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第五話「増幅剤」

本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。


本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。


彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。


本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。


それでは、外伝の物語をお楽しみください。

 聖魔剣戦記 外伝 ― 被験体201番


翌朝。


ルミナたち十人は、昨日とは別の部屋へと案内された。


部屋の中には、いくつもの検査台と魔力測定用の水晶が並んでいた。


白衣を着た研究員たちが忙しそうに準備を進めている。


「全員、あちらに並べ」


案内してきた研究員が、壁際を指さした。


子供たちは互いに顔を見合わせながら、指示された場所へ移動した。


「今日は何をするんだろう?」


ルミナが小声で尋ねる。


「さあ……。昨日は魔力量を調べられたけど」


隣にいたルカも、不安そうに部屋を見回していた。


やがて、一人の研究員が小さな容器を載せたトレーを運んできた。


容器の中には、透明に近い液体が入っている。


「これから全員に薬を投与する」


研究員は、淡々と告げた。


「この薬は身体能力と魔力量を増幅させるためのものだ。指示に従って服用しろ」


「薬……?」


子供たちの間に、ざわめきが広がった。


「飲まないといけないの?」


誰かが尋ねた。


研究員は、その問いに答えなかった。


「順番に前へ出ろ」


それだけだった。


ルミナは容器を見つめた。


身体と魔力を強くする薬。


それなら、きっと自分たちのためになるものなのだろう。


そう考えようとしたが、研究員たちの表情からは、何も読み取れなかった。


最初の子供が薬を飲む。


続いて、二人目、三人目。


やがてルミナの番が来た。


「201番、前へ」


番号を呼ばれ、ルミナは一歩前に出た。


研究員から容器を受け取る。


「飲んで、容器を戻せ」


「……はい」


ルミナは小さく返事をすると、薬を口に含んだ。


独特の苦みが舌に広がる。


思わず顔をしかめながらも、なんとか飲み込んだ。


「終わりました」


「よし。そこに座っていろ」


ルミナは指示された椅子に腰を下ろした。


少し離れた場所では、ルカたちも同じように薬を飲み終えていた。


研究員たちは、それぞれの子供の脈拍や体温、魔力の数値を記録していく。


「投与後の数値を記録しろ」


「はい」


「初期症状にも注意しろ。過去の試験記録と照合する」


その会話を聞いたルミナは、首を傾げた。


過去の試験記録。


この薬は、前にも使われたことがあるのだろうか。


けれど、尋ねることはできなかった。


しばらくすると、子供たちの様子に少しずつ変化が現れ始めた。


「……なんか、身体が熱い」


一人の子供が、自分の腕を押さえた。


別の子供は、こめかみに手を当てている。


「頭が……少し痛い」


研究員たちはすぐに反応した。


「症状を記録しろ」


「脈拍が上昇しています」


「魔力反応にも変化が見られます」


子供たちの間に、不安が広がっていく。


ルミナも、身体の奥に奇妙な熱を感じ始めていた。


胸のあたりから、温かな何かが全身へ広がっていく。


痛みはない。


けれど、今まで感じたことのない感覚だった。


「……これ、何だろう?」


ルミナは自分の手を見つめた。


指先が、かすかに震えている。


その瞬間だった。


室内に設置された魔力測定用の水晶が、突然強い光を放った。


「何だ?」


研究員の一人が振り返る。


光を放っていたのは、ルミナの測定器だった。


水晶の内部を、淡い光が渦巻いている。


昨日の検査で示した数値を、さらに上回る反応だった。


「魔力量が上昇しています!」


「記録を取れ!」


研究員たちが一斉に動き出す。


ルミナは驚いて、水晶と自分の手を交互に見た。


「えっ……? わたし、何もしてないよ?」


彼女には、本当に何も分からなかった。


ただ、身体の奥で何かが目覚めようとしている。


そんな不思議な感覚だけがあった。


水晶の光は、しばらくの間、強さを増し続けた。


やがて、ゆっくりと落ち着いていく。


研究員たちは測定結果を確認し、互いに顔を見合わせた。


「昨日の数値を大幅に超えている……」


「増幅剤への反応が、ほかの被験体とは違うのか?」


「まだ判断するな。追加の観察が必要だ」


彼らは慎重に記録を続けた。


薬による魔力の増幅は、想定されていた効果の一つだった。


この薬は、長年にわたって臨床試験と改良が重ねられてきたものだ。


初期の試作品に比べれば、効果も安定性も改善されている。


しかし、副作用の危険性がなくなったわけではない。


そのため、一般には使用されていなかった。


それでも、この施設では研究が続けられている。


子供たちの身体と魔力にどのような変化が起こるのか。


どこまで能力を引き出せるのか。


そして、その力が人工聖剣の実験にどのような影響を与えるのか。


研究員たちは、その答えを求めていた。


「201番の経過観察を続けろ。ほかの被験体についても、異常があればすぐに報告しろ」


責任者の声が響く。


ルミナは、まだ自分に何が起きたのか分からないまま、椅子に座っていた。


「ねえ、ルカ……」


「どうしたの?」


「なんだか、身体の中が変な感じなんだ」


ルカは心配そうにルミナを見た。


「大丈夫?」


「うん……。痛くはないよ」


そう答えたものの、ルミナ自身にも確信はなかった。


身体の奥で感じた、あの不思議な熱。


あれはいったい何だったのだろう。


その答えを、今のルミナはまだ知らない。


ただ一つ確かなことがあった。


彼女の中に眠っていた力は、薬によって少しずつ目を覚まし始めていた。


    第5話「増幅剤」 完

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回の外伝では、『聖魔剣戦記』本編では語られなかった物語をお届けしました。


本編では描ききれない人物たちの過去や、それぞれが歩んできた道。その裏側にある出来事を知ることで、物語の世界をより深く楽しんでいただけたら嬉しいです。


これからも、本編では描かれない物語や人物たちの知られざる一面を、外伝を通してお届けしていきたいと思います。


少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ感想や応援をいただけると励みになります。


これからも『聖魔剣戦記』をよろしくお願いします!


三國ユウ

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