040_片想い(おそろい続き)偶然の遭遇、1896字
自転車で駅に向かい、ホームでの待ち時間、電車での移動時間のたびにスマホを開く。
さっき彼がカバンにつけていたラバーストラップのキャラクター。
実は作品自体をよく知らない。慌ててスマホで検索をかける。
ええと、なになに……あー、この黒い髪のキャラと、白い髪のキャラが相棒なのね。ネットのレビューを見ると、ファンの間では「友情編のラストが神がかっている」「あそこで号泣した」って書かれている。なるほど、熱い絆のストーリーなのね。
ネタバレあらすじを読んで頭の中に情報を叩き込む。学校で友達にストラップについて突っ込まれたとき、何も知らないんじゃ私の意図がまるわかりで恥ずかしい。私は今からこの漫画のファンなのだ。
隣駅のセブンに滑り込み、息を整えてレジへ向かう。
「一番くじお願いします」財布の小銭と相談しつつ引いたけど、3回連続違うもの。
……結果は、マグカップ、白いキャラのストラップとクリアファイル。
やっぱりそんな簡単に当たらないよね。
カウンターの隅で、私は激しく葛藤していた。
もう一回だけ引く? でも次も外れたら? お母さんからのおつり(予定)を使い込むわけにはいかないし。どうしよう、諦めてチョコだけ買って帰るべき……?
「あれ、3組の遠藤さん?」
背後から突然かけられた声に、心臓が跳ね上がった。
耳に馴染んだ、少し低くてハスキーな声。
驚いて勢いよく振り返ると、そこには彼がいた。その後ろには、遠征帰りらしきエナメルバッグを担いだサッカー部の部員が数名、ぞろぞろとコンビニに入ってくるところだった。
嘘、なんで!? 遠征先からもう帰ってきたの!?
っていうか、なんで私の名前知ってるの!?
「あー、そのくじ。遠藤さんもこのキャラ好きなの? 何狙い?」
彼が私の手元と、カウンターのくじの半券を見て人懐っこく笑う。
心臓の音がうるさすぎて耳の奥がジンジンする。
落ち着け、私。さっきスマホで仕込んだ知識を総動員するんだ。
「あ、うん! あの……『友情編』のラストのところが、すごく好きで。黒い髪の方のキャラのストラップ狙いなんだけど、もう3回引いて外れちゃって……」
緊張で声が震えないように気をつけながら、当たったばかりの品を見せる。
「あー! あそこ、めっちゃ泣けるよね! 俺もあのシーン大好き。遠藤さん、黒いの狙いなんだ?」
彼は嬉しそうに目を輝かせると、自分の通学カバンを引っ張ってきた。そこには、さっきSNSの写真で見た、あのラバーストラップが揺れている。
「俺さ、くじ引いてその黒いのが当たったんだけど……実はこの、白い方が狙いだったんだよね。もしよかったら、交換しない?」
――え? 交換!?
ちょっと待って。交換ってことは、彼が自分の手で引いて、自分のカバンにつけていた「それ」を、私がもらえるってこと!?
脳内が完全にパニックを起こす。
待って、今日の私、服適当すぎない!? 髪もボサボサだし、お使い用のご近所コーデだよ!? ああ、もっと可愛い格好してくればよかった……!
「えーっ! いいの!? うれしい、ありがとう……!」
動揺を必死に隠しながら、私は彼から黒いストラップを受け取った。指先がほんの少しだけ触れて、体温が一気に上がるのがわかる。
「あ、じゃあこれ、もしよかったら2つあげる! 私は黒いのが手に入れば大満足だから!」
私が引き当てたマグカップとクリアファイルを差し出すと、彼は「え、いいの!? 俺それ当たんなかったからめちゃくちゃ嬉しい!」と相好を崩した。
「これ、お礼ね」
そう言って、彼はレジでサッとチルドのカフェラテを一本買って、私に手渡してくれた。
「じゃあな、遠藤さん。また学校で!」
部活の友達と笑い合いながら、彼はコンビニの奥へと消えていった。
……どうやってスーパーでお使いを済ませたのか、正直よく覚えていない。
気がつけば、私は自転車のペダルをめちゃくちゃな速さで漕いでいた。
胸の奥から湧き上がるニヤニヤがどうしても抑えきれなくて、マスクの下で口角が上がりっぱなしになっている。
手の中には、彼から手渡された黒いストラップと、まだほんのり冷たいカフェラテ。
新作のチョコを買うのなんて、完全に忘れてしまった。でも、そんなことどうでもいい。
何よりも。
学校で一度も話したことがなかったのに。
彼は、私の名前を知ってくれていた。
「遠藤さん」って、呼んでくれた。
夕暮れの帰り道、私は世界で一番はしゃいだ気分で、幸せに包まれながら家路を急いだ。




