝が地面についた。
「……もう、いやだ……」
小さな声だった。
だが、その声に反応したように、近くにいた黒衣の男が振り返った。
「まだ動ける個体がいたか」
男は剣を構え、子供へ向かって歩き出した。
その瞬間、別の子供が飛び込んできた。
人工聖剣が閃き、黒衣の男の剣を弾き飛ばす。
「なにっ……!」
子供はそのまま踏み込み、相手を斬り倒した。
さらに、別の子供たちも動き始める。
村人を襲っていたはずの子供たちが、今度は黒衣の男たちへ剣を向けていた。
彼らが何を考えているのかは分からない。
正気を取り戻したわけでもない。
ただ、目の前で迫る脅威に反応するように、剣が勝手に敵を斬り伏せていく。
「くっ、出来損ないが我らの任務の邪魔をするか!」
黒衣の指揮官が怒声を上げた。
人工聖剣の力は、確かに異常だった。
教団の精鋭である無明の剣士たちでさえ、子供たちの攻撃を受けて後退する。
だが、子供たちの身体は限界に近づいていた。
剣を振るうたびに魔力が失われ、精神はさらに侵食されていく。
一人が倒れた。
続いて、もう一人。
剣の光が消え、子供たちは地面へ崩れ落ちていった。
やがて、立っている者は一人だけになった。
小さな少女だった。
彼女は剣を握りしめ、涙を流していた。
「いや……いやだ……」
目の前には、倒れた子供たち。
周囲には、剣を構えた黒衣の男たち。
彼女はただ、逃げたかった。
誰も傷つけたくなかった。
けれど、身体は言うことを聞かなかった。
「終わりだ」
黒衣の男が剣を振り上げる。
少女は目を閉じた。
――死にたくない。
その思いが胸をよぎった瞬間、少女の身体が動いた。
自分の意思ではなかった。
腕が勝手に持ち上がり、人工聖剣が敵の一撃を受け止める。
金属音が響いた。
少女は目を見開いた。
「え……?」
次の瞬間、身体が前へ踏み込む。
剣が閃き、黒衣の男が倒れた。
「な、何だ……!」
別の男が襲いかかる。
少女は泣きながら剣を振るった。
「やめて……! もう、やめてよ……!」
それでも身体は止まらない。
迫る敵を斬り伏せ、次の攻撃を弾き、さらに踏み込む。
まるで剣そのものが、少女の身体を操っているかのようだった。
黒衣の指揮官が表情を歪めた。
「馬鹿な……! あれほど不安定だった剣が、なぜ……!」
少女の剣が、ひときわ強い光を放つ。
周囲の魔力が吸い寄せられ、剣の刀身に凝縮していく。
「まずい! 全員、距離を取れ!」
指揮官が叫んだ。
だが、遅かった。
少女の剣が激しく震え、次の瞬間、まばゆい光が爆発した。
轟音。
衝撃波が村の通りを駆け抜け、地面を砕き、建物の壁を吹き飛ばした。
「ぐあああっ!」
カシアンの身体も、衝撃に巻き込まれた。
剣を構える間もなく、彼は地面から弾き飛ばされる。
視界が回転する。
血に染まった村が遠ざかる。
その先に、川が見えた。
「くっ……!」
次の瞬間、カシアンの身体は川へと叩きつけられた。
冷たい水が全身を包み込む。
流れは速く、身体を起こすことすらできなかった。
手を伸ばす。
岸へ向かおうとする。
だが、意識が遠のいていく。
「……みんな……」
部下たちの顔が脳裏をよぎった。
守れなかった。
誰一人として、守ることができなかった。
カシアンは手を伸ばしたまま、濁流の中へ沈んでいった。
村では、無明の剣士たちが混乱の中で体勢を立て直していた。
爆発の中心にいた少女の姿は、瓦礫と煙に覆われ、確認できない。
「……生存者は?」
「確認できません。あの爆発では、あの子供も無事ではないでしょう」
指揮官は周囲を見渡した。
村は破壊され、住民たちは倒れ、研究員の姿もない。
彼らの任務は、研究に関わった者たちを消し、秘密を守ることだった。
「……十分だ、教会の地下施設も破壊しておけ、痕跡を残すな」
指揮官は剣を納めた。
「村人も研究員たちも処分した。任務は成功だ。死んだ隊員達の聖剣も回収しろ急げ」
黒衣の男たちは、闇の中へと姿を消していった。
彼らは知らなかった。
瓦礫の下で、少女の指がかすかに動いたことを。
やがて、小さな手が地面をつかむ。
少女は、ゆっくりと目を開いた。
身体は傷だらけだった。
手の中には、人工聖剣が残されている。
彼女は周囲を見回した。
誰もいない。
村は静まり返っていた。
少女は震える身体を起こし、声にならない息を漏らした。
自分がなぜ生きているのかも、何が起きたのかも分からない。
ただ、目の前に広がる光景だけが、すべて現実なのだと告げていた。
少女は、剣を抱きしめるようにして、再び地面に身を伏せた。
その命が、奇跡的に残されていることを知る者は、まだ誰もいなかった。
第五章 完
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の外伝では、『聖魔剣戦記』本編では語られなかった物語をお届けしました。
本編では描ききれない人物たちの過去や、それぞれが歩んできた道。その裏側にある出来事を知ることで、物語の世界をより深く楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからも、本編では描かれない物語や人物たちの知られざる一面を、外伝を通してお届けしていきたいと思います。
少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ感想や応援をいただけると励みになります。
これからも『聖魔剣戦記』をよろしくお願いします!
三國ユウ




