第3章 沈黙を選んだ司祭
本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。
本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。
彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。
本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、外伝の物語をお楽しみください。
聖剣魔剣戦記 外伝
ある司祭決断
司祭が自室へ戻ると、廊下で同僚の司祭と顔を合わせた。
「お帰り。枢機卿とは、何の話だったんだい?」
「いや、たいした話じゃなかったよ」
司祭は、できるだけ普段どおりに答えた。
「そうか……」
同僚はそれ以上尋ねず、その場を離れた。
司祭は自室へ入り、扉を閉めた。
そして、しばらく迷ったあと、扉に耳を押し当てた。
廊下から、同僚の声が聞こえてくる。
「それで、枢機卿とは何の話だったんだ?」
誰かが尋ねているらしい。
司祭は息を潜めた。
「いや、何も話さなかったですよ」
同僚はそう答えた。
「……本当に?」
短い沈黙があった。
「ええ。何も話していません」
二人の足音が遠ざかっていった。
司祭は扉から離れられなかった。
――まさか、私に探りを入れているのか?
背筋に冷たいものが走った。
枢機卿は、自分の家族のことまで口にした。
そして、今の会話。
すべてが偶然だと考えるには、あまりにも不気味だった。
「……なんて恐ろしい」
司祭は震える手で顔を覆った。
もし枢機卿に逆らえば、自分だけでなく家族まで危険にさらされるかもしれない。
だが、何もせずにいれば、子供たちはどうなるのだろう。
これまで自分が送り出した子供たち。
彼らは今、どこで何をしているのか。
もしかしたら、自分が知らない場所で助けを求めているのかもしれない。
それでも、真実を確かめるために動く勇気はなかった。
「……私は、この件にはもう関わらない方がいい」
司祭は、震える声でつぶやいた。
「子供たちよ……私を許してくれ」
目を閉じると、これまで魔力適性を見いだした子供たちの顔が浮かんだ。
自分が送り出した子供たち。
彼らが今、どこで何をしているのか。無事に暮らしているのかさえ、司祭には分からなかった。
「私も……家族を守りたいんだよ……」
頬を涙が伝った。
子供たちを救いたいという思いが、胸の奥で叫んでいた。
それでも司祭は、その声に蓋をするしかなかった。
自分が沈黙を選べば、家族は守れるかもしれない。
しかし、その代わりに何を見捨てることになるのか。
司祭は答えを出せないまま、ただ涙を流し続けた。
沈黙を選んだ司祭 完
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の外伝では、『聖魔剣戦記』本編では語られなかった物語をお届けしました。
本編では描ききれない人物たちの過去や、それぞれが歩んできた道。その裏側にある出来事を知ることで、物語の世界をより深く楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからも、本編では描かれない物語や人物たちの知られざる一面を、外伝を通してお届けしていきたいと思います。
少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ感想や応援をいただけると励みになります。
これからも『聖魔剣戦記』をよろしくお願いします!
三國ユウ




