039_片想い(おそろい)同じものを持ってるだけで幸せになれる、1054字
土曜の昼すぎ、カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、スマホを開く。
画面に映っているのは、彼のタイムライン。
「あ、更新されてる」
画面をスクロールする指がピタッと止まる。
『今日の遠征、まじで疲れた。でも勝ててよかったわー』
添えられた写真は、どこかのコンビニのイートインスペースで、テーブルの上に見慣れないパッケージのチョコレート菓子が見える。
「これ、今週発売の新作のだ……」
呟きながら、彼の過去の投稿を思い出す。前も「糖分補給」って言って別のチョコの写真を上げていたっけ。甘いもの、実は結構好きなのかな。
今度、コンビニに行ったら他の新作もチェックしておこう。
写真の端に、彼の通学カバンが少しだけ写り込んでいる。チャックの部分に揺れているのは、小さなキャラクターのラバーストラップ。
「あ、これ……セブンでやってる一番くじじゃなかったっけ」
気になって公式サイトを調べてみると、やっぱりそうだった。
うちの最寄りの店舗は「取扱終了」の文字。
でも、検索範囲を少し広げてみると、隣の駅のセブンにはまだ「在庫あり」のマークがついている。
――まだ、ある。
カレンダーを見る。時計を見る。
――うん、行ける。
画面を閉じ、ベッドから勢いよく立ち上がって部屋のドアを開けた。階段を駆け下りながら、リビングに向かって声を張る。
「お母さーん、ちょっと隣の駅まで行ってくる! ついでになんか買ってくるものとかある?」
台所からお母さんが顔を覗かせた。
「えっ、本当? お使いたのんでもいいかしら」
「うん、全然大丈夫!」
「ありがとう! じゃあ駅前のスーパーで、この調味料と牛乳買ってきてくれる? おつりはそのままお小遣いにしていいわよ」
「やったぁ! ありがと、いってきまーす!」
財布とエコバッグを掴み、スニーカーを引っ掛けて家を飛び出す。
夕方の少し冷たい風が頬をかすめていく。
彼と同じストラップ。彼が食べていたチョコレート。
それを手に入れたからって、彼に話しかける勇気なんて、きっと明日になっても出ない。学校ですれ違っても、私はその他大勢の生徒の一人として、ただ小さく会釈をするだけだ。
声を掛けることも、目が合うことも、きっとこの先ないかもしれない。
だけど、ペダルを漕ぐ足は驚くほど軽い。
彼の好きなものを知って、同じ世界を少しだけ追いかけている。
それだけで、今の私はどうしようもないくらい、幸せだ。




