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第四話「先にいた子供たち」

本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。


本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。


彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。


本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。


それでは、外伝の物語をお楽しみください。

 聖魔剣戦記 外伝 ― 被験体201番


ルミナたち十人は、研究員に案内されて食堂へ向かっていた。


施設の中は、どこを歩いても静かだった。


すれ違う研究員たちは、子供たちに目を向けることはあっても、声をかけようとはしない。


ルミナは隣を歩くルカに、小さな声で話しかけた。


「ねえ、ルカ。ここには、わたしたち以外にも子供がいるのかな?」


「さあ……。昨日は見かけなかったけど」


「そっか。いたら、お友達になれるといいね」


ルミナがそう言って笑うと、ルカも小さくうなずいた。


やがて、一行は食堂へ到着した。


扉が開く。


中には、すでに四人の子供たちが座っていた。


年齢はルミナたちとそれほど変わらないように見える。


けれど、彼らの様子はどこか奇妙だった。


食事をしている子もいれば、手を止めたまま、ぼんやりと前を見つめている子もいる。


誰も楽しそうではなかった。


まるで、食べることさえ決められた作業であるかのように。


「先にいる子供たちもいるんだ……」


ルミナが小さくつぶやいた。


その声に気づいたのか、四人のうち一人が顔を上げた。


けれど、その瞳にはほとんど光がなかった。


「……新しく来たの?」


かすれた声だった。


「うん。昨日、ここに来たの」


ルミナが笑顔で答える。


その子は少しだけルミナを見つめたあと、再び視線を落とした。


ほかの三人も、ルミナたちを一瞥しただけで、すぐに興味を失ったように目をそらした。


その様子に、ルミナは少し戸惑った。


けれど、怖いとは思わなかった。


ただ、みんながとても寂しそうに見えたのだ。


「ねえ、一緒に座ってもいい?」


ルミナは、先ほど顔を上げた子に声をかけた。


その子は少し迷うような表情を浮かべたあと、隣の席を見た。


「……好きにすれば」


「ありがとう!」


ルミナは嬉しそうに笑い、その隣に腰を下ろした。


ルカたちも、空いている席にそれぞれ座る。


食堂には、食器の触れ合う音だけが響いていた。


しばらくして、隣に座っていた子が、ぽつりと口を開いた。


「……ねえ」


「なに?」


ルミナが顔を向ける。


その子は自分でも不思議そうに、胸元へ手を当てた。


「……あなたの側だと、なんだか安心する」


「え?」


ルミナは目を丸くした。


「わたしの側?」


「……うん。どうしてなのか、自分でもよく分からないけど」


その子は、ほんの少しだけ表情を和らげた。


それまで虚ろだった瞳にも、かすかな光が戻っている。


少し離れた席にいた別の子供も、いつの間にかルミナのほうを見ていた。


その瞳にも、先ほどまでとは違う変化が現れていた。


「……今日は、少しだけ楽な気がする」


小さな声が聞こえた。


ルミナには、彼らが何を言っているのか、よく分からなかった。


自分はただ、一緒に座って話しかけただけだ。


特別な魔法を使ったわけでもない。


「わたし、何もしてないよ?」


ルミナが困ったように笑うと、その子はゆっくりとうなずいた。


「……うん。分かってる」


それでも、その子はルミナのそばから離れようとはしなかった。


ルミナは少し考えてから、笑顔で尋ねた。


「ねえ、あなたのお名前は?」


その子は、少しだけ困ったような顔をした。


「……名前?」


「うん。わたしはルミナだよ」


ルミナは、にっこりと笑った。


その子はしばらく黙ってルミナを見つめていた。


やがて、周囲に研究員がいないことを確かめるように視線を動かすと、小さな声で答えた。


「……僕は、ロイ」


「ロイくんだね! よろしくね!」


ルミナが嬉しそうに笑う。


ロイは、ほんの少しだけ表情を和らげた。


「……うん」


それだけの短い会話だった。


けれど、ルミナは少しだけ嬉しかった。


この場所にも、自分と話してくれる子がいたのだから。


一方、少し離れた場所から食堂の様子を見ていた研究員が、手元の記録板に目を落とした。


彼は、先行グループの子供たちを長く観察してきた研究員の一人だった。


彼らの瞳から光が失われ、感情の反応が乏しくなっていく様子も、間近で見てきた。


人工聖剣の精神汚染。


それが子供たちに及ぼす影響を抑える方法を、彼は密かに研究していた。


だが、これまで有効な手がかりはほとんど得られていない。


それなのに――。


「……どういうことだ?」


研究員は、先行グループの子供たちを見つめた。


彼らの表情が、ほんのわずかに和らいでいる。


視線にも、普段は見られない反応があった。


そして、その変化が見られたのは、新しく来た少女がそばにいるときだった。


偶然かもしれない。


環境が変わったことによる、一時的な反応の可能性もある。


この段階で結論を出すことはできない。


それでも、見過ごすには気になる変化だった。


研究員は、記録板に短く書き込んだ。


――新規被験体201番が先行グループと接触。対象の一部に情動反応の変化を確認。


彼は、もう一度ルミナに目を向けた。


少女は何も知らない様子で、隣の子供と楽しそうに話している。


なぜ彼女のそばで変化が起きるのか。


それが人工聖剣の精神汚染と関係しているのか。


まだ、何も分からない。


だが、彼は初めて、研究を前に進めるための手がかりを見つけたのかもしれないと感じていた。


その頃、ルミナはそんなことなど知る由もなく、食事を続けていた。


この出会いが、研究員にとってどれほど大きな意味を持つことになるのか。


彼女はまだ、何も知らなかった。


  第4話「先にいた子供たち」 完

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回の外伝では、『聖魔剣戦記』本編では語られなかった物語をお届けしました。


本編では描ききれない人物たちの過去や、それぞれが歩んできた道。その裏側にある出来事を知ることで、物語の世界をより深く楽しんでいただけたら嬉しいです。


これからも、本編では描かれない物語や人物たちの知られざる一面を、外伝を通してお届けしていきたいと思います。


少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ感想や応援をいただけると励みになります。


これからも『聖魔剣戦記』をよろしくお願いします!


三國ユウ

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