第2章 枢機卿の呼び出し
本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。
本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。
彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。
本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、外伝の物語をお楽しみください。
聖魔剣戦記 外伝
ある司祭の決断
その日の夜。
司祭は枢機卿の執務室へ呼び出された。
「失礼いたします」
「来たか。そこへ座りなさい」
枢機卿は机の向こうから司祭を見つめた。
「君には、これまで多くの子供たちの魔力適性を調べてもらっているな」
「はい。私の務めですから」
「今回も、適性を持つ子供たちが見つかったそうだな」
「はい。才能を伸ばすことができれば、将来は教会にとっても大きな力となるでしょう」
司祭の言葉を聞き、枢機卿は薄く笑った。
「そこで、今回も子供たちをこちらへ引き渡してもらいたい。人数は十人だ」
司祭は眉をひそめた。
「十人……ですか?」
「そうだ」
これまでにも、司祭は魔力適性を持つ子供たちを枢機卿側へ送り出してきた。
しかし、その後の彼らがどうなったのか、司祭は知らなかった。
子供たちが戻ってきたことはなく、どこで何を学んでいるのかも知らされていない。
ずっと胸の内にあった疑問が、ついに口をついて出た。
「枢機卿、ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「何だね?」
「これまで私が送り出した子供たちは、その後どうなったのでしょうか。誰ひとり、こちらへ戻ってきておりません」
枢機卿の笑みが、ほんのわずかに消えた。
「彼らには、それぞれに適した場所で役目を果たしてもらっている。君が心配する必要はない」
「ですが、今回も十人となると……。子供たちをどこへ連れていくのか、せめて教えていただけないでしょうか」
部屋に沈黙が落ちた。
司祭は、自分が踏み込みすぎたのではないかと感じた。
それでも、何も知らないまま子供たちを送り出すことには抵抗があった。
枢機卿はしばらく司祭を見つめていたが、やがて穏やかな口調で尋ねた。
「君は、ここへ来て何年になる? 教会に尽くしてきた年月も、決して短くはないだろう」
「……はい」
「そろそろ、上の立場に立つことを考えてもいい頃だ。実は司教の席がひとつ空いていてね。君を推薦してもよいと思っている」
司祭は目を見開いた。
司教への昇進。
長年教会に仕えてきた彼にとって、簡単に断れる話ではなかった。
「君が司教になれば、家族も今より不自由のない暮らしができるだろう」
枢機卿は笑顔を浮かべたまま、言葉を続けた。
「君がこれまで築いてきた生活を、失うようなことにはなってほしくない。家族のためにも、賢明な判断をしてくれると信じているよ」
その言葉を聞いた瞬間、司祭の表情が強張った。
家族。
自分が守らなければならない、大切な存在。
脅迫だと断言できる言葉ではない。
だが、司祭には十分だった。
「……承知いたしました」
それ以上、何も言えなかった。
枢機卿は満足げにうなずいた。
「来週、またここへ来なさい。司教昇進の話をしよう」
司祭は一礼し、執務室を出ていった。
扉が閉まると、枢機卿は室内へ声をかけた。
「無明、いるか?」
「はっ、ここに控えております」
部屋の奥から、ひとりの男が姿を現した。
「あの司祭が余計なことをしないか、見張れ」
「承知いたしました」
無明は一礼すると、音もなく姿を消した。
枢機卿は何事もなかったかのように、机へ戻った。
枢機卿の呼び出し 完
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の外伝では、『聖魔剣戦記』本編では語られなかった物語をお届けしました。
本編では描ききれない人物たちの過去や、それぞれが歩んできた道。その裏側にある出来事を知ることで、物語の世界をより深く楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからも、本編では描かれない物語や人物たちの知られざる一面を、外伝を通してお届けしていきたいと思います。
少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ感想や応援をいただけると励みになります。
これからも『聖魔剣戦記』をよろしくお願いします!
三國ユウ




