第九話 「人工聖剣の核」
本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。
本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。
彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。
本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、外伝の物語をお楽しみください。
聖魔剣戦記 外伝 ― 被験体201番
人工聖剣の製造は、ついに最終段階を迎えていた。
研究施設の奥に設けられた専用の製造区画では、十本の人工聖剣が完成していた。
その材料には、破損した聖剣や、すでに使用されなくなった聖剣が使われていた。
たとえ剣としての形を失っていても、そこには魔力の残滓が残っている。その魔力を抽出し、別の素材と合わせて新たな剣へと作り変えていく。
製造に携わった職人たちは、持ち込まれた剣を溶かし、指定された形に加工するだけだった。
「この廃棄された剣を溶かして、別の形に作り変えてほしい」
彼らに伝えられたのは、それだけだった。
それが聖剣であることも、何のために作られているのかも知らされていない。
ましてや、子供たちの魔力が使われていることなど知る由もなかった。
こうして作られた十本の人工聖剣には、これまで施設に集められた子供たちから抽出された魔力が注ぎ込まれていた。
そして、それぞれの人工聖剣には、対応する小さな核が用意されていた。
銀白色の結晶のような形をしており、その内部には黄金色の光が流れている。表面には細かな模様が刻まれていた。
この核を人間の胸部、心臓に近い位置へと埋め込むことで、対象者と人工聖剣を結びつける。
人工聖剣そのものを身体に埋め込むわけではない。
核を通じて、人工聖剣と人間をつなぐ仕組みだった。
十本すべての人工聖剣が完成すると、専用の製造区画は解体された。
もう必要がないという理由もあったが、製造の痕跡を残さないためでもあった。
これで製造段階は終わった。
研究は次の段階へと移る。
人工聖剣の核を、子供たちに埋め込む段階だ。
◇
今回の実験対象は、192番から201番までの十人だった。
だが、その十人全員が次の段階へ進めたわけではない。
第6話で行われた強化薬の投与によって、すでに二人が命を落としていた。残されたのは、八人。
その八人を対象に、人工聖剣の核を埋め込む手術が行われることになった。
手術は麻酔を施した状態で進められた。
子供たちの胸部に、それぞれ対応する核が埋め込まれていく。
やがて手術を終えた子供たちは、次々と目を覚ました。
身体の中に、これまでとは違う力が宿っている。
最初は戸惑いながらも、その力を感じ取っていた。
しかし、変化はそれだけではなかった。
しばらくすると、子供たちの精神に異常が現れ始めた。
感情の制御ができなくなり、突然叫び出す者もいれば、周囲の人間に襲いかかろうとする者もいた。
精神汚染だった。
研究員たちは対応に追われた。
そして、容体が急変した二人の子供が命を落とした。
手術を終え、目を覚ました後のことだった。
こうして、192番から201番までの十人のうち、命を落とした子供は四人となった。
第6話の強化薬投与で二人。そして今回の核の埋め込み後に、さらに二人。
残された六人は生き延びたものの、全員が精神汚染の影響を受けていた。
彼らは、以前の実験群から生き残った子供たちが収容されている地下の檻へと移された。
そこには、101番から191番までの実験群から生き残った四人の子供たちがいた。
今回の実験群から生き残った六人と、以前の実験群から生き残った四人。
合わせて十人の子供たちが、地下の檻に収容されることになった。
◇
研究施設の所長は、報告書に目を通していた。
十本の人工聖剣は完成した。
核の埋め込みも終わり、子供たちとの接続にも成功している。
しかし、肝心の精神汚染が問題だった。
このままでは、人工聖剣を実用化することなどできない。
「精神汚染を制御できなければ、すべてが無駄になる……」
所長は報告書を机に置いた。
研究を成功させること。それが何よりも重要だった。
失敗すれば、自分の立場も危うくなる。
だからこそ、何としても精神汚染を制御する方法を見つけなければならなかった。
そのとき、所長の目に一人の少女の記録が留まった。
被験体201番。
他の子供たちと比べても、彼女の魔力量は突出していた。
「この子供には、何かあるかもしれんな……」
精神汚染を抑える手掛かりになる可能性がある。
所長はそう考えていた。
彼女を救いたいわけではない。
人工聖剣の研究を成功させるために、彼女の力を利用できないかと考えているのだった。
◇
地下の檻の前で、一人の研究員が子供たちの様子を見つめていた。
彼は研究施設で働く、ごく普通の研究員だった。
目の前にいる子供たちは、かつては普通の生活を送っていたはずだ。
それなのに、今では精神汚染に苦しみ、檻の中で過ごすことを強いられている。
研究員は、そんな子供たちの姿を見るたびに胸を痛めていた。
特に気になっていたのは、被験体201番の少女だった。
彼女は、他の子供たちと比べても不思議なほど落ち着いていることがあった。
それだけではない。
彼女が近くにいると、周囲の子供たちの様子が一瞬だけ変化することがあった。
研究員は、その小さな変化を何度か目にしていた。
もしかすると、彼女には何か特別な力があるのではないか。
そんな考えが頭をよぎっていた。
ある日、研究員は小さなお菓子を持って檻の前にやって来た。
「これ、食べるかい?」
少女は差し出されたお菓子を見つめた。
「……いいの?」
「ああ。もちろんだよ」
「おじさん、だれ?」
「僕はアルヴィン。ここで研究員をしているんだ」
「アルヴィン……?」
「そう。よろしくね」
アルヴィンが微笑むと、少女も小さく笑った。
「わたし、201番じゃないよ」
「え?」
「わたしの名前は、ルミナ」
少女は、自分の胸にそっと手を当てた。
「ルミナっていうの」
アルヴィンは一瞬、言葉を失った。
彼女にとって、自分が何番と呼ばれているかなど関係ないのだろう。
彼女には、ちゃんと名前がある。
「そうか。ルミナっていうんだね」
「うん!」
「よろしくね、ルミナ」
「うん! ありがとう、アルヴィン!」
ルミナは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、アルヴィンも自然と表情を和らげた。
ルミナは受け取ったお菓子を大切そうに口へ運ぶ。
その瞬間だった。
彼女の周囲に、かすかな温かい魔力が広がった。
本人はまったく気づいていない。
ただ、お菓子をもらえたことが嬉しくて、笑っていただけだった。
しかし、その魔力に反応するように、すぐ近くにいた少年の様子が変わった。
「俺……いったい何してたんだ?」
少年は自分の手を見つめ、困惑した表情を浮かべた。
ルカだった。
ほんの一瞬ではあったが、彼は精神汚染に支配されていた状態から、自分自身を取り戻していた。
アルヴィンは息を呑んだ。
今のは偶然なのか。
それとも、ルミナの魔力が関係しているのか。
以前から感じていた違和感が、確かな疑問へと変わっていく。
だが、その変化は長く続かなかった。
ルカの表情が再び歪み、精神汚染の影響が戻っていく。
完全に抑え込めたわけではない。
それでも、確かに一瞬だけ変化が起きた。
アルヴィンは、その光景を忘れないように胸に刻んだ。
◇
それからアルヴィンは、子供たちの様子を注意深く観察するようになった。
ルミナが近くにいるとき、周囲の子供たちにどのような変化が起きるのか。
彼女が笑ったとき、魔力にどんな反応が現れるのか。
気づいたことは、小さな手帳に記録していった。
そして、時折お菓子を持って檻を訪れるようになった。
もちろん、他の研究員には知られないように。
「いいか、これは僕と君たちだけの秘密だ。他の研究員には絶対に言ったらダメだぞ。約束だ」
子供たちは小さくうなずいた。
お菓子を受け取ると、嬉しそうに笑う。
その何気ない時間だけは、子供たちが少しだけ普通の子供に戻れるように思えた。
アルヴィンは手帳を閉じた。
まだ確かなことは分からない。
ルミナの魔力が精神汚染に影響しているとしても、それが何なのか、どうすれば利用できるのかも分からない。
だが、一つだけ決めていた。
この子たちを、このままにはしておけない。
研究のためではない。
自分の立場を守るためでもない。
ただ、目の前にいる子供たちを救いたかった。
アルヴィンは、手帳を胸元にしまった。
いつか必ず、この子たちを檻の外へ連れ出す方法を見つける。
その決意を胸に、彼は再び研究施設の奥へと歩き出し
第9話「人工聖剣の核」 完
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の外伝では、『聖魔剣戦記』本編では語られなかった物語をお届けしました。
本編では描ききれない人物たちの過去や、それぞれが歩んできた道。その裏側にある出来事を知ることで、物語の世界をより深く楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからも、本編では描かれない物語や人物たちの知られざる一面を、外伝を通してお届けしていきたいと思います。
少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ感想や応援をいただけると励みになります。
これからも『聖魔剣戦記』をよろしくお願いします!
三國ユウ




