第六話「失われた仲間」
聖魔剣戦記 外伝 ― 被験体201番
薬を投与されてから、数日が経過した。
192番から201番までの子供たちは、毎日検査室へ連れていかれ、身体能力や魔力量の変化を記録されていた。
薬によって力が増した者もいれば、目立った変化が見られない者もいる。
研究員たちは、それぞれの数値を比較しながら、淡々と記録を続けていた。
だが、その日の検査中に異変が起きた。
「……っ、苦しい……!」
一人の子供が胸を押さえ、その場に倒れ込んだ。
「どうした! 脈拍を確認しろ!」
「脈拍が急激に上昇しています! 体温も異常値です!」
研究員たちが慌ただしく動き始める。
子供の身体は小刻みに震え、呼吸も次第に弱くなっていった。
「薬の副作用か……! すぐに処置を!」
医療担当者が駆け寄り、懸命に処置を施す。
しかし、どれだけ手を尽くしても、子供の状態は回復しなかった。
やがて、その身体から力が抜ける。
「……反応がありません」
検査室に、重苦しい沈黙が落ちた。
その子は、もう二度と目を開けなかった。
*
知らせを受けたルミナたちは、不安を隠せずにいた。
「ねえ……あの子、どうなったの?」
ルミナが尋ねても、研究員は答えなかった。
「お前たちは部屋へ戻れ。次の検査まで待機だ」
「でも……!」
「指示に従え」
冷たい声に、それ以上何も言えなくなる。
ルミナは隣にいるルカの袖を、そっとつかんだ。
ルカもまた、不安そうな顔でルミナを見つめていた。
二人は何も言えないまま、ほかの仲間たちと一緒に部屋へ戻った。
*
最初の死亡事故から間もなく、再び悲劇が起きた。
別の子供にも、同じように激しい副作用が現れたのだ。
研究員たちはすぐに処置を始めたが、結果は変わらなかった。
二人目の子供も、命を落とした。
短い期間に、二人の仲間が帰らぬ人となった。
*
その日の夜。
研究室では、二人の死亡記録がまとめられていた。
「被験体二名、死亡。ほかの被験体にも副作用が確認されています」
研究員の一人が報告する。
責任者は書類に目を落としたまま、静かに答えた。
「投与後の経過を記録しろ。死亡した被験体のデータも忘れるな」
「……二人も、命を落としたんですよ」
報告していた研究員が、思わず声を強めた。
「我々は、何のために研究をしているんですか。これでは……」
「口を慎め」
責任者が顔を上げた。
「我々は感情を表してはいけない。だから子供たちも番号で呼ぶんだ」
その言葉に、研究員は口を閉ざした。
「名前を呼び、情を移せば、冷静な判断ができなくなる。ここでは研究者としての役割を果たせ」
「……はい」
研究員は、それ以上何も言えなかった。
責任者にとって、子供たちは研究対象だった。
そこに個人の名前も、感情も必要ない。
必要なのは、実験によって得られるデータだけだった。
研究員は机の上に並んだ死亡記録を見つめた。
そこに記されているのは、二つの番号。
名前ではない。
だが、彼にとって、その二人は単なる番号ではなかった。
薬の投与を受ける前、不安そうに周囲を見回していた子供たちの姿が、脳裏に浮かぶ。
自分は人工聖剣の製造に深く関わってきた。
研究そのものを嫌っているわけではない。新しい技術を生み出し、未知の仕組みを解き明かすことには、今も研究者としての喜びを感じている。
しかし、子供たちの心を壊すことまで望んでいたわけではなかった。
それでも、ここにいる限り、彼は研究員として振る舞わなければならない。
感情を表に出さず、命を落とした子供たちを番号で記録し、次の実験へ進む。
それが、この施設の規則だった。
研究員は静かに目を伏せた。
せめて、これ以上犠牲を増やさずに済む方法はないのか。
その問いだけは、どうしても胸の奥から消えてくれなかった。
*
同じ頃、ルミナたちは部屋の中で身を寄せ合っていた。
「……明日も、あの薬を飲むのかな」
誰かが、小さな声でつぶやいた。
返事をする者はいなかった。
ルミナは自分の手を見つめた。
薬を飲んだとき、身体の奥から熱が湧き上がってきたことを覚えている。
あの感覚が、仲間たちを苦しめたのだろうか。
自分にも、いつか同じことが起きるのだろうか。
「ルミナ……」
隣から、ルカが小さく呼びかけた。
周囲に研究員がいないことを確かめてから、ルカはそっと彼女の手を握った。
「大丈夫だよ。きっと……大丈夫」
そう言ったルカ自身も、不安を隠しきれてはいなかった。
「うん……」
ルミナはうなずいた。
けれど、二人とも本当は分かっていた。
ここでは、何が起きてもおかしくない。
明日、自分たちがどうなるのかさえ、誰にも分からないのだ。
静まり返った部屋の中で、子供たちは眠れない夜を過ごした。
そして施設では、彼らの知らないところで、次の実験に向けた準備が進められてい
第6話「失われた仲間」 完




